感じさせて……。

紫倉 紫

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うつつ5

十二

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和明が帰ってきたので、まずは昼食をとった。
 二人の食事はいつも静かだ。夫婦として過ごしてきた七年間でそうなったわけではなく、最初のうちからかわらない。
 ひかりは、この雰囲気が結構好きだった。
 食事が終われば、和明は書斎にこもるかもしれない。
 できるだけ、ゆっくりと食べるのがくせになっている。
「少し、昨日の話をきかせて」
 食べ終わった後、言われた。軽く片付けをし、コーヒーをいれた。
 和明はソファで待っていた。
 ソファの前のローテーブルに、コーヒーカップを並べる。京都へ来たばかりの頃購入した清水焼だった。濃褐色の液体がわずかに揺れている。
 昨日の話とは、亮といた間のことだろう。
 和明の隣に、少しだけ距離をとって腰掛けた。
 特別なことでもないのに、緊張していた。
 和明が、ひかりにぴったりと体を寄せて座り直した。
「喜多川君が、こちらへ着いてからのことを、順に話して」
 腕を、腰に回された。指先が骨盤の端にかかるようにして落ち着いた。
 思わず肩をすくめ、目を閉じる。
「喜多川君は、昼過ぎに着いたよね。それから?」
 和明が行くようにすすめたはずなのに、どうして訊いてくるのだろう。
「車で、大阪へ向かいました」 
「昼食は?」
「高速道路の途中で、サービスエリアに寄って軽く済ませました」
 夫の手が、セーターの中に入ってきた。鳩尾のあたりでとどまる。
「後は?」
 水族館へ行った。やましいことは何もないのに、言いよどんでしまう。
「どうした?」
 責められている気がしてきた。
「喜多川君から水族館に行ったときいているよ。どうして隠そうとしたのかな?」
「隠そうとは……」
 セータの中で、和明の手が動く。ブラを上にずらして、指で弄び始めた。
「楽しかったかい?」
 ひかりはどうにか頷いた。
「だけど……」
 和明の指がどう動いてるのかわからない。声が出るほどではないけれど、会話に集中できない。
「だけど?」
 ひかりは一度深く息を吐いた。
「疲れてしまって」
 和明が一度強く摘まんだ。
「そんなことじゃこれから体がもたないよ」
 一人、一緒に生活する相手が増えるだけで、そうかわるとは思えなかった。亮は自立しているだけでなく手伝ってくれる。
 和明はひかりから手を離すと、テーブルを押しのけた。
 コーヒーカップが軽く音を立てた。ソーサーに少し零れている。
 和明はソファーからおりて、ひかりの前に跪いた。
「セーターをまくり上げるんだ」
 和明はひかりを見上げながら言った。眼鏡の奥の目が冷たい。
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