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一章
学園入学前の寮での小さな事件
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お茶会から数日が過ぎて、俺とミラ、イルミナとアルナはレイアーノ魔術学園の入学式が残り一週間に迫ってきたので、家を出て帝都の学生寮に荷物を移すため、学生寮の憩いの場の広場に来ていた。
因みにメルセデスも一緒だ。
この学園は貴族が入学することもあり、使用人を一人だけ連れてくることができたのだ。
まぁ普通メイドとか連れてくるんだろうけど、メルセデスを連れてきたのは単純に信用できる奴に料理を作ってもらうのは悪いことじゃないだろうし、シェフを連れてくる奴も多いんじゃないか?
花そその登場人物でも、貴族のほとんどが抱えのシェフを連れてきていたのだ。
前世ではどんだけ庶民の料理を口にしたくないんだと思ったけど、貴族って毒殺とかもあるから誰が手を付けたかわからない料理なんて食べたくないって気持ちがわかるし、日本がどれだけ衛生面を考えていたかが死んで初めてわかった。
「俺だけ男子寮だからお前らの事は手伝えないけど、荷ほどきが終わったら適当に帝都にふらつこうぜ」
「わかったー!この学園融通が利かないし宿生活を考えて最低限の服と勉強道具しか持ってきてないし、ボクはそこまで関わらずすぐ終わると思うなー」
「私も同様です」
「え!?二人ともどうして!?ドレスや化粧品とかあるでしょ!?」
アルナが言ってることは、日本の高校だったらそんなもの要らないだろうと捨て置かれるんだろうけど、ここは女性にとっては社交界の練習の場、リハーサルみたいなものだ。
社交界でドレスや化粧品は女性にとっては、防具や武器みたいなもので無防備で行くことがどれだけ無謀なことかわかる。
だから準備は結構罹ると思ったけど、ミラはそもそも荷ほどきするほどの荷物は収納魔法で保管してるだろうし、イルミナは制服以外はメイド服くらいしか持ってきてないんだろうな、メイドじゃないのに。
「ボクは要領がいいからね。アルナの荷ほどき手伝うよ」
「え、ほんと!?ありがとー!さすがミライちゃんですわー」
「僭越ながら私もそこまで時間がかからないのでお手伝いしましょう」
「イルミナまで!これはすぐに準備は終わりそうですわね!兄貴は!」
「いや馬鹿か。入学前から女子寮に忍び込んだら入学取り消しになるわ!」
別にこの学園の生徒としての価値に執着する理由もないけど、精霊契約の儀について調べるためには必要だからな。
「たしかにリアスくんに他の女子の部屋を覗きに行かれるのはいい気がしないなぁ」
『ミライと言う者がありながら浮気なんてしたら、私がリアスを殺します』
「ハイハイ。俺は覗きに行く来もないから安心せい」
「それはそれで健全な男子としてどうなのかな!」
どっちだよ!
あ、ミラの部屋を覗きに行けば解決か。
婚約してるんだし問題ないよな。
「わかったミラの部屋を覗きに行こう!」
「そういうことは言える癖に、いざ実行に移すと顔を真っ赤にするうぶなリアスくんは可愛いと思う!」
「ミラさんや、そういうことは言わないでくださる?」
「ふへへ!」
やはり俺は恵まれているんだろう。
6年前のあの日に、幻獣の森に迷い込んでクレと出会わなければミラとは知り合うことすらなかった。
俺はミラを撫で回しながら笑みをこぼしてしまった。
「なんか楽しそう兄貴」
「リアス様はドがつくマゾですからね。ミラ様に言葉攻めにあって興奮してるんでしょう」
「イルミナ!?俺はマゾじゃないぞ!」
「兄貴、やっぱそっち方向に進んでたんだ。ごめんね幼少期にワタクシとお母様でいじめたばっかりに」
「がーっ!勘違いしてないでさっさと荷ほどきしてこい!」
俺はそのままメルセデスを連れて、広場を後にした。
『甲斐性が無いですね』
「大きなお世話だ」
「坊ちゃん、どうせ今クレの旦那に甲斐性無しとか言われてるんでしょ」
何故わかる。
精霊の言葉がわかるのは、精霊とのハーフのミラを除けば俺だけだってのに。
実はメルセデスも、長年俺達の会話をみて聞いて、言葉を覚えたとでも言うのか!?
