感じさせて……。

紫倉 紫

文字の大きさ
71 / 157
うつつ5

二十三

しおりを挟む
  教授は、力づくでねじ込もうとする。足踏まずの辺りを強く握られて痛かった。
「シンデレラのワンシーンのようだね」
 和明が、珍しく冗談を言ったけれど、笑える状態ではなかった。
 なぜ履く必要があるのか。それもわからずにいる。だいたい、家の中で靴を履くことに抵抗がある。
「履かなければなりませんか?」
「当たり前だろう」
 教授は、少し苛立っているようだ。
「履き替えてきますから」
「そうしてくれたまえ」
 放してくれた。とにかく、寝室へ行こうとしていた。
「ストッキングだけ……」
 和明の前を通り過ぎるとき、声を掛けられた。
「……にしたらいい」
 何を言いたいのかはわかる。ひかりは、頷いた。
 寝室に入る。空気が冷えていて、軽く身震いする。タンスからストッキングを、取り出す。
 教授は既に苛立っていた。待たせるわけには行かないので、すぐにはきかえた。ストッキング一枚に守られても、あまり状態はかわらない。
 リビングに戻る。
「お待たせしました」
「実に美しい脚だ。さあ、早くハイヒールを」
 教授から、靴を受け取る。
 久しぶりなので、履いただけでふくらはぎが張りそうだ。
「中央で、少しだけ足を開いて立ってもらおう」
 言われた通りにする。
 教授が、胸と胸が合わさりそうな距離でひかりの正面に立った。  
 元々、小柄な教授とは和明や亮ほど身長差がない。顔の高さが近かった。男性用の整髪料のにおいと、微かだが、ワインの香りがしている。
 落ち着かず、何回も瞬きをしてしまう。
「緊張せずに」
 教授が、ひかりの腰に手のひらを添えた。
 腰を両側から挟んで、力を加えられた。
「こころなしか重心を右に」
 よくわからないまま、右足に体重をかけた。
「そのままで」
 教授は、ひかりの前にしゃがんだ。スカートの裾に少し手を入れ、内側から左足の膝に触れた。
 体が強ばる。顔を横に向けてかずあきをみた。無表情だった。
「つま先を外側に伸ばすようにして」
 声をかけられたので、教授に視線を落とした。地肌の透けた頭頂部が、シーリングライトを反射している。
 教授は、膝から下へふくらはぎの内側を撫でおろしていく。
 体重をかけている右足がかすかに震えた。足首を握られた。わずかに外側へひねらされる。足の甲をまっすぐ伸ばすように言われた。
 教授は立ち上がるとひかりの脇側に立ち、鳩尾に手の平を当てた。背中にも手をあて、前側から押してきた。バランスを崩しそうになったが、背中を支えられる。
 こころなしか、背を後ろにそらす姿勢をとらされた。
「このままの角度を保って」
 思わず「無理です」と返してしまった。
「ダンスは、姿勢を保つことから始まる」
 言われてみると、確かにダンスの立ち方に近かった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

処理中です...