ヨダカの桜吹く後宮異能料理帖

亜夏羽

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第禄話

能ある鷹は、爪と羽を隠す

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次の日の朝。
気付いたら夜鷹は、自分の部屋で寝巻きになって寝ていた。しかもかなり長く。

「ね、寝坊した~~~~~~!!!」

夜鷹は叫びながらも急いで女官服(襦裙)に着替え、紅梅宮へ急いだ。
宮へ着くと、もう4人の侍女は妃の元に着いているし、凛瑛は凛瑛で妃の朝食を準備しているので、遅れて来ているのは夜鷹だけだった。
せめて声をかけてくれよと、桜姫を見たが目を逸らしたのでダメだった。
舞苺妃がニコニコしながら衣装を何故か選んでいた。
「舞苺様、何故着るものをお選びになっているのですか? 私達に命じれば、舞苺様に似合う衣装を沢山選びますのに……」
「あら、そういえば桜姫ちえりと凛瑛以外は今年初めてだものね」
「え?」
今年初めて、とはどういうことだろう。

「夜鷹知らないの? 毎年秋と冬の変わり目に行われる、椿蓮会しゅんれんかいの話! 妃同士が唯一顔合わせ出来る機会で、お話したりご馳走が振る舞われるらしいよー! 侍女は勿論、下女とか宦官も出席出来るらしいしさぁ! 美青年イケメンな人との出会いもあるかも!」
「へぇ~……」

今日見た桜姫がテンション高いのはそれだったのか、と夜鷹は1人納得した。
「言っておくけど、夜鷹もお化粧と衣装考えないといけないんだからね!」
「えっ……?」
「「当たり前でしょう?!」」
「いや当たり前と言われても……化粧した事ない……」
「衣装は妃である私が決めておくから、皆でお化粧の練習してね~」
「やっ……! 舞苺様?!」
「思いっきり可愛くなっていらっしゃい!……骨は拾うから」
舞苺妃はそう言うと、妃用の化粧部屋に引っ込んで行ってしまった。

「じゃあお化粧するから、早く早く!」
「まずは顔を洗いましょうか」
「初めてのお化粧だもの、夜鷹様は怖がらなくていいんですよ~」
怖がるなと言いながら、目の前の鳥をとって丸焼きにしようと言わんばかりの目つきである。白い布を顔に付けられたら逃げられない。しかもさっき舞苺様、骨は拾ってやるとか言ってなかったっけ?!
夜鷹はそう思い、怖くなって逃げた。
そう、逃げたのだ。全速力で。

「あっ! 待ちなさーーーい!!!」
「嫌ああああああああああああ!! 化粧怖いいいいいいいいいいいいい!!!」
(嫌だよ怖いよ誰が待つか!! 人間化解いて羽とかもう翼使いたい!! 隠す必要もう無くない?! これだから人間は困るんだよ!!! やめてえええぇぇえええええああああああ誰でもいいから助けてええええええ!!!)
一瞬で誰かとすれ違った気がするが、今はそんな事を気にしている場合では無い。
 これはあくまでも、夜鷹なりの生存本能だった。
情けない声を出して逃げた夜鷹の珍行動は、後に後宮にいる全員の耳に入り、夜鷹の唯一の黒歴史となった。



 *          *          *


「ぜぇっ……はぁ……はぁ……ヒュー……はぁ……やっと捕まえたわよこの鷹娘ぇ……」
「お願いだから離して~……」

全速力で逃げ出したのもつかの間、侍女頭になっている凛瑛に見つかり、あっけなく化粧をされた。
天藍や猶猶からは呆れられたり、楊朱からは怒られたりした。教育係とは名ばかりかと凛瑛に言われて、何も言い返せなかった。

凛瑛に化粧をやってもらい、中々に綺麗な顔立ちになった夜鷹を見て舞苺妃も頷いた。
衣装は白い襦裙に赤い掌、髪の毛は2つお団子結びにして長い髪は飾りのついた小さな髪結で1つにまとめた。
この服は夜鷹だけであり、他の侍女は濃いピンク色の襦裙に橙色の掌、そして舞苺妃の侍女の証である梅の花のネックレスや苺の花の髪飾りを付けていた。
夜鷹には、苺柄の簪を付けて。

「これで準備完了ね。当日はどうぞよろしくね、夜鷹」
「えっ……? 何をするのですか?」
「うふふ、毒味役よ」
「…………へ?」
「もちろん、料理も作ってもらうけど」
「や、やります……!」

(料理が作れるなら、味見ついでにすればいいしね! 私は毒なんか入れないもの!)
料理作りが好きすぎるあまり、毒味役をあっさり引き受けた夜鷹であった。












ついに、椿蓮会が始まる。


続く!
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