『なんとなく今考えてることがわかるので言いますけど、どれだけ頑張っても精霊の言葉がわかるはずがありません。全部「キュゥゥゥゥゥ」って聞こえるんですから』
まぁそれはわかってるんだよ。
精霊の言葉はテレパシーに誓い感じらしくって、音声でじゃなくて感覚で言葉がわかってる感じなんだ。
ちょっとそこら辺よくわからないし、別に困るもんでもないからそういうことにしてる。
「メルセデス、それはお前が俺に対して思ってることじゃないの?」
「そりゃもちろん!」
「はぁ、俺だって怒るときは怒るぞ?」
「6年前に懲りてまっせはい!」
ため息しか出てこない。
たしかにこいつは、俺の目の前で10個も歳の離れた餓鬼の前でチビってるしな。
チビってるとは言わないか。
盛大にぶちまけてるし。
「そうかいそうかい。お仕置きだ。ピクニック用のおやつを俺が荷ほどきしてる間に作ること」
「え!?そりゃ無茶だ坊ちゃん!荷造りが1分で終わったってことは荷ほどきだってそんな時間罹んないだろ!」
「1時間の猶予はあるはずだ。女性陣はどんなに荷物が少なくても時間がかかるんだから。いいな?」
「ひぇぇぇ」
『情けない声あげんなメルセデス!』
「フェ、フェリー。あぁわかったよ。厨房借りれるか聞いてくるぜ坊ちゃん。借りれなかった諦めてくれ名」
「わかったよ」
そう言うとメルセデスは、レイアーノ寮の厨房へと向かって走っていた。
1時間で作れるおやつに限りがあるが、まぁあいつならそれなりの物を作ってきてくれるだろう。
庶民的な物で良いってわかってるしな。
この世界には魔法もあるし、それなりに食事を作るスピードは速いからいけるだろう。
『結構無茶言いますね』
「あ、不満なの?じゃあクレはおやつぬ------」
『メルセデス相手に生ぬるいんじゃないですか?』
手のひら返しがすごい。
こいつもメルセデスがちゃんとおやつを作ってきてくれるのを確信しているんだろう。
さて、1時間って言った以上、ゆっくりと荷造りしないとな。
収納魔法はこの世界で使える人間は本当にごく少数だ。
それもアイテムを媒介にしたインベントリを作る事に対してしか使われないため、俺やミラみたいに直接空間から物を出すのはよろしくない。
だからある程度大きな物は全部寮の中にしまっとかないといけなかった。
俺が下宿する部屋は二階だ。
ある程度出せる物を出す。
俺の場合は教科書とカバン、制服くらいだな。
あと一応剣術の授業もあるらしいけど、俺は剣術はからっきしだった。
ちょっと大きすぎるんだよな。
「一応アルジオの奴が渡したから持っているけど、まぁ使うことはないだろう」
『あのへっぴり腰は面白かったですよ。普通は剣を持ってる方が安心感があって落ち着くはずなんですよ人間って』
「仕方ないだろう。短剣だったらそこそこ振れると思うんだけどなぁ」
『まぁ素手とほぼ変わりませんしね。でも素手じゃこの学園の決闘制度のときは勝てないですよ』
この学園には決闘制度があり、お互いの意見が噛み合わなかった場合、剣を持ってどちらの意見が正しいかを決める制度だ。
花そそでも、やはり決闘システムがあった物の主人公は女子だ。
決闘で人と闘うことはなかった。
グレシアが主人公に決闘を挑むんだが、代理人として攻略キャラが代わりに決闘を受けてしまう。
校則では同性同士の決闘しか許可されていないため、代理人を立てる必要が生まれて、グレシアに憑く人間も居ないわけで、そのまま処刑へとトントン拍子で進んだ。
そこがおかしいところなんだよな。
あの女帝が、証拠も掴まずに処刑を実行するとは思えないんだよな。
だとすれば理由があったんだろうな。
「意外と早く準備が終わったな」
