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ゆめ6
十八
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カフェでバッグの中身を移すように言われた。財布と手帳とハンカチ、それと、奥村さんから預かっている鍵を移す。小さめなので他はそのまま残して、お店で貰った大きな袋にバッグごと入れた。
コーヒーを飲みながら、森本さんは医学部にいる人たちの話題を次々と聞かせていく。奥村さんは、驚いたり皮肉な顔で笑ったりと、いつもより表情が豊かだ。誰の話をしているのかさっぱりわからないけれど、別に退屈はしなかった。
カフェの後、森本さんは帰ることになった。
「今日は助かった。ありがとう」
「また、野田さんの服を選ぶときは声をかけてください」
「また頼むか」
奥村さんは、質問ともつかない聞き方をしてきた。
「服はそんなにいりませんから」
断った。
「季節が変わったらいるでしょ」
「ああ、そうだな。その時は頼む」
ふと、研修はいつまで続いて、その後の実験はどのくらいの期間予定されているのかと気になった。
研修が終われば、家には帰らせて貰えるはずだ。
森本さんと別れて、お弁当箱を買うために雑貨店へ行った。
シンプルで大きめのものを選んだ。
「用事は済んだな。どこか行きたい場所はあるか? ついでたから連れて行ってやる」
食材を買いに行きたい。
「それはいつでも行けるだろう」
そう言われても思いつかない。
「帰って、研修の続きをしたいか?」
研修……
急に昨夜の自分の声を思い出して、恥ずかしくなった。
「帰るか……」
奥村さんが私の腕を取った。返事をしていないのにそのまま、エレベーター前に連れて行かれた。
すぐに来たので乗り込んで最上階を押した。
先に乗っていた若いカップルが抱き合うように密着している。目をそらした。
甘い香水の匂いが充満している。
他にも数人乗っていたが、気にしていないようだ。
次の階で大きな荷物を持った家族連れが乗ってきた。私の前に立っていた男性が下がってきてぶつかった。胸が押しつぶされる。
「おい、こっちに寄れ」
奥村さんが自分の持っていた荷物をよけてスペースを作ってくれた。
そのまま少し下がる。
「こっち向いとけ」
スペースはできてはいるが、向きを変えるには狭い。
「早くしろ」
周りに配慮して声は小さいが、口調がきつい。なんとか体の向きをかえた。
皆、駐車場に向かっているのか、降りる人はほとんどなく、またさらに人が増えた。
意図せず、さっきみたカップルと同じくらい、奥村さんに体を密着させなければいけなくなった。
腕こそ回されていないけれど、人前で抱き合うほどに体を寄せている。
奥村さんの熱が湿度を伴い頬から伝わってくる。
さっきぶつかった男の人とは明らかに違う。
職場の人、上司とも。
奥村さんは、触れあうことに慣れた相手になっている。
次の階で家族連れが降りたのでずいぶんスペースが広くなった。
少し体を離す。それでも、奥村さんと私は周りからみれば親しい関係にうつるだろう。
やっと最上階の駐車場に着いた。
先に車へ乗るように言われた。奥村さんはトランクに荷物を積んでいる。
助手席に座り、シートベルトをかけようとしているところに、奥村さんが乗ってきた。
「買い物も結構疲れるもんだな」
たしかに疲れた。
「たくさん買っていただいて、ありがとうございます」
「まあ、必要経費みたいなもんだからな」
それでもかなりお金を使ったはずだ。もう一度お礼を言おうと奥村さんの方を向いた。
コーヒーを飲みながら、森本さんは医学部にいる人たちの話題を次々と聞かせていく。奥村さんは、驚いたり皮肉な顔で笑ったりと、いつもより表情が豊かだ。誰の話をしているのかさっぱりわからないけれど、別に退屈はしなかった。
カフェの後、森本さんは帰ることになった。
「今日は助かった。ありがとう」
「また、野田さんの服を選ぶときは声をかけてください」
「また頼むか」
奥村さんは、質問ともつかない聞き方をしてきた。
「服はそんなにいりませんから」
断った。
「季節が変わったらいるでしょ」
「ああ、そうだな。その時は頼む」
ふと、研修はいつまで続いて、その後の実験はどのくらいの期間予定されているのかと気になった。
研修が終われば、家には帰らせて貰えるはずだ。
森本さんと別れて、お弁当箱を買うために雑貨店へ行った。
シンプルで大きめのものを選んだ。
「用事は済んだな。どこか行きたい場所はあるか? ついでたから連れて行ってやる」
食材を買いに行きたい。
「それはいつでも行けるだろう」
そう言われても思いつかない。
「帰って、研修の続きをしたいか?」
研修……
急に昨夜の自分の声を思い出して、恥ずかしくなった。
「帰るか……」
奥村さんが私の腕を取った。返事をしていないのにそのまま、エレベーター前に連れて行かれた。
すぐに来たので乗り込んで最上階を押した。
先に乗っていた若いカップルが抱き合うように密着している。目をそらした。
甘い香水の匂いが充満している。
他にも数人乗っていたが、気にしていないようだ。
次の階で大きな荷物を持った家族連れが乗ってきた。私の前に立っていた男性が下がってきてぶつかった。胸が押しつぶされる。
「おい、こっちに寄れ」
奥村さんが自分の持っていた荷物をよけてスペースを作ってくれた。
そのまま少し下がる。
「こっち向いとけ」
スペースはできてはいるが、向きを変えるには狭い。
「早くしろ」
周りに配慮して声は小さいが、口調がきつい。なんとか体の向きをかえた。
皆、駐車場に向かっているのか、降りる人はほとんどなく、またさらに人が増えた。
意図せず、さっきみたカップルと同じくらい、奥村さんに体を密着させなければいけなくなった。
腕こそ回されていないけれど、人前で抱き合うほどに体を寄せている。
奥村さんの熱が湿度を伴い頬から伝わってくる。
さっきぶつかった男の人とは明らかに違う。
職場の人、上司とも。
奥村さんは、触れあうことに慣れた相手になっている。
次の階で家族連れが降りたのでずいぶんスペースが広くなった。
少し体を離す。それでも、奥村さんと私は周りからみれば親しい関係にうつるだろう。
やっと最上階の駐車場に着いた。
先に車へ乗るように言われた。奥村さんはトランクに荷物を積んでいる。
助手席に座り、シートベルトをかけようとしているところに、奥村さんが乗ってきた。
「買い物も結構疲れるもんだな」
たしかに疲れた。
「たくさん買っていただいて、ありがとうございます」
「まあ、必要経費みたいなもんだからな」
それでもかなりお金を使ったはずだ。もう一度お礼を言おうと奥村さんの方を向いた。
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