感じさせて……。

紫倉 紫

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うつつ5

十四

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 ひかりは和明の傍らに置かれた下着から目を離せずにいた。亮の方を見ることができない。
 和明は下着を背中側に隠した。
 ひとまずほっとする。
「無理言って悪かったね。急に使うことになって」
 亮がひかりの隣まで来て、和明に車の鍵を渡した。
「間に合いますか?」
「まだ余裕がある」
 胸元が気になって落ち着かない。髪は、隠せるほどは長くない。
 亮に近い方の手を口元にあて、腕で見えにくいようにした。
「今から、コーヒーを飲もうとしていたんだよ。ひかり、喜多川君にも」
 和明がひかりを見上げて言う。
「僕も時間がないから、今すぐ」
 いったん、部屋に戻ることは許されない口調だ。
「はい」
 和明は、目を細めた。
 一人、キッチンに入る。
 和明は亮が帰ってくることを知っていたようだった。
 胸元を見る。
 この前よりもはっきりと、何も着けていないことがわかる。 
 どうするつもりなのかわからないが、今は、コーヒーをいれ戻るしかない。
 密閉瓶の蓋を開ける。コーヒーの香りが漂った。スプーンで一杯分を掬い、ペーパーフィルターについだ。
 先に入れた分はもう冷めているはずだ。後で温めなおして自分で飲めばいい。入れ直すことにした。新しくカップを出す。
 和明が様子を見にきた。
「私たちの分もいれなおしてるんです」
「それは嬉しい」
「あっ、時間は……大丈夫ですか?」
 和明が微笑む。
「気にしなくて良いよ。三十分ほどは、君たちと話したいからね」
 困る私を観察でもしたいのだろうか。
 ハッとした。和明がソファを離れここにいる。
「私の下着は?」
「あっ、そうだった」
 ひかりは息を止め口を両手でおさえた。
  和明が笑った。
「大丈夫だ。ここにあるよ」
 ニットのカーディガンのポケットが、不自然に膨らんでいる。
「あの……返して欲しいのですが」
「うん」とは言ってもらえなかった。
「後悔しないと言ったのは君だ」
 これが和明のしたいことなのか。ポケットか下着を出した。
「どちらか返そう」
「片方ですか」
「そうだ」
 ひかりは迷わずブラを選んだ。
「君は目の前の物しか見ない傾向にあるから、そちらを選ぶと思った」
 そう言われても、こちら以外考えられない。
 渡された。早速つける。
「最近のハイソックスは、ずいぶん長くなったね」
 ひかりは今日膝上まである『ニーハイ』をはいていた。
「タイツをはいているように見えた」
 背後で、湯が沸いたのがわかる。ブラをつけ終わった。
「知られてしまった方が楽な場合もあると、実感するといいよ」
 和明は言い残して、リビングへ戻っていった。 
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