放蕩者と誤解されて追放された王子ですが、可愛い弟妹達の為に、陰ながら世直しします!

世界

文字の大きさ
58 / 70
第六章

第五十三話 忠誠の在処

しおりを挟む
 ロードリックの鋭い気迫が、その場を支配した。
 誰もが緊張し、その場を動けない。

 ただ一人、ウォルフを除いては。

「そう言うと思ったよ、それでこそロードリックだ。だが、俺もここで引くわけにはいかない。母上もボルド様も、そして民達も見捨てるような真似はしない、絶対に」

 ウォルフは背にかけていた大剣を外し、静かに構える。
 しかし、真っ先に動いたのはミリアンだった。

「だ、団長!?何やってんだよ!そんな事やってる暇はねーだろ!?」

「黙っていろ、ミリアン。…すぐ終わる。俺達は王国騎士団だ、王に仕える者として、は決めなければならない」

 その言葉に、ミリアンは何も言えず押し黙った。ロードリックは試そうとしている。
 ウォルフの実力をではなく、ウォルフとウッツ、どちらが王に相応しいのか?どちらが着いて行くべき王なのか?を。
 それが解ったからこその沈黙だった。

 彼らとて、内心ではウッツが正しいとは思っていないのだろう。
 元々ウォルフを慕う者達が多い騎士団だが、それを除いても、最近のウッツの言動はあまりにもおかしかった。
 今のウッツが、本当に忠誠を誓うべき王なのか迷っている。それが正直な所だろう。

 そしてこの決闘が、苦心の上での折衷案であると、ウォルフには痛い程よく解っている。
 ロードリックという男の性格から言って、本来であれば、この場でウォルフを問答無用に斬り殺していてもおかしくはない。
 忠誠か己の死かと問われれば、迷わず死を選ぶ、それがロードリックだ。

 だからこそ、乗るつもりは毛頭なかった。

「ロードリック。俺は、王家に忠誠を誓ってくれるお前のその心には、本当に感謝しているんだ。だからこそ、お前を死なせるつもりはない」

「戯言だな…既に王家から追放されたお前に感謝などされる覚えはない。…そもそも、ならば何故舞い戻ってきた?お前の存在は王家を揺るがす元凶でしかない。そんなものを、俺が許すと思ったか?」

「まさか。さっきも言ったが、お前ならそうすると思っていたさ。その上で俺はここにいるんだ」

「舐められたものだ…!」

 歯を食いしばり、ロードリックは怒りの形相をみせた。
 それでも決して冷静さを失わず、力を溜めて、ただひたすらにボルテージを上げていく。
 いつもなら飄々としているアイテールでさえも、ロードリックのプレッシャーに圧されているようだ。

「もう一度だけ聞く…引く気はないのだな?」

「ああ、俺は逃げない。お前からも、父の存在からもな…!」

 それが合図となって、二人は剣を振るった。
 上段から一気に振り下ろされたロードリックの剣を、ウォルフは自らの剣で受けるでも弾くでもなく、その威力と速度を上回る力で切断し、そのまま彼の首筋を捉えた。
 ピタリと首筋で止まったウォルフの剣に、ロードリックの血がわずかに垂れる。
 まさに一瞬の出来事であった。

 ロードリック程の達人が放つ一撃を超えて、その剣だけを斬るというのは並の芸当ではない。
 通常であれば、打ち合って鍔迫り合いになるか、弾き合って二の太刀へと続くだろう。
 だが、ウォルフはそれすらもさせなかった。この場の誰もがに圧倒的な実力差を見せつけた形だ。

「ふ、わずか二カ月の間に、ずいぶんと腕を上げたものだ。宣言通り、俺を殺さずに勝つとはな。…行け、もう邪魔をするつもりはない、ヴェロニカ様もボルド様も、まだ処刑されてはいないはずだ」

「ロードリック…ありがとう。市民を頼む!」

「ああ…待て、忠告しておく。王城の警備には騎士団の半数があたっているが、カサンドラに気をつけろ。アイツはもう以前のアイツじゃない。お前を見たら何をしでかすか解らん、危険な状態だ。他の連中は、お前の言う事なら聞くだろうが…くれぐれも注意しろ」

 神妙な面持ちで、ロードリックは言った。その声にはわずかに躊躇いがあるようだった、ロードリックをしてそこまで言わせるとは、カサンドラはどういう状態に陥っているのか、ウォルフは肝を冷やしながらロードリックに頭を下げた。

「よし…皆、行こう!」

 駆け出すウォルフ達の背中に、ミリアンが大声で叫ぶ。

「こっちが終わったらアタシらも行く!気をつけろよー!」

 ウォルフは少し驚きながら、ぎこちなく手を振って、その場を後にするのだった。

 ロードリック達と別れてしばらくして、ウォルフ達は王宮へ向かう跳ね橋の袂に到着した。
 本来であれば、暴動が起こっている以上、この橋も下げられているはずだが、跳ね橋は降りたままだ。
 ミリアンに聞いた情報では、既に一部の諸侯達の兵が、王宮や王城に入り込んでいるらしい。
 
