感じさせて……。

紫倉 紫

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うつつ7

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「有名な『笠松公園』より、眺めのよい寺があるらしいから、そっちも行ってみたいよな」
 風景自体にはあまり興味がないが、ひかりは頷いた。
「ケーブルカーには乗れそう?」
 ひかりは、小説に書かれていた場所に行ければそれで良かった。
「それは、笠松公園だな。近いから両方行けると思うよ」
 あとで、もう一度読み返しておこうと思った。滅多に行けないのだから抜けがないようにしなくては。亮には、自分でも少し調べてみたいからと言って、プランの決定を待ってもらうように頼んだ。
 さすがに、小説でのことをそのまま再現したいとは思わないが、石のベンチに並んで座って海を眺めてみたい。しかし、亮が一緒なので、それすら実現が難しい気はしていた。
 和明と二人で行きたかった。亮が楽しみにしているのに、ひかりはそう考えてしまう。しかし、亮がいなければ、和明が日帰り旅行をしようと言い出さないことはわかっていた。ひかりは『教授の実験室』の二人が歩いた場所へ行く。そのことだけ楽しみしていればいいと、言い聞かせる。
 亮は、本を読むといって部屋に戻った。
 ひかりは片付けをすまし、リビングでWeb小説を読んでいた。亮が部屋から出てきて「まだ帰れないから、自分のことは気にせずお風呂をすますようにって」と、言った。
 亮が、風呂掃除などを担当しているからだと、分かっている。それでもひかりは自分に連絡をして欲しかった。
「私は後で良いから、亮の好きなときに用意をして」
「じゃあ、もう少し後でもいい?」
 ひかりは頷いた。ひかりは和明の帰りを待つつもりなので、もっと後でもかまわなかった。
 ひかりは、自分も本を読むと告げて、寝室に向かおうとした。
「ひかり」
 呼び止められた。
「どんな本を読むの」
 質問されるとは思っていなかったので焦る。
「恋愛小説だとか、そういうの。亮みたいに難しい本は読まないよ」
 亮は、ひかりに笑いかけてきた。
「考えたら、しばらく小説は読んでないな。なんか良いのがあったら紹介して、久しぶりに読みたくなった」
 ひかりは、内心困っていた。
「亮にも読めそうなのを、考えておくね」
「ひかりが、気に入っているのを教えてくれればいいよ」
 ひかりが読んでいるのは素人が書いた無料の小説だ。それも、官能シーンの多いものばかりだった。
「今のが、最後まで面白かったら、紹介する」
 亮は、頷いた。
 あとで、無難な小説を探さなければならない。ひかりは、一般に販売されているものから探そうと決めた。しかし、今は先にすべきことがある。
 寝室にもどって、WEB小説のアプリを立ち上げた。
 『教授の実験室』が更新されていたけれど少し戻って、天橋立のシーンを読みかえす。
 主人公がみたがっていた『廻旋橋』が動くのを、見物したくなってくる。松林の道を歩いて、石のベンチを捜し、あとは『笠松公園』と、『遊覧船』で、問題はなさそうだ。
 ひかりは、今流行の恋愛小説を検索してみることにした。映画化されたものが良いかもしれない。いろいろみたけれど、亮に紹介するには、どれもふさわしくない気がした。ミステリーでも適当に選んで、一応は読んだ後に紹介する方が良いかもしれない。
 いろいろと、小説の評判を調べているうちに和明が帰ってきた。
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