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うつつ5
二十二
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大皿にならべたクラッカーの穴をぼんやり眺めていた。
「ひかり、どうした?」
亮が、キッチンの入り口に立っている。
「飲み過ぎた? 顔色悪い」
ひかりは、大皿を手に持った。
「大丈夫、考えごとしてただけ」
教授が腕を掴んで来たとは、言い出せなかった。
ダイニングに戻ると、和明と教授は、何か話していた。
つい、和明の横顔をじっとみてしまう。
和明が、ひかりに顔を向け、微笑んだ。
「これからだよ」
何かされるのか……。
「桐野くんは、飲まないのに付き合わせて悪いがね。今夜は実に気分がいい」
いつのまにか、白ワインもあけていた。
「白も、一杯くらいは飲むといい」
和明に言われる。
そう強くはない。やめておいた方がいいかもしれない。
「実に、飲みやすいワインですよ」
教授にすすめられてしまった。
「少しだけ……」
亮が別のワイングラスを出して、注いでくれた。
ひかりの母親が、「和明さんはいずれ教授になるのだから」と用意してくれた食器の数々だったが、今までほんとんど使うことはなかった。
確かに飲みやすいワインだ。
ひかりは、意識して少しずつ飲んだ。
教授の話は、何も理解できないが、和明は、楽しそうにみえる。亮は遠慮をしているのか、話に入らない。それでも関心のあることらしく、時々、深く頷く。
和明にコーヒーを、頼まれ席を立った。亮もほしいと言っている。教授が「おかまいなく」と、右手をあげた。
「君たちが、コーヒーを飲んでいる間に、細君を借りるよ」
教授が和明に話しかけた。
さっき言っていた『お相手』かもしれない。
「彼女は、ご希望にはかなわないと思われますが……」
和明は、わかった上で、庇おうとしてくれているのだろう。
「やってみる前に決めつけるのは、実に良くない」
和明は、それ以上何も言わなかった。亮が、和明の方をみている。常識の範囲内ではあるはずだ。それでも、不安は拭えない。
ひとまず、コーヒーを入れにたつ。
また、教授が来そうで、背後が気になってしまう。
二人分の湯を沸かすのに時間はかからない。すぐに入れ終わり、ダイニングへ戻った。
三人が、リビングスペースに移っていた。ソファとテーブルが端の方に寄せられ、中央に引いてあったラグも剥がして丸めてある。
ひかりが立ち尽くしていると、和明が「ダイニングテーブルに置いてくれたらいいよ」と声をかけて来た。
ひとまず、コーヒーを置く。
教授はリビングスペースの中央に立ち、ひかりに手招きをした。
和明に視線を向けると、微笑みながら頷いた。
「奥さん、ハイヒールはお持ちかな?」
突然の質問に戸惑う。
「7センチほどが理想だが、それ以下でも構いませんよ」
滅多に履きはしないが、持っている。
教授は、和明に取ってくるように指示をした。
ソファにかけるよう、言われる。
和明が、白いハイヒールを持って戻って来た。結婚式で履いただけの靴だ。
教授は、ひかりの正面に跪き、足首を持った。軽く持ち上げられる。思わず、膝のあたりでスカートを押さえる。教授は、ひかりにハイヒールを履かそうとしている。
「厚手のタイツでは、サイズが合わないね。脱いでもらおう」
ひかりは、和明に助けを求めて視線を送った。
「少しきついだけで、はいるでしょう」
和明が一応は助け舟を出してくれた。
「ひかり、どうした?」
亮が、キッチンの入り口に立っている。
「飲み過ぎた? 顔色悪い」
ひかりは、大皿を手に持った。
「大丈夫、考えごとしてただけ」
教授が腕を掴んで来たとは、言い出せなかった。
ダイニングに戻ると、和明と教授は、何か話していた。
つい、和明の横顔をじっとみてしまう。
和明が、ひかりに顔を向け、微笑んだ。
「これからだよ」
何かされるのか……。
「桐野くんは、飲まないのに付き合わせて悪いがね。今夜は実に気分がいい」
いつのまにか、白ワインもあけていた。
「白も、一杯くらいは飲むといい」
和明に言われる。
そう強くはない。やめておいた方がいいかもしれない。
「実に、飲みやすいワインですよ」
教授にすすめられてしまった。
「少しだけ……」
亮が別のワイングラスを出して、注いでくれた。
ひかりの母親が、「和明さんはいずれ教授になるのだから」と用意してくれた食器の数々だったが、今までほんとんど使うことはなかった。
確かに飲みやすいワインだ。
ひかりは、意識して少しずつ飲んだ。
教授の話は、何も理解できないが、和明は、楽しそうにみえる。亮は遠慮をしているのか、話に入らない。それでも関心のあることらしく、時々、深く頷く。
和明にコーヒーを、頼まれ席を立った。亮もほしいと言っている。教授が「おかまいなく」と、右手をあげた。
「君たちが、コーヒーを飲んでいる間に、細君を借りるよ」
教授が和明に話しかけた。
さっき言っていた『お相手』かもしれない。
「彼女は、ご希望にはかなわないと思われますが……」
和明は、わかった上で、庇おうとしてくれているのだろう。
「やってみる前に決めつけるのは、実に良くない」
和明は、それ以上何も言わなかった。亮が、和明の方をみている。常識の範囲内ではあるはずだ。それでも、不安は拭えない。
ひとまず、コーヒーを入れにたつ。
また、教授が来そうで、背後が気になってしまう。
二人分の湯を沸かすのに時間はかからない。すぐに入れ終わり、ダイニングへ戻った。
三人が、リビングスペースに移っていた。ソファとテーブルが端の方に寄せられ、中央に引いてあったラグも剥がして丸めてある。
ひかりが立ち尽くしていると、和明が「ダイニングテーブルに置いてくれたらいいよ」と声をかけて来た。
ひとまず、コーヒーを置く。
教授はリビングスペースの中央に立ち、ひかりに手招きをした。
和明に視線を向けると、微笑みながら頷いた。
「奥さん、ハイヒールはお持ちかな?」
突然の質問に戸惑う。
「7センチほどが理想だが、それ以下でも構いませんよ」
滅多に履きはしないが、持っている。
教授は、和明に取ってくるように指示をした。
ソファにかけるよう、言われる。
和明が、白いハイヒールを持って戻って来た。結婚式で履いただけの靴だ。
教授は、ひかりの正面に跪き、足首を持った。軽く持ち上げられる。思わず、膝のあたりでスカートを押さえる。教授は、ひかりにハイヒールを履かそうとしている。
「厚手のタイツでは、サイズが合わないね。脱いでもらおう」
ひかりは、和明に助けを求めて視線を送った。
「少しきついだけで、はいるでしょう」
和明が一応は助け舟を出してくれた。
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