『5分は早すぎですね。トイレの場所でも把握しておいたらどうですか?』
「男爵家の部屋は備え付けトイレじゃないもんな」
これから住む場所を把握するのも大事なことだ。
俺は部屋を出る。
「ん?あれって」
『知り合いですか?』
「あぁ、あれはグレシアの兄のイルシアだったはずだ」
『例の悪役令嬢の兄ですか。まぁ同じ学園に通う以上、居てもおかしくはありませんね』
いやおかしいよ。
この寮は五階建てだ。
そして一階から公爵家、侯爵家、伯爵家、子爵家、男爵家と分かれている。
別にそう言った決まりがあるわけじゃないらしいけど、一応何かあったときに優先順位を考えてそうしているらしい。
「あいつは公爵家だから滅多なことがなきゃ、ここには上がってこないはずだ」
『友達とかじゃないですか?』
「その線は薄い。イルシアは自分より下の身分の者とは仲良くしないはずだ。まぁ現実だからゲームと違う状態になっている可能性もあるが」
『・・・少し様子をみましょうか』
俺達はイルシアのあとを付けることにした。
しばらく付けていると、階段近くの部屋で足を止めている。
そこに用があるのか。
「バルトフェルド。俺だ」
「イルシア、遅かったじゃないか」
「あぁ、少し親から呼び出されていてな。どうやら厄介なことが起きているらしくてな。俺達も呼び出しを喰らうかも知れないぜ」
「え、学生も呼び出さなきゃいけない様な事なのか?」
「あぁ、詳しくは部屋で話そうぜ。つまみと酒は持ってきてるからよ」
「おー、さすがじゃん。イルシアは気が利くな。他の公爵家の人間とは思えねぇよ」
「身分なんてどうでもいいだろ。ほとんどの公爵家が貴族制度に胡座を掻いてるけど、俺は絶対にあぁはならない!」
「ふふっ、ミルムちゃんは平民だもんな。婚約するためにも身分は邪魔でしかないもんなぁ」
「う、うるせぇ!」
ミルム?
初めて聞いた名前だ。
でも話を聞く限り、イルシアの彼女か何かだよな。
花そそとは違う?
皇子は概ね性格通りだと、陛下の話からわかる。
でもこれじゃあ顔以外まるでゲームのイルシアとは別人だ。
「ここまで性格が違うことがあるか?」
『この世界が偶然乙女ゲー、”花咲く季節☆君に愛を注ぐ”と同じ名前の建物や人がいて性格まで同じ。なのに一人だけ性格が違うってまぁレアケースですよね。まぁ考え得る要素は色々ありますが』
クレの言うとおりだ。
ここはあくまで現実世界だから性格が全く違っても不思議じゃない。
寧ろこれまで色々と偶然が重なりすぎて怖いくらいだ。
まぁ性格が貴族主義じゃないってことは仲良くなれそうだし、深く考えすぎたな。
「ここは現実なんだ。前世の知識は情報の一つとして考えておこう。ってなんだあれ?」
二人が入った部屋の前に四人の男性が現れた。
そしてそのうちの一人がさっきまでドアの前に居た人物にそっくりだ。
『さっきのイルシアという方とそっくりですね』
「おい、もしかしてだ。あのイルシアの話を聞くに、グレシア家の当主は貴族主義の中でも、貴族すら差別する身分制度厳しい人間。だとすると、イルシアが平民と付き合いをしていることは好ましくない?」
だがイルシアの彼女を殺すなんて真似すれば、イルシアを敵に回してしまう。
イルシアとグレシアの二人以外に兄妹は居なかった。
だとすれば当主は当然イルシアに継ぐことになる。
そうすれば当然、現当主が望んだ結果にはならないだろうことがわかる。
「つまり、うちの馬鹿親と同じ・・・いやそれ以上に質が悪い事をしているって事か」
命を奪うだけじゃ飽き足らず、換えの人間を用意している。
つまり、出来の悪い息子を捨てて新しい息子を手に入れたようなもんだよな。
そんなの親としての所業か?
