感じさせて……。

紫倉 紫

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うつつ5

十六

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 和明はすぐに出掛けていった。玄関で見送ったあと、亮に軽く説明をし書斎に入った。
 書斎の壁は、窓と扉の位置以外は天井の高さまである本棚になっている。そのうち一面は完全に本で埋め尽くされ、他の面も結構な数の本が並べられている。
 メモを見て『金』で始まる本を探すことにした。棚に目を走らせすぐに金属で始まる本が多いことに気づいた。
 漢字の多い長いタイトルの本ばかりだ。同分野の専門書らしい。パッと見た感じ、全く同じタイトルに思えるものまである。間違い探しをするのに似ている。
 メモと照らし合わせながら、一冊一冊見ていくしかない。
 ひかりは部屋を出来る限り明るくした。
 本のタイトルを見ていくだけで、少しずつ和明のことを理解できる気がしてきた。
 濾過やフィルターという文字がよく出てくる。
 ひかりは夢中で本のタイトルを読んでいく。
 自分の背丈より高いところに差し掛かかった。本棚の脇にたたんで立て掛けてある脚立を出した。開くとひかりの腰までの高さだ。
 そこから先は、横へ横へ見るのではなく、上へ上へと見ていくことにした。 
 ひかりの背丈では、脚立を使っても一番上の棚を見るのが大変だった。首を伸ばして本を見ていく。
 部屋をノックする音が聞こえた。どのくらい経ったかわからない。和明が帰ってきたのかもしれないが、長くて亮が心配している可能性もある。
「今、出ます」
 脚立から下りようとしていると扉が開いた。亮が電話をしながら入ってきた。
 ひかりは慌ててバランスを崩した。
 ひかりは、次の瞬間には亮に支えられていた。
「危なかった」
 ひかりは脚立の段に足を中途半端に残したまま、完全に体重を預けていた。自分で体制を戻すのは難しい。
「先生から電話で、ひかりに代わるように言われて……今、スマホを落としてしまった」
 ひかりがあげた声が、和明に聞こえた可能性がある。
「拾わなきゃ」
「まず、ひかりをどうにかしないとな」
 亮からしっかりつかまるように言われた。腰を両側から支えてくれる。体が浮いた。つい亮の首に回した腕に力が入る。
 和明よりも体に厚みがあると、ひかりは思った。自分が使っている洗剤とは違う香りがする。
 床に下ろしてもらった途端に足に痛みが走る。
 少しバランスを崩した。また亮に支えられる。
 アクシデントとはいえ、亮と向き合い、体を寄せ合う形になってしまった。
「ありがとう、もう大丈夫」
「うん、電話を拾うな」
 亮が、机の脇にまで飛んだスマートフォンを拾い上げる。
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