感じさせて……。

紫倉 紫

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ゆめ6

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「心にもないことで褒められても嬉しくないという解釈で間違いありませんか?」
「そうだ」
 自分の感覚と合わないからといって、嘘だと決めつけるのはよくない。
「ウイルス研究所の教授はお会いしたことありませんが……本当に、広いおでこが可愛いというケースもあるかと思うんですが……」
 奥村さんが、不思議そうな顔で首をかしげた。
「特に、奥村さんは顔立ちが整っているから、カッコいいと思う人がいてもおかしくはないと……」
 奥村さんの顔が複雑に変化した後で、眉間に深くしわを刻んだ最高に不機嫌そうな状態に落ちついた。
 それから、勢いよくそっぽを向かれてしまった。
 少し意見を述べただけで、ここまで怒らせるとは思っていなかった。
  何がポイントで気分を害したのか予想もつかない。
「わたしは別に、容姿で奥村さんを判断しようとは思っていません。知性的ですし、気づきにくくはありますが、優しい面もありますし……」
「わかった。わかったから、これ以上はやめてくれ」
 奥村さんが頭を抱え込んで、前屈みになった。
「さっさと飲んでしまえ」
 顔を上げずに言う。
 
 どうにもなだめられない。言われたとおりに、残った酎ハイを飲んでしまうことにした。
 今日の研修は、もう、中止かもしれない。飲酒が条件に入っていると言っていたから、また、明日も飲まなければならなくなる。
 心臓が、早鐘をうっている。
 お付き合いで飲み会に出ても、こんなペースでは飲まない。
 ため息を繰り返すようにしか、呼吸ができなくなった。
 やっとグラスが空になったので、テーブルに置いた。
「飲み終わったか?」
 奥村さんが顔をあげた。
 ゆっくりと頷く。
 
 奥村さんの手が伸びてきた。わたしの首筋に手のひらが添えられる。
 冷たい。
「脈が随分速いな……」
 奥村さんが手を離した。
「待ってください。もう少し……」
 遠ざかる手を捕まえた。頬も額も冷やして欲しい。
 頬に、手を引き寄せた。指先が触れる。顔を押しつけた。
「あっ、気持ち……い……」
 深く息を吐いて、目を閉じる。
「お前、今までよく無事でいたな……」
 無事? 
 急性アルコール中毒になりかけてるのだろうか……
 ずっと、息苦しい。奥村さんは一応お医者さんだった。
「助けて……ください」
 目を開けるとすぐ近くに奥村さんの顔があった。
「煽るな……」
 唇を塞がれた。
  奥村さんの唇が冷たい。
 
 息を継ごうとして口を開けたら、舌をねじ込まれた。
 徐々に体が倒されていく。流れ込んでくる唾液まで冷たい。目眩がした。
 奥村さんが少し体を起こして離れた。私は大きく息を吸った。
「口の中、甘ったるい。酒の味か?」
 
 わからない。
 また、奥村さんの顔が近づいてきた。たまらなくなって、目を閉じる。
「酒、弱すぎ」
 耳元で囁かれる。それだけで声がもれてしまう。
 息が、首筋をなでる。唇が触れただけで、身震いを起こした。
「十分、酔ってるな……かなり感度があがってる」
 手が胸に触れた。
「ただでさえ弱いところは、どうなるんだろうな」
 言葉をきいただけで、背中を何かが通り抜けた。力が抜けていく。
「始めるか」
 研修はあるようだ。奥村さんは私を起こした。
「ベッドへ行こう。歩けそうか?」
 わからない。
「ここでもいいが……」
「このまま15分、研修ですか?」
 奥村さんが私の髪をなでた。
「今回は、時間制限はない」
 15分でなかったらどれくらいなのか、知らなかった。起きていられるだろうか。
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