感じさせて……。

紫倉 紫

文字の大きさ
77 / 157
ゆめ5

しおりを挟む
「あまり長く浸かると、体力を消耗するな」
 奥村さんが放してくれた。先に上がるように言われた。
「服はもう着なくて良いから、タオルでも巻いて待っとけ」
 15分何かをして、またお風呂に入って……その後も15分だろうか。
 さっきので、ドキドキしすぎて、少し疲れてしまった。
 私は、体をひねって奥村さんを見た。
「あの、奥村さん……」
「なんだ?」
「あがるから、目をつぶっておいてくれますか?」
 仕方ないなあという顔をして、奥村さんが頷いた。
 言いたいことはわかっている。どうせ、見られた後だ。
「俺の体を拭くとき、目をつぶるのはかまわないが、ちゃんとしろよ」
「私が拭くんですか」
「俺は、一応、片手が使えない不便な設定だしな」
 さっきから自由に使っているくせに。
「そんなことで狼狽えてたら、身がもたないぞ」
 さっきさせられたこと以上の何かがあるんだろうか。
「今日で、まあ、ほとんどのハードルは越える」
 濡れた前髪が、目元にかかっている。意地悪な顔で笑っているのに、目が離せなかった。
 もう、覚悟はできている。
 数日後には、さっき触った……。
 指ですら痛いのに……。
「あんなに太…くて……入るんですか?」
 奥村さんが大きな手で私の頬に触れた。
「心配するな、ちゃんと考えてる」
 考えて、どうにかできることなのだろうか。
 「さあ、あがって……言葉にし辛いなあ。とにかく一日分」
 奥村さんでも言いにくいこと……。何が待っているのか。
「これでいいんだろ」
 目をつぶって言う。いつもは眼鏡があるせいか気づかなかったけれど、こうしてみると睫毛が長い。顔を見たまま立ち上がる。浴槽から出て、そそくさと扉までいく。出る前に一度振り返った。
 奥村さんと目が合った。
「見ないって約束したのに」
 外に出て扉を閉めた。
「怒るなって、今の距離じゃ顔の判別もできん」
 中から聞こえてきた。
 いつまでも、恥ずかしがるのがおかしいのかもしれない。普通の恋人同士ならまだしも、これは、教授の依頼でしている研修なのだし……。
 
 夫婦の設定なのだし……。
 だからといって、簡単に変われはしない。
 体を拭き終わると、扉の向こうから「もう、いいか」と訊かれた。
 さっと、タオルを巻いて「どうぞ」と返した。
 新しいバスタオルを取る。
 身長差があるから髪を拭きにくい。
「少し頭を下げてください」
「お前に頭下げるの? 俺が?」
 仕方がないので背伸びをした。
 髪を拭き終わって、タオルをめくると、奥村さんと目があった。
 肩を掴まれ、キスをされた。
 まだ乾ききっていない奥村さんの髪が触れた。
 ほんの一瞬重なっただけの冷たい唇の感覚が残っていた。
 不意打ち過ぎて、呼吸を忘れていた。息苦しくなって、一度深く吸い込んだ。
 こういうのは、心臓に悪い。まだ動悸が治まらない。
 奥村さんは、私の額に額をつけた。
「おまけだ」
 だから、私が嬉しい物でないと意味がないのに。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

処理中です...