感じさせて……。

紫倉 紫

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うつつ5

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「普段遠くに連れて行けないからって言ってた」
 遠くどころか、ほとんど一緒にでかけない。
「先生と、ひかりってさあ」
 亮が言いかけてやめた。何を言おうとしたのだろう。
「いや、そうだろうなあ。頻繁に学外へ出るから泊まりでもない限りいちいち言わないよな」
 ひかりは、そんなに出張があるものとは思っていなかった。和明の仕事に関心がなく詮索しないから、側に置いてもらえているのかもしれないと思った。
「ひかりが寂しいってわかってても、どうしようもないんだろうな」
 和明は亮の目から見ても忙しいらしい。
「俺は、プライベートはプライベートで確保できないと嫌だからな‥…」
 もともと、和明は研究に人生を捧げるつもりでいたと思う。
 亮は京都へ来たばかりなのに、カーナビにも頼らずすんなりと走る。住んでいる辺りとはずいぶん様子が違う。道路が広く、道沿いに大きな看板が立っていたりする。
「まあ、子供の頃はこんな風にひかりと車で出かけるなんてできなかったから楽しいし、先生にもあちこち連れて行ってほしいって頼まれたし……」
 ひかりの知らないところで、和明と亮は結構話しているようだ。
「ひかり……今、幸せか?」
 唐突に訊かれて戸惑う。それでも「幸せ……」と返した。これがひと月ほど前なら、すんなり言えたかはわからなかった。 
 高速道路に入る。亮は口数が少なくなってきた。
 ひかりは、昨夜のことを思い返していた。最初からするために……いや、後始末をしたティッシュを放置するために、連れ出されたのかもしれない。
 わざわざ亮を家に住まわせて、自分のものだと見せつけたいのだとしても、つじつまが合わない気がする。
 今座っている助手席で、昨夜は和明と向かい合って……
 じわりと下腹部が熱を帯びる。足をさらに閉じる。
 脳裏に残る感覚を探す。
 次はいつ求めてくれるだろうか。
 亮に名前を呼ばれて我に返る。
「サービスエリアによって、昼ご飯を食べようか」
 ひかりは、頷いた。
 亮が隣にいるのに、和明との行為に付いて思いを巡らせていた。急に恥ずかしさがこみ上げる。
「ひかり……体調悪いのか?」
「大丈夫、お腹が空いてるだけ」
「後、二キロだからすぐ着くよ」
 亮が笑いながら言った。 
 サービスエリア内のレストランで月見そばを食べた。思っていたよりは味がよい。亮はカツ丼だった。
「ひとまず落ち着いた」
 それなりに満足したようだ。
「夜は、ここよりはちゃんとしたとこ……ま、大阪の店はほとんど知らないけどな」
 ひかりも知るはずがない。
「それよりひかり、水族館に寄らないか?」
 机を買いに来たはずなのに、なぜだろう。
「近くに大きな水族館があるって書いてあったから、急に行きたくなってさ。車を貸してほしいと俺からは言えないし、今日がチャンスかなと」
 大きなサメがいる水族館だろう。京都にも一応はあるが規模が違う。
「わかった。いいよ」
「付き合わせて悪いな」
 水族館には子供の頃に行ったきりだ。そのときも亮が一緒だった。
「ううん。なんだか久しぶりだから、すごくたのしみ」
 行くまでは、気分が高まっていた。巨大な水槽にいろいろな水の生き物が展示してあった。見て回っているうちに、ひかりは、歩き疲れてしまった。
 普段、家の中に閉じこもっているせいで、極端に体力がなかった。ひかりの様子に気づいて、亮はそうそうに切り上げてくれた。
 家具屋に行っても、端の方に座って待っていただけだった。
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