感じさせて……。

紫倉 紫

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ゆめ6

十七

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 奥村さんが中を覗き込んで「悪くない」と言う。
 すぐに店員さんが入ってきて「タグを取りますね」と、笑顔で話しかけられた。手にはハサミを持っていた。
 このまま着て歩くことになるようだ。
 つま先の丸くなった黒いパンプスなので、おかしくない気はする。
 奥村さんと店員さんは、レジへ行ってしまった。高級ではないけれど、一揃えとなると結構な値段になるはずだ。
「いくつか選んでおいたから、また、家で合わせてみて」
「他にもあるんですか?」
「一つじゃ困るでしょう」
 たくさん買われる方が困る。
「いいじゃん、先生が買うんだから別に」
 その後で森本さんの手が伸びてきて、バッグの持ち手ごと手を握られた。
「そのバッグ、服と合わないから僕が持つよ」
 合わなくても、自分で持っておきたい。しかし、抵抗する間もなく取り上げられた。
「靴も、買って貰ったら?」
 私は顔を横に振った。
「野田さんやっぱり変わってるね。でも、靴も揃えるかどうかは先生が決めるでしょう」
 奥村さんが面倒くさがってくれることに期待するしかない。
 しかし、靴も買うことになってしまった。
 
 三人で違う階に移動した。私は憂鬱だった。
 形も色も様々な、女性用の靴だけが並ぶ店に入った。キラキラ光るハイヒールもある。
 森本さんの選んだ靴は、ワイン色の少しかかとの高いパンプスだった。
 椅子に腰掛けるよう言われる。
 座った途端に、森本さんが正面に跪いて私の足首に手を添えた。私は驚きのあまり、まばたきもできずに、俯いている森本さんの頭を見下ろす。
 すぐに左の靴を脱がされた。
 森本さんに足を持ち上げられたままで、ストッキングの足先を新しい靴の中に入れられていく。靴の中が冷たい。
  
 続いて右側も。
 最後に、足首を通る細いベルトを留められた。
 やっと足を離してもらえた。ふと、奥村さんを見る。不機嫌そうに私の足もとをみていた。
「野田さん、立ってみて」
 頷いて立ち上がる。
「やっぱりその靴、良い」
 森本さんは満足げに言った。
 かかとは高めだが、幅が広いので意外に安定感があった。
「先生、野田さんの足、奇麗に見えるでしょう」
 奥村さんは、私から少し離れてこちら見た。
「そうだなあ」
「先生の背が高いから、このくらいかかとのある靴の方が、バランス取れてますよ」
 森本さんに連れられて、全身の映る鏡の前に立った。
 「ね、良いでしょ」
 服とは合っている。でも、私には似合わない。
「靴一つでずいぶん垢抜けたな」
 奥村さんが私の後ろに立っていった。
「後は、小ぶりでもう少し丸いフォルムのバッグかあれば良いかと」
「ああ、確かに今の就活生のようなバッグは合わないな」
 結局バッグまで買うことになった。私の意見は全く必要とされていない。森本さんがいくつか選び、奥村さんが気に入ったものをレジに持っていった。
 会計をする奥村さんを遠目に眺めていた。私のために選んでくれているのはわかる。でも、喜べなかった。
「野田さん」
 森本さんに声をかけられた。
「嘘でも喜ばないと」
 顔に出てしまっていたようだ。
「それにしてもキレイな髪」
 森本さんに髪を撫でられた。
「ヘアアクセサリーも選びたくなるなあ」
 着せ替え人形のような扱いだ。
 奥村さんが戻ってきた。
「値札取ってもらったぞ」
 今すぐ使えということだろう。
 三人でカフェへ行くことになった。奥村さんは医学部の方では学生に懐かれているようで、森本さんは嬉しそうにしている。
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