感じさせて……。

紫倉 紫

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うつつ6

十五

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 ひかりが髪を乾かし終え出ると、和明はソファから立ち上がりこちらへ向かって歩いてきた。
「出よう」
 予想はしていたので、すぐに頷いた。
 和明は足早に出口へ向かう。靴を履いて精算機のボタンを操作し始めた。一万円札が機械に飲み込まれた行く。金属の受け口に、小銭が払い出される音が響く。千円札が一枚ずつ戻ってくる。
「思い出したことがあるから、君を家に帰して、僕は大学へ顔を出すことにする」
 振り向かずに言った。
 和明の目的は済んだのだろう。ここは、欲望を満たすための場所ではあるが、質問に重きがあった気がする。
 和明とは駐車場でわかれた。まだ、お昼を少し回ったところだった。亮は起きているだろうか。起きていたら昼食を取るかたずねて、用意しなければと思った。
 帰っても、亮が起きているのかはわからなかった。静まり返っている。自室で調べ物をしていても寝ていても、のぞかなければ区別はつかない。
 ひとまず、コーヒーをたてることにした。
 お湯を沸かしていると亮がキッチンに来た。
「帰ってたんだ」
 頷いて「ついさっき」と返した。
「先生は?」
「思い出したことがあるとかで、大学へ行ったわ」
 亮は残念そうな顔をした。
「訊きたいことがあってさ」
「そうなんだ。亮の邪魔しないようにって出かけてたんだけど、いた方が良かったかもね」
「夜にでも訊くよ」
 亮は「手伝う」と言って、キッチンの中まで入ってきた。
「いいのに」
 断ったけれど、亮はカップを用意し始めた。隣に立ってすぐに「ひかり、美容院に行った?」と唐突に訊かれた。
「行ってないよ」
 亮は「ふうん」と言った後で「先生とどこへ出かけてたの?」と訊いてきた。
「ドライブしてて……和明さんが用事を思い出して帰ってきただけ」
「そっか」
 亮はひかりの向こう側にあるコーヒーのフィルターに背後から手を伸ばし取った。髪に亮の息が触れた。ふた息ほどそこにとどまっていた。
「ごめん。手伝うって言ったけど、なんか、そろそろ寝ないとやばいかな」
 亮はそう言って、足早に部屋に戻っていった。
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