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うつつ5
二十三
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教授は、力づくでねじ込もうとする。足踏まずの辺りを強く握られて痛かった。
「シンデレラのワンシーンのようだね」
和明が、珍しく冗談を言ったけれど、笑える状態ではなかった。
なぜ履く必要があるのか。それもわからずにいる。だいたい、家の中で靴を履くことに抵抗がある。
「履かなければなりませんか?」
「当たり前だろう」
教授は、少し苛立っているようだ。
「履き替えてきますから」
「そうしてくれたまえ」
放してくれた。とにかく、寝室へ行こうとしていた。
「ストッキングだけ……」
和明の前を通り過ぎるとき、声を掛けられた。
「……にしたらいい」
何を言いたいのかはわかる。ひかりは、頷いた。
寝室に入る。空気が冷えていて、軽く身震いする。タンスからストッキングを、取り出す。
教授は既に苛立っていた。待たせるわけには行かないので、すぐにはきかえた。ストッキング一枚に守られても、あまり状態はかわらない。
リビングに戻る。
「お待たせしました」
「実に美しい脚だ。さあ、早くハイヒールを」
教授から、靴を受け取る。
久しぶりなので、履いただけでふくらはぎが張りそうだ。
「中央で、少しだけ足を開いて立ってもらおう」
言われた通りにする。
教授が、胸と胸が合わさりそうな距離でひかりの正面に立った。
元々、小柄な教授とは和明や亮ほど身長差がない。顔の高さが近かった。男性用の整髪料のにおいと、微かだが、ワインの香りがしている。
落ち着かず、何回も瞬きをしてしまう。
「緊張せずに」
教授が、ひかりの腰に手のひらを添えた。
腰を両側から挟んで、力を加えられた。
「こころなしか重心を右に」
よくわからないまま、右足に体重をかけた。
「そのままで」
教授は、ひかりの前にしゃがんだ。スカートの裾に少し手を入れ、内側から左足の膝に触れた。
体が強ばる。顔を横に向けてかずあきをみた。無表情だった。
「つま先を外側に伸ばすようにして」
声をかけられたので、教授に視線を落とした。地肌の透けた頭頂部が、シーリングライトを反射している。
教授は、膝から下へふくらはぎの内側を撫でおろしていく。
体重をかけている右足がかすかに震えた。足首を握られた。わずかに外側へひねらされる。足の甲をまっすぐ伸ばすように言われた。
教授は立ち上がるとひかりの脇側に立ち、鳩尾に手の平を当てた。背中にも手をあて、前側から押してきた。バランスを崩しそうになったが、背中を支えられる。
こころなしか、背を後ろにそらす姿勢をとらされた。
「このままの角度を保って」
思わず「無理です」と返してしまった。
「ダンスは、姿勢を保つことから始まる」
言われてみると、確かにダンスの立ち方に近かった。
「シンデレラのワンシーンのようだね」
和明が、珍しく冗談を言ったけれど、笑える状態ではなかった。
なぜ履く必要があるのか。それもわからずにいる。だいたい、家の中で靴を履くことに抵抗がある。
「履かなければなりませんか?」
「当たり前だろう」
教授は、少し苛立っているようだ。
「履き替えてきますから」
「そうしてくれたまえ」
放してくれた。とにかく、寝室へ行こうとしていた。
「ストッキングだけ……」
和明の前を通り過ぎるとき、声を掛けられた。
「……にしたらいい」
何を言いたいのかはわかる。ひかりは、頷いた。
寝室に入る。空気が冷えていて、軽く身震いする。タンスからストッキングを、取り出す。
教授は既に苛立っていた。待たせるわけには行かないので、すぐにはきかえた。ストッキング一枚に守られても、あまり状態はかわらない。
リビングに戻る。
「お待たせしました」
「実に美しい脚だ。さあ、早くハイヒールを」
教授から、靴を受け取る。
久しぶりなので、履いただけでふくらはぎが張りそうだ。
「中央で、少しだけ足を開いて立ってもらおう」
言われた通りにする。
教授が、胸と胸が合わさりそうな距離でひかりの正面に立った。
元々、小柄な教授とは和明や亮ほど身長差がない。顔の高さが近かった。男性用の整髪料のにおいと、微かだが、ワインの香りがしている。
落ち着かず、何回も瞬きをしてしまう。
「緊張せずに」
教授が、ひかりの腰に手のひらを添えた。
腰を両側から挟んで、力を加えられた。
「こころなしか重心を右に」
よくわからないまま、右足に体重をかけた。
「そのままで」
教授は、ひかりの前にしゃがんだ。スカートの裾に少し手を入れ、内側から左足の膝に触れた。
体が強ばる。顔を横に向けてかずあきをみた。無表情だった。
「つま先を外側に伸ばすようにして」
声をかけられたので、教授に視線を落とした。地肌の透けた頭頂部が、シーリングライトを反射している。
教授は、膝から下へふくらはぎの内側を撫でおろしていく。
体重をかけている右足がかすかに震えた。足首を握られた。わずかに外側へひねらされる。足の甲をまっすぐ伸ばすように言われた。
教授は立ち上がるとひかりの脇側に立ち、鳩尾に手の平を当てた。背中にも手をあて、前側から押してきた。バランスを崩しそうになったが、背中を支えられる。
こころなしか、背を後ろにそらす姿勢をとらされた。
「このままの角度を保って」
思わず「無理です」と返してしまった。
「ダンスは、姿勢を保つことから始まる」
言われてみると、確かにダンスの立ち方に近かった。
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