感じさせて……。

紫倉 紫

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ゆめ6

十五

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 階を一つ下りると婦人服のテナントが並んでいる。奥村さんはエスカレーターの正面にある店にまっすぐ歩いて行った。
 マネキンの着ている服の値札をみて「やけに安いな」と言った。私にしてみれば普通の値段だった。
「お前くらいの歳だと、この店の雰囲気でちょうどよさそうだが、どうだ?」
 
 店の中に並ぶ服は、可愛すぎず堅くもない。
「でも、似合わないと思います」
 花柄やフリルが所々あしらってある。女性らしいデザインだ。
「髪型や化粧でどうにでもなるだろう」
 どうにかする気がないのだから、どうにもならない。
「もういい、俺の勝手にする」 
 奥村さんの顔が険しくなった。店に入っていき、奥から店員さんをつれて戻ってきた。
「今から着替えさせるから、適当に揃えてくれ」
 店員さんに上から下までを確認される。
「かしこまりました。お選びしますので、お待ちください」
 店員さんはすぐに店の奥に戻っていった。
「奥村さんが選ぶんじゃないんですね」
「なんだ、俺に選んで欲しかったのか?」
 そういうわけではない。
「学会に連れて行くときの服は選んでやるよ」
 確かに、学会にふさわしい服がどんな物か私にも店員さんにもわからないだろう。
「お願いします」
 奥村さんが、なぜか私の頭を撫でた。
 「さっきの店員、どんな服を持ってくるか楽しみだな」
 私が選びそうにない服なのは確かだ。
「奥村先生」
 背後から呼ばれた。男の人の声だった。
 奥村さんは振り向いて「ああ」と言った。知り合いらしい。顔を見ると、津山さんの後輩だと言っていた森本と言う人だった。
「野田さんも、こんにちは」
 人懐っこそうな笑顔を向けられる。
「お前ら、知り合いか?」
「津山先輩と仲良くしてもらってる関係でお会いしたことがあるんです」
 研究室で会った時とはずいぶん印象が違う。今日は爽やかな好青年にみえる。
「今日は、デートですか?」
「いや、そういうのではないんだがな。彼女には助手をしてもらうことになったから、一緒に出かける機会が増えるんでね。もう少し、ま……」
 奥村さんが言葉を切った。絶対『ましな格好』と言うつもりだったはずだ。奥村さんも生徒の前では取り繕うようだ。 
「似合う服を選んであげるんですか?」
「そんなところだ」
「僕もご一緒していいですか? 結構ファッションには詳しいんですよ」
 
 初めて会ったときにもファッションに気を遣っている印象があった。今も、少し凝ったデザインの服を着こなしている。
「頼むか?」
 私に振ってこられても困る。
「私はどちらでも」
 どのみち他人の選んだ服に変わりない。
 結局森本さんにも選んで貰うことになった。考えようによっては、二人きりより良いかもしれない。森本さんは訊いてくれたけれど、見かけただけの人にはデートだと誤解されかねない。
「先生!」
 店に入ると森本さんはすぐに奥村さんを呼んだ。
「なんだ?」
 森本さんはマネキンを指さし「あのコーデ、どうですか?」ときいた。
 女子力の高い人が着そうな服だ。
「どうかなあ?」
 首を傾げながら、奥村さんが私をみる。どう考えても似合わない。
「メイクや髪型を少し変えれば、絶対似合いますよ」
「それなら、似合うかもしれない」
「僕、メイクやヘアアレンジも結構できまますよ。姉に鍛えられたんで」
 私は思わず「嫌です」と口に出してしまった。
 奥村さんに恥をかかせない程度になればいい。何も、オシャレがしたいわけではない。
 「一時的に似合っても、本人にその気がなければタンスの肥やしになるしな」
 その通り。
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