感じさせて……。

紫倉 紫

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ゆめ5

十八

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口の中で、さらに大きくなる。
 もうすぐだと思った。
 どうすれば良いかわからず、口を離そうとした。
 奥村さんが、前屈みになって、私に覆い被さる。
 頭を押さえつけられたものだから、動けなくなった。
 口の中で脈打ったかと思うと、上顎の奥にかかった。勢いを失いながら三度ほど続いた。
 奥村さんが深く息を吐いて、私の口から抜いた。
 私は、口の中にたまった……苦いともまた違う、味覚のどこにも属さないような……ただただまずいものを、どうにもできずに固まっていた。
 閉じたままの瞼が、痙攣する。
 奥村さんが私の頭に手をのせて「ご苦労さん」と言った。立ち上がって、バスタブから出ていく。
 シャワーの音が聞こえてきた。
 唾液がとめどなく分泌されて、溢れ出しそうだ。
 仕方なく口を閉じる。
 これは、吐き出してもよいのだろうか……
 本来なら、子宮内の粘膜で吸収されそうだ。
 体に害はない……はず……。
 口の中にある限り、味も消えない。
 私は両手で口をおさえ、無理矢理に飲み込んだ。
 後味はあるが、自由に口を動かせるだけ楽になった。一度深呼吸をした。
「お前……」
 話しかけられて、目を開けた。
「飲んだのか?」
 どうやら、驚かれている。
「え? 体に悪いとかあるんですか?」
 考えたら、不味いものは危険なはずだ。
「いや、それは問題ないが……吐き出せばよかったのに」
 それなら言ってくれればよかったのに。
「どうすればいいか、わからなくて……」
 苦労が台無しな感じがして、泣きたくなってきた。
「出てこい。口内を洗浄してやる」
 確かにまだ生臭さが残っている。
 のぼせそうなのもある。私も湯船から出ることにした。奥村さんのうしろに膝をついて座った。
 振り向いた。
「口を開けろ」
「自分で洗います」
「いや、精液の成分をミュータンス菌が異様に好むからしっかり落としておかないと大変なことになる」
 
 知らなかった。戸惑っているうちに、口を指でこじ開けられた。
 シャワーから出るお湯が、口に入ってくる。溢れたお湯は、顎から胸元へと流れていく。
「舌を出せ」
 蛇口を開けたものだから、勢いがます。
 奥村さんが、人差し指で、口の中のあらゆる壁をこする。
 口の中がくすぐったい。
 次々とお湯が流れ込んでくるのもあって、うまく息ができずにいた。息苦しくなった頃に奥村さんがシャワーを止めた。
「もう、虫歯になりませんか?」
「お前、さっきの信じたのか?」
「嘘なんですか!」
「口の中に味が残っていたら、嫌だからな……」
 それなら自分で、味がしなくなるまでうがいをしたのに……
 ため息をつき終わるまでに、奥村さんに引き寄せられた。
 口の中に、舌が入り込んできた。
 口の中を舐めまわされて、力が抜けていく。教授の記録にあったのだろうか。それともおまけだろうか。
 奥村さんが顔を離した。
「やばいな」
 先に上がると言って、バスルームから出て行った。
 外でも15分……その後は、お酒を飲むはずだ。
 さすがに疲れてきた。
 ため息にエコーがかかる。
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