 急いで王城へ向かおうとした時、跳ね橋を渡った所に、倒れている人間がいる。

「セドリック?!どうしてここに…大丈夫か?リヒャルトはどうした?」

 近寄ってみれば、それは前騎士団長で、ロードリックの父セドリックであった。
 彼はリヒャルトの護衛騎士のはずだが、何故こんな場所で独り倒れているのだろう。
 かなりの大怪我を負っていて、息はあるが意識はない。
 すぐさまセヴィが回復魔法で治療をしていると、王城の方から、何人かの人影が近づいてくるのが見えた。

「あれは、イーリスの生体兵器…ということは」

「!皆、伏せろ!」

 アイテールの声にわずかに遅れて、魔導連弩の槍が飛来した。
 ウォルフが動けないセヴィを庇おうとした時、ヴァレイが二人の前に立って、その槍を受け止めた。

「ヴァレイ!」

「問題ありません、障壁の展開が間に合いました。それよりも、敵が来ます。警戒を、マスター」

 ヴァレイが見据える先には、黒ずくめの生体兵器たちが群れを成して近づいてくる。
 以前、ウォルフ達を襲った時とは比べ物にならない数だ。
 ざっと見ただけでも、その数100体はくだらないだろう。
 驚くべき数の生体兵器を前に、ウォルフ達は息を呑む。

 そしてウォルフ達を取り囲む彼らを割って現れたのは、さらに驚くべき相手であった。

「フフ、ようやくきたわね、君達。久しぶりね、ウォルフ。元気そうでなによりだわ」

「シャルロッテ王妃…」

 第一王妃、シャルロッテ。
 全身に眩いばかりの黄金のドレスを身に纏い、またそれに負けない程に輝く金髪と美貌の持ち主は、まさにウッツの愛した王妃その人であった。
 シャルロッテはにこやかに笑いながら、右手を振り上げ、従えた生体兵器達を傅かせてみせた。

「貴方がいなくなって、カサンドラはずいぶん変わってしまったわ。まったく仕方のない子ね」

 美しい笑顔とは裏腹に、ゾッとするほど冷たい声でシャルロッテは嗤う。
 一方で、ウォルフ達を見つめる瞳にはありありと殺意が宿っているのが感じ取れた。

「マスター、彼女は…」

 言いかけたヴァレイを制止し、ウォルフは静かに口を開く。

「シャルロッテ様、何故ここに?この者達は?」

「ああ、彼らはウッツ様から貸し与えられた兵士達よ。とても素晴らしい実力の持ち主たちなの。安心なさい、ヴェロニカ解放を謳って侵入してきた賊は、全て彼らが撃退したわ。役に立たない騎士団なんかよりよっぽど使えるわね」

 それを聞き、ウォルフは苦笑しながら彼女の言葉を否定した。
 もはや彼女の言葉は、聞くに堪えない妄言だ。

「白々しい…それがお前の目的だったか、イーリス。いい加減、お前の茶番には飽き飽きだ。お前は、諸侯らの兵をこいつらに食わせる為に、反乱を手引きしたんだな」

「アッハハハハ!さすがだね、ウォルフ!気付いていたか。いや、そこのゴーレムが教えたのかい?そうさ、反乱を手引きしたのはこの私だ。アンジェロとかいう小僧を利用してね。ククク…」

 シャルロッテの美しい笑顔は、狂気に醜く歪み、やがてモザイクのようにあちこちが入れ替わった。
 それが治まった時に現れたのは、やはり、あのダークエルフイーリスであった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

本物の聖女じゃないと追放されたので、隣国で竜の巫女をします。私は聖女の上位存在、神巫だったようですがそちらは大丈夫ですか?

今川幸乃
ファンタジー
ネクスタ王国の聖女だったシンシアは突然、バルク王子に「お前は本物の聖女じゃない」と言われ追放されてしまう。 バルクはアリエラという聖女の加護を受けた女を聖女にしたが、シンシアの加護である神巫(かんなぎ)は聖女の上位存在であった。 追放されたシンシアはたまたま隣国エルドラン王国で竜の巫女を探していたハリス王子にその力を見抜かれ、巫女候補として招かれる。そこでシンシアは神巫の力は神や竜など人外の存在の意志をほぼ全て理解するという恐るべきものだということを知るのだった。 シンシアがいなくなったバルクはアリエラとやりたい放題するが、すぐに神の怒りに触れてしまう。

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。

向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。 それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない! しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。 ……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。 魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。 木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました

かにくくり
ファンタジー
 魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。  しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。  しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。  勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。  そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。  相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。 ※小説家になろうにも掲載しています。

処理中です...