感じさせて……。

紫倉 紫

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うつつ5

十一

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 朝、和明はいつも通りの時間に出かけていった。亮は和明に車を借り、九時前には机を探しに出た。
 昨夜は、疲れとお酒のせいでぐっすりと眠った。あの後、和明と亮は何を話したのだろう。
 聞いていてもどうせわかりはしない。
 和明は十三時頃帰宅すると言っていた。昼食は和明と二人だ。何を作ろうかとひかりは考える。何を作ってもそれなりには喜んでくれる。
 昼食の用意の前に、WEB小説を読む。最近は、更新のたびには読むことができない。しおりをはさんであるものを、順に読む。『教授の実験室』のページ数が随分増えている。奥村の、言葉とは裏腹な配慮が本当に良い。
 主人公も少しずつ奥村を受け入れている気がする。未だに教授がどんな人物かは、悪趣味という以外何もわからない。
 お風呂のシーンは、自分の経験と重なって、頬が火照るほどだった。
 男の人が、自分の手の中で張り詰めていくことが嬉しいのは、本能の仕業なのだろう。小説を読んで、昨夜の熱が蘇る。ひかりは、自分の肩を抱きしめて目を閉じた。
 自分で触れても、感じない。
 主人公は言っていた。確かにそんな気はする。ひかりはセーターの裾からそっと手をいれてみる。ブラのアンダーに指先が触れる。かたい生地をほんの少し押し上げた。感覚を確かめるためだ。それでも躊躇われて、ひかりは手をセーターから出した。
 快感は、与えてもらうことでしか得られないのだろうか。小説に出てくるほどには感じたことがない。読者の気をひくために、大げさに書かれているだけなのかもしれない。
 読み進む。
 和明に甘えられたことはなかった。ひかりも、甘えてはいない気がする。小説の中の二人が少し、羨ましくなる。
 今夜、少しだけでも、触れてもらえるだろうか。
 体の芯にじわじわとしみ出すような熱が残っていた。
 深いため息をついた。
 ひかりは立ち上がりキッチンへと移動した。冷蔵庫をあけて中をみる。和明に訊けば、きっとうどんと返ってくる。食材を眺めているうちに急に親子丼が食べたくなった。ひかりは、材料が足りているか確認した。
 和明が帰ってくるまで、一時間近くある。
 それまでに、米は炊き上がる。和え物と味噌汁も作ることにした。
 
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