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プロローグ

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 だが、予定は案外早い段階で狂った。北澤宅に上がり込んだ相田は、パソコンのデスクトップに目を留め、「この【ゲーム】ってフォルダ何?」と尋ねてきたのだ。北澤は是が非でも話を逸らそうとしたが、相田のしつこい追及に根負けしてしまい、こうしてパソコンの前に相田を座らせてしまう羽目になった。

 ゲームだから笑い話で済んでいたものの、これがエロ画像だったりいかがわしい動画だったりしたらどうなっていたのだろうか、と北澤は空恐ろしくなった。いや、そんなもんをデスクトップに配置したりはしないし、ダウンロードしてもいないけど。北澤は、誰に向けるわけでもない弁解を脳内で行った。
 仮にそんなやましい物を見られたとして、相田だったら拳骨百発で済む。だが、岡庭に見られでもしたらと思うと背筋が凍った。……まあ、そんな事態にはなりようもないので、取り越し苦労だが。
 ともかく、今度から誰かが来るときはパソコンの電源を落としておこう、と北澤は心に誓った。

 画面に視線を戻すと、岡庭が微笑みながら相田を鼓舞している。

「相田、良い線行ってるねえ」

「へへ、そうだろ。どっちに動いたら止まるかも分かってきたわ。上下がダメなんだ。左右移動なら止まらない。遠距離攻撃で仕留めてやる」

「上に進んだら止まるって……上スクロールゲームなのに致命的だね。貴ちゃん、テストプレイもしてないの?」

「したけど、直し方が分かんなかったんだよ。しかも最後まで進めねーしな、それ」
 
 そう、このゲームには更なる欠陥があった。三ステージ目――このゲームは習作なので、最終ステージに当たる――のボスを倒した瞬間、画面が暗転してしまうのだ。そして、ピーピーガーと異音を発した後、ゲームのウインドウは独りでに閉じた。

「おい北澤、これで終わりかよ?!」

「ああ。本当はエンドロールまで作ったんだけど、バグかなんかでそこまで進まねーんだ。ま、大したもんじゃねーけどな」

「あの北澤が作ったとは思えねえ粗末な出来だな。でも謎の達成感があるわ。……ほーん、北澤の習作黒歴史ゲーム、他にもあるじゃねーか。もう一個やってやろ」

 パソコンにひっついたままにやりと笑う相田に対し、北澤は両の拳を握り締めた。

「おい相田、いい加減にしろよ。現実でボコボコにされたいのか?」

「貴ちゃん、リアルファイトはやめなさい。相田もその辺でやめとけよ、俺達が手持ち無沙汰になっちゃうじゃん。素直に格ゲーしよう」

 岡庭は睨みあう二人を仲裁して、相田をパソコンから引きはがした。北澤はすかさずパソコンをシャットダウンし、ゲーム機の電源を点けた。
 
 相田も岡庭も格ゲーはかなり上手い方だが、本気を出した北澤には敵わない。そのため、北澤は普段使わないキャラを使うことで、二人と互角以上の戦いを演じていた。けれど、相田相手に手加減する気の無かった北澤は、この日だけは使い慣れた持ちキャラを選んだ。その結果、相田が全敗したことは言うまでもない。
 相田は捨て台詞を吐きながら逃げ帰り、北澤は清々した気持ちで玄関の鍵を閉めた。
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