ヨダカの桜吹く後宮異能料理帖

亜夏羽

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第充壱話

叱りの後、鳥籠に戻り料理を振る舞う

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夜鷹は雷庵の部下の伊織に呼び出され、後宮の中で一番大きな皇帝専用宮、”白虎殿”に通され、雷庵と対面し、正座させられていた。
(どうしてこんなことに......!)
夜鷹は正座しながら冷や汗をダラダラと流した。



* * *


夜鷹と雷鵻は、外出するために絶対必要な外出届を出し忘れ(ほぼ雷鵻のせい)、夜鷹の故郷へと里帰りし、帰ってきたらこの様子だった。
妃に許可を取ればそれで良い決まりだったはずなのに、目の前の帝は何故か怒っている。
(まぁ、後宮は女の園だし、後宮にいる女は全て皇帝の物だから怒るのは無理のない事かもしれない。しれないが……だとしてもここまで怒る事では無い気が……?)

「おい夜鷹」
「ひゃい! 何でしょうか」
「なぜ俺も連れていかなかったのだ。武の訓練も賢さも、俺が1番上だ。雷鵻も雷鵻だが、お前もお前だ。何故、俺を呼ばなかった?」
(いやいやいやいや、だって皇帝が出てきたらそりゃ困惑するし、わざわざ出てもらうのも申し訳ない……というか、行きたかったのか? 仕事はどうする気なんだ仕事は)
また伊織の胃が痛くなるような、めんどくさい案件に夜鷹は内心ため息をつき、伊織を哀れに思った。
「すみません。とある事情がありまして、あの時はすぐに行かなければいけなかったんです」
「ほお……その事情を聞いても?」
「はい。実は人攫いに攫われまして、後宮に売られたのが始まりです。そこから下女、出世して舞苺妃の侍女ときて今に至ります」
「……そうだったのか」
「殿下が気にする事はありません。よくある事なので」
「……そうか。今日はもう帰って良い。長旅ご苦労だった」
「恐縮です」
雷庵から部屋に戻っていいという許可がやっと降りたので、夜鷹は両袖で口を隠してお辞儀をし、すぐに白虎殿を出ていった。
何故か最後まで雷庵は悲しい顔をしていたが、夜鷹にとっては同情の目としか見えなく、そんなことはどうでもよかったのですぐに頭の中から吹き飛んでしまった。




*      *      *

翌日、朝。
夜鷹は舞苺妃の宮に行く前に、食堂で料理の下準備をしていた。
そこへ、たまたま飛鷹と雲雀が通りかかった。
「あ、夜鷹! 毒味役の事聞いたよ! 大丈夫だった?」
「流石に毒入ってたから、舌とか良くない事になってない?」
「無いよ。口に含んだだけですぐ吐き出したし。ありがとうね2人とも」
夜鷹はこの後宮の中で唯一の友達に感謝した。それだけ後宮という場所は、信用も信頼もしてはいけないところなのだ。

「友達だから当たり前でしょ?」
「飛鷹、泣いてたよね」
「雲雀! それは言わないでって言ったよね!?」
「ふふん、言わないとは一言も言ってない」
「ひ~ば~り~?」
「ゴメン」
「仲がいいなぁ~」
「「良くない!!」」
2人の息ピッタリな返答に、夜鷹は思わず笑いながら料理の腕を止めなかった。

今回は、全員統一して"鰻のひつまぶし&お茶漬け定食”だ。
包丁で切った鰻を焼いて、白米の上に乗せて完成。
仕上げに、タレが入った小さい磁器をお盆の上に乗せ、出汁が入った鉄瓶をそれぞれのテーブルに乗せたら準備は完璧。
後は飛鷹や雲雀、桜姫ちえりに宦官や女官、それと食堂の下女を呼ばせ、自分は部屋に戻って休憩に入る事にした。
夜鷹は部屋に戻ると、倒れるように布団に横になり、寝転がった。
なんだか目眩がするので、少し眠ることにした。





数刻後。
夜鷹を呼びに来た桜姫が、中々出てこない夜鷹を不審に思い、扉を開けると顔を真っ赤にした夜鷹が倒れているところを発見した。









続く。




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