感じさせて……。

紫倉 紫

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ゆめ5

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「はやく拭いてくれ、向こうへ行こう」

 瞬きで応える。

 奥村さんの肩にかかったバスタオルの端を持った。

 後ろを向いてもらう。背中側から、軽く叩くようにして水気を拭き取っていく。

ただ、痩せているのかと思っていたけれど、細いのに、筋肉の形がわかる。背骨の終わりのくぼみまでを拭いて、そのまま手を伸ばして前側を拭く。 

 奥村さんが拭きやすいように腕を上げてくれる。 

 おへその辺りを拭いているときに、異物に触れた。

 思わず、手を遠ざける。

 奥村さんは私の手首を掴んだ。勝手に、タオルを持った私の手で続きを拭いていく。タオル越しにも形がわかる。

「足も拭いてくれ」

 目をそらしたまま、しゃがんで、足を拭いていく。
 


 奥村さんは、拭き終えたと判断したらしい。

「さあ、行くぞ」

「タオルを巻いてください」

「どうせすぐまた風呂だ」

 私は、目のやり場に困って、しゃがんだままで床を眺めていた。

「拭いたタオルじゃ濡れてるだろう?」

 奥村さんが、私のタオルを巻いている背中に触れた。引っ張られ、剥ぎ取られる。背中に、乾いたタオルが掛けられた。

「タオル、足りるかわからんな……」

 後、三回。気が重くなる。

「巻いたぞ」

 私は頷いた。

「お前は、数メートル歩いただけでどうせ取るんだ。巻く必要ないだろう」

 無駄だろうとかまわない。しっかりと、巻いた。

「次のは、ベッドより、ソファがいいかもしれない」

 奥村さんは、私をソファで待たせ、砂時計を取りに寝室へ入っていった。

 
 すぐに戻って、砂時計をテーブルに置いた。まだ、砂を落とし始めない。

「もう少し端に寄ってくれ」

 三人掛けのソファの、やや中央寄りに座っていた。位置に何か意味があるんだろうか。言われたとおりに座り直す。

 奥村さんは微妙に間をあけて、横に座った。

 寄ってみたり、離れてみたり、数度位置を変えた。

 そして、ため息をついた。

「何度も言うが、俺の趣味じゃない」

「はい、わかっています」

 私が憧れてやまない、教授の趣味だ。

 奥村さんは唐突に、仰向けで転がった。私の膝を枕にする。

 膝枕くらい……したことはなかったけれど、結構普通だ。

 奥村さんもこんなことを言えないなんて……変だ。
「難しいな……」

「何がですか?」

「姿勢がな……お前の胸がでかすぎるからか?」

「好きで、こんなんじゃないです」

「お前、赤ん坊抱いたことあるか?」

「ありません」

「だよな……」

 奥村さんが仰向けになったまま腕組みをしている。

「母親が、赤子に乳を与えるようにして……」

 唐突になんだろう?

「これからの15分……そういうことだ」

「え?」
 
「ああ、もういい。吸いつきゃいいんだろ。ようは」

 奥村さんが、私のバスタオルの胸元を掴んで、引き下げた。


「ひゃっ」

 思わず腕で隠す。

「邪魔だ。どけろ」

「まだ、心の準備が……」

 舌打ちされた。

「俺の方は、しなくていい準備までできてるってのに」

「どんな準備ですか」

 奥村さんに鼻をつままれた。

「ばーか」

 ひどい言われようだ。結構強くつままれて痛い。

「ほら、はやく下ろせ」

「はい……」

 目を閉じて、腕をどけた。瞼が震える。

「だいたい、『赤子のように』なんて、無理があるだろ。体の大きさが違いすぎだ」

 奥村さんがぼやきながら、少し上体を起こして、ずらした。

「腕で、俺の肩のあたりを支えといてくれ」

 そっと、奥村さんの肩に添える。

 素肌から直接伝わる体温。

 腕に硬い骨があたる。 

 わずかに感じる重み。

 乳房の脇に息がかかる。

 舌先なのか、唇なのか、柔らかで濡れたものがかすめた。

 必死で息をひそめる。

 奥村さんが、ソファと私の背中の間に腕を差し入れた。

 わずかに、身を縮めた。

 口に含まれた。

 呼吸がし辛い。

 ただ、単調に吸われているだけだ。

 それなのに、首の後ろがむずむずとして、ため息がこぼれそうだ。

 しばらく乱れなかったリズムに変化があった。口にくわえたままで、奥村さんが何かを言ったようだった。聞き取れなかった。
 
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