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うつつ5
三
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結局、机を買わずに帰ることになった。
車に乗り込んだあと「他のお店もみてみたら?」とひかりは声をかけたが、「また後日、つきあって」と言われた。
ひかりが謝ると「自分が寄り道したのが悪い」と申し訳なさそうな顔で返された。
「先生の言ってたとおりだ」
亮の言葉が気になる。
「ひかりは体力がないから、きっと、自分がいない間家に閉じこもっているはずだ。このままでは心配だって」
毎日、家事を少しするだけだ。後は、ソファに座ってWEB小説を読んでいれば、こうなってしまう。
「連れ出すように頼まれたから、少しずつ良くなるよ」
病人のような言われかただと思った。
「俺にしたら、大阪も京都も、わからないことに変わりはないけど、とりあえず、京都に戻る?」
ひかりも近所のことしかわからない。
「帰る前に、少し、海がみたいかな」
ひかりも亮も港町で育った。
「車に乗っておく分には平気か?」
足腰が痛くて歩き回れないだけだ。頷く。
亮は、ひかりに海を見せるために、スマートフォンで調べはじめた。画面を見ながら考え込んでいる。
「この辺りは埋め立て地だから、砂浜はないなあ」
言われるまで考えたこともなかった。海をみたいという衝動が消える。ひかりがどんな景色を見たかったのかを、理解してくれているのがわかる。
「ごめん、今日はやっぱりもういいわ」
「そうか、海はまた別で……」
ひとまず、京都方面へ車を走らせることになった。
高速が混んでいて、行きよりは時間がかかりそうだと言われた。日も暮れて、派手な看板が光を放ち始めた。京都ではなかなか見かけない存在感だ。
結局、夕食もサービスエリアのフードコートですませた。
助手席に座っているだけなのに、京都へ着くまでにも、まともに頭が回らなくなるほど疲労していた。
「本当にごめんな」
「和明さんに言われたんでしょう」
ひかりも、亮になら多少のわがままが言える。だが、相手が和明となると、たとえ不満があっても従うしかない。それに今日のことはひかりの体力の問題だ。
家に帰り着いた。
考えれば、亮は今日ここに引っ越してきたばかりだ。あらかじめ届いた荷物はそう多くなかったが、それでも整理する時間もいるだろう。
こんな日に遠出をしなくても良かったのにとひかりは思う。
「机を用意しないと資料を整理できないから、早くどうにかしないとな」
和明の考え通り、机の購入は最優先らしい。
「今日のところは機能的でいいとは思ったけど、俺のものって感じが足りなくて」
和明はそういうところには何の拘りもないような気がする。このマンションを買ったときも車を買ったときも、紙に書かれた情報だけでほぼ選んだ。
亮を部屋に案内した。
「ベッドは、和明さんが……」
あの時は、変に拘って探していた。
「そうなんだ。頑丈そうでデザインも個性的だな」
亮は気に入ったようだ。
亮を部屋に残して、リビングに出る。もう10時を回っているのに、和明は帰ってこない。
ソファに座り、一応は、スマホを確認してみる。WEB小説の更新通知が来ているだけだった。
全身が重かった。立ち上がる気力もわかない。
亮が出てきた。
「疲れてるだろう。先生は最終近くなるって」
なぜ、亮に連絡するのだろうとひかりは不満を感じた。
「風呂、用意するし、先に寝たらいいよ」
自分でと言いかけたが、亮はすぐにバスルームの方へ行ってしまった。
亮は、うちの給湯設備をもうマスターしたようだ。
「コーヒーもらってもいいか?」
亮に訊かれた。
「待ってね」
立ち上がろうとしたら、肩を押さえられた。
「この間みてたから、自分でできる。ひかりはいらないだろう?」
頷く。
着替えを取りに行くように言われた。素直に従う。
今、ベッドに横になれば、沈むようにして眠りに落ちる自信があった。
寝室に入ると冷え切っていた。軽く身震いをする。少し部屋を暖めておこうと思い、エアコンをつけた。替えの下着などを持って、バスルームに向かう。
亮は、リビングのソファに座って、分厚い本を読んでいる。コーヒーの良い香りがしている。
