感じさせて……。

紫倉 紫

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ゆめ6

三十

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 歩くのが遅いからか、奥村さんが私の手をとった。手を引かれながら歩く。
 私は、俯いて歩いた。
 さっきより、砂利を踏みしめる音が大きくきこえる。
「まだまだ先だ。せっかくだから松を見たらどうだ?」
 そう言ってくれたけれど、私は、とてもそんな気分ではなかった。
 なんのために、こんなところで。
 理解できない。
 グルグルと同じことを考えているうちに「たぶん、あそこだ」と奥村さんが言った。
 松と松の間に、草が生い茂っている。その向こうに砂浜が見えた。
 草と砂の境目あたりに、石のベンチが置いてある。
 道からは、結構離れている。
 それでも、何気なく目を向ければ人が座っていることはわかる。
「前から来られなければ、見えないかもしれないな」
 奥村さんは草の中へ入って行くために、進む方向を変えた。
 握られていた手が引っ張られる。
 草むらに入ると、さっきより地面が柔らかく、私は足が沈んでいきそうな錯覚を覚えた。
「二人で並ぶには少し狭い。教授は小柄だしな」 
 奥村さんが先に座った。隣に座る。ピッタリと身を寄せなければはみ出してしまう。
「並びが逆の方が、右手が使いやすそうだ」
 私が、右側になるように入れ替わった。
 奥村さんが私の肩を抱いて引き寄せた。
「こうしておけば、わざわざ二人の世界を壊しに来る輩はいない。イチャつく以上のことをしているとは思わないはずだ」
 誰かに見られる場所で、肩を抱かれて、こんなにも密着していることがすでに恥ずかしい。
 教授は、どうしてこんな場所で……
「バッグをよこせ、俺の膝の上に置けば左側は隠せる。そっち側は、俺がみておくから人が来たら言う」
 真正面は海だ。背後から来たら足音で気づけそうではある。
「石のベンチに腰掛け、波の音を聞いていた。妻の手が私の股間に伸びてきて、ズボンの上からいちもつを探り当て、なで始めた。驚いて妻のことをみたが、私の肩口に頬を寄せ俯いているため、顔が見えなかった」
 ノートの暗唱だろう。
 奥さんから始めたということ?
「さっさと終わらそう」
 触れと言われているのはわかった。
  
 頼まれてもいないのに、自分から進んで触る……
 そんな気持ちになることが、あるんだろうか。
「早くしろ」
 私は、催促されている。催促している奥村さんだって、ここですることを望んでいるわけじゃない。
 私は、奥村さんの足の上に右手の手のひらをのせた。触るべきはここでないことは、わかっている。それでも、抵抗感が拭えない。
「待て」
 奥村さんがジャケットを脱ぎ始めた。狭いので肘が腕に当たった。少し痛かった。
 パーキングエリアでしたように、私の肩にかけた。そのあとで、また、肩を抱かれる。
「これで、隠せるだろ」
 奥村さんが、ジャケットの前身ごろで私の腕が隠れるように包んだ。
「お前の腕の動きにも気づかれない」
 見られる心配はなくなった。
 正面を横切られないかぎり。
「早く終わらせて、観光でもしよう」
 奥村さんは、これで実行可能と判断したようだ。
 握らされる分には、少しは慣れた。
 だけど、自分から触りに行くのは、恥ずかしい。
 それでも、しなければ終わらない。
 目を閉じて、手を進めた。
 前ファスナーの合わせの部分に触れた。
 指でその辺りを撫でたけれど、見つけられなかった。
「もっと下だ」
 言われたとおり、手の位置をかえる。
 指先が柔らかなものに触れた。
「しばらくそのまま触って、窮屈そうになったら、外に出してくれ」
「それも私がするんですか?」
「そうだ」
 するしかなさそうだ。
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