感じさせて……。

紫倉 紫

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ゆめ6

十九

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 思っていたより顔が近くにあり、驚いているうちにキスをされた。ほんの一瞬触れただけなのに、不意打ちにあって動悸が激しくなる。
 
 今のは、おまけなのか、なになのか……
「誘うなって」
 もう一度、さっきよりはほんの少しだけ長く唇を重ねられた。
  何の意味があるのだろう。
「まあ、あれだな。可もなく不可もなく」
 わけもわからないまま微妙な評価を下された。
「さっきの、エレベーターの中にいた奴らのように人前で堂々とするのはどうかと思うが、見られているかもしれないと思いながらすると、興奮があるのかと期待したが、いつもと変わらん」
 人に見られたかも……たしかに広い駐車場にたくさんの車が並んでいる。中で待っている人がたまたまこちらを見ていても不思議はない。
 興奮するはずがない。恥ずかしいだけだ。
 奥村さんがエンジンをかけた。
「しかし意外に……」
 手が伸びてきて、頬や耳を撫でられた。
「お前、男に触られるの平気なんだな?」
「奥村さんには慣れただけです」
「森本にもずいぶん触られていたじゃないか」
 それはそうだけど……
「エレベーターの中でも、前の男に胸を押し付けてただろ」
 あれは仕方ない。
「背中じゃないですか」
「背中でも十分味わえるだろう。その弾力」
 そんな風には考えたことがなかった。
「次からは気をつけろよ」
 私は素直に頷いた。
 奥村さんのマンションに帰り着いた。
「明日は、一回分しか研修できないからな。順番は関係なく今日の内にできるだけ消化しておく」
 玄関に入るなり言われた。
 研修……そのことばを聞くだけで足の付け根に意識がいく。
 研修開始から今日で五日。その日は、七日目なのだろうか、それとも八日目なのだろうか。
 あれだけのことをしたのだから、今さら抵抗感も何もない。
 本当に数日以内に、私は……
「しかし、服装で随分雰囲気が変わるもんだな。悪くない」
 悪くないと言われても、あまり嬉しくなかった。
 奥村さんの好みなのかもしれない。
「奥さんがこういう服を着ていたって」
 
「森本がそう言ったのか?」
 森本さんに言われたときよりも、なにかモヤッとしていた。
 だけど、妬いているのではなく、自分らしさを他者から侵害されたような感覚のように思う。
「スカートをよくはいてはいたが、そんな服だったかはわからん」
 基本的には服には興味がないのだろう。
「俺は単純に、お前に似合っていると思っただけだ。嫌ならもう着なければいい。他のを買ってやる」
 怒らせてしまった。
「さあ、入るぞ」
 奥村さんが靴を脱ぎ中へ入っていく。私も続こうとしたけれど、なれないベルト付きの靴を脱ぐのに手間取る。
 奥村さんが振り向いた。
 壁に手をつき片足を上げて、ベルトのボタンを必死でひっぱる。
「はずれないのか?」
 奥村さんが戻ってきて、私のそばでしゃがんだ。
 上げていた足に、手を添えられる。
「外してやるから、下ろしていいぞ」
 そっと足を下ろした。
 奥村さんの指が足首のあたりでうごめく。
 足をひっこめたくなるほど、感じてしまう。
 奥村さんが顔を上げて私をみた。
「俺に触られるのは、慣れたんじゃなかったのか?」
「きっと、触り方のせいです」
「外してやろうとしているだけだろう」
 奥村さんがスカートを軽く捲り上げた。
 膝の上の、少し内側に唇を押し付けられた。熱い息がストッキングからしみてくる。
「これなら俺も納得する」
 奥村さんが足に唇を触れさせたままでしゃべるものだから、思わず声を漏らしてしまう。
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