着替えを胸に抱え込んで、前を通り過ぎる。声をかけた方がいいのか判断に迷って、通り過ぎる間際に「お先です」と呟いた。亮は「どうぞ」と返してきた。
車に乗り込んだあと「他のお店もみてみたら?」とひかりは声をかけたが、「また後日、つきあって」と言われた。
ひかりが謝ると「自分が寄り道したのが悪い」と申し訳なさそうな顔で返された。
「先生の言ってたとおりだ」
亮の言葉が気になる。
「ひかりは体力がないから、きっと、自分がいない間家に閉じこもっているはずだ。このままでは心配だって」
毎日、家事を少しするだけだ。後は、ソファに座ってWEB小説を読んでいれば、こうなってしまう。
「連れ出すように頼まれたから、少しずつ良くなるよ」
病人のような言われかただと思った。
「俺にしたら、大阪も京都も、わからないことに変わりはないけど、とりあえず、京都に戻る?」
ひかりも近所のことしかわからない。
「帰る前に、少し、海がみたいかな」
ひかりも亮も港町で育った。
「車に乗っておく分には平気か?」
足腰が痛くて歩き回れないだけだ。頷く。
亮は、ひかりに海を見せるために、スマートフォンで調べはじめた。画面を見ながら考え込んでいる。
「この辺りは埋め立て地だから、砂浜はないなあ」
言われるまで考えたこともなかった。海をみたいという衝動が消える。ひかりがどんな景色を見たかったのかを、理解してくれているのがわかる。
「ごめん、今日はやっぱりもういいわ」
「そうか、海はまた別で……」
ひとまず、京都方面へ車を走らせることになった。
高速が混んでいて、行きよりは時間がかかりそうだと言われた。日も暮れて、派手な看板が光を放ち始めた。京都ではなかなか見かけない存在感だ。
結局、夕食もサービスエリアのフードコートですませた。
助手席に座っているだけなのに、京都へ着くまでにも、まともに頭が回らなくなるほど疲労していた。
「本当にごめんな」
「和明さんに言われたんでしょう」
ひかりも、亮になら多少のわがままが言える。だが、相手が和明となると、たとえ不満があっても従うしかない。それに今日のことはひかりの体力の問題だ。
家に帰り着いた。
考えれば、亮は今日ここに引っ越してきたばかりだ。あらかじめ届いた荷物はそう多くなかったが、それでも整理する時間もいるだろう。
こんな日に遠出をしなくても良かったのにとひかりは思う。
「机を用意しないと資料を整理できないから、早くどうにかしないとな」
和明の考え通り、机の購入は最優先らしい。
「今日のところは機能的でいいとは思ったけど、俺のものって感じが足りなくて」
和明はそういうところには何の拘りもないような気がする。このマンションを買ったときも車を買ったときも、紙に書かれた情報だけでほぼ選んだ。
亮を部屋に案内した。
「ベッドは、和明さんが……」
あの時は、変に拘って探していた。
「そうなんだ。頑丈そうでデザインも個性的だな」
亮は気に入ったようだ。
亮を部屋に残して、リビングに出る。もう10時を回っているのに、和明は帰ってこない。
ソファに座り、一応は、スマホを確認してみる。WEB小説の更新通知が来ているだけだった。
全身が重かった。立ち上がる気力もわかない。
亮が出てきた。
「疲れてるだろう。先生は最終近くなるって」
なぜ、亮に連絡するのだろうとひかりは不満を感じた。
「風呂、用意するし、先に寝たらいいよ」
自分でと言いかけたが、亮はすぐにバスルームの方へ行ってしまった。
亮は、うちの給湯設備をもうマスターしたようだ。
「コーヒーもらってもいいか?」
亮に訊かれた。
「待ってね」
立ち上がろうとしたら、肩を押さえられた。
「この間みてたから、自分でできる。ひかりはいらないだろう?」
頷く。
着替えを取りに行くように言われた。素直に従う。
今、ベッドに横になれば、沈むようにして眠りに落ちる自信があった。
寝室に入ると冷え切っていた。軽く身震いをする。少し部屋を暖めておこうと思い、エアコンをつけた。替えの下着などを持って、バスルームに向かう。
亮は、リビングのソファに座って、分厚い本を読んでいる。コーヒーの良い香りがしている。
着替えを胸に抱え込んで、前を通り過ぎる。声をかけた方がいいのか判断に迷って、通り過ぎる間際に「お先です」と呟いた。亮は「どうぞ」と返してきた。
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