いや、まだイルシアの両親が犯人と決まったわけじゃないか。
『可能性が高いですよね。最近面倒ごと多くないですか?』
「俺だって望んでるわけじゃない。悔しいことにすべて辻褄が合うんだよ」
あの女帝がグレシアを処刑した理由がグレシアの家を、ターニャ公爵家を潰すためだとしたら?
これだけのことをするってことは、何か裏があることはまず間違いない。
だってあれだけそっくりな人間を送り込めるんだ。
『どうします?』
「止める。どのみち替え玉をこのタイミングで持ってきたのは愚策だったな」
『いえ、人が余り居ないことを考えたら絶好の機会とも言えます』
たしかに入学前から入寮することはレイアーノ魔術学園は許されていない。
だったらこれだけ人が居ないのは、彼らにとってこの上ないチャンスだったんだ。
「イルシアがいるぞ。グランマド家の嫡男はどうする?」
「捨て置け。所詮男爵。代わりなどいくらでもいるだろう」
「もうすぐお前がイルシアだ。事が済んだら自ら命を絶て。これでこの国も終わりだ」
どうやら俺の予想は外れていたらしい。
あれは他国のスパイか。
スパイだということが発覚して、一族で処刑されてしまったってところか?
少なくともイルシアのキツい性格は、目の前に居る偽物のイルシアの物だろう。
まぁ邪魔しちゃうし!
兄がちゃんとしてるならグレシアに味方して、破滅ルートも回避できるんじゃないか?
「おい、あんたら」
「チッ。生徒がまだいたか。情報部の怠慢だ」
「いいの?こういうことは、もうちょっと隠れてやるもんじゃないの?」
「お前は知らなくて良いことだ。どうせあと数分後には首と身体が繋がってないだろうからな!」
速いけどイルミナほどじゃないな。
ゴードンにも劣るし、優秀だが精鋭レベルじゃないんだろう。
俺は身体を横に反らして、即座に首に手刀をたたき込む。
多分これで意識は刈り取れただろ。
「隊長!て、てめぇ!」
「くそっ!一旦退くぞ」
「やめてよ。面倒ごとは増やしたくないんだ。妹と友達同伴とはいえ、デートが待ってるからな」
俺はショックボルトを三人にたたき込んで、全員の意識を刈り取る
やっぱ貴族が住む場所だから、こういう危険とも隣り合わせなんだろうな。
俺が在学中は、うちの屋敷にも施した侵入妨害の魔法を付与しとこう。
男子寮はともかく、ミラやイルミナが襲われたら事だ。
『どうするんですか?これを送り付ければ、確実に呼び出しを喰らいますよ?』
「そこはちゃんと考えてるよ」
俺は501号室のドアをノックする。
「は、はい。えーっと、どちら様でしょうか?ってえぇ!?」
「どうしたバルトフェルド?」
「どうもー、俺来週から入学する新入生のリアス・フォン・アルゴノートです。以後お見知りおきを先輩」
「あぁ、よろしく。俺はバルドフェルド・フォン・グランマドだ。ところでそこに転がっているのって・・・」
そりゃあ友人とそっくりな顔した奴が倒れてたら驚くよな。
でも驚かれていては困る。
俺はこの二人に面倒ごとを押しつける気満々だ。
「俺・・・だよな?」
「あ、本当ですね!あなたとそっくりです。双子ですか?」
「ち、違う。あ、すまない。申し遅れたな。俺はイルシア・フォン・ターニャだ。よろしく頼む」
「よろしくお願いしますイルシア先輩。ですが双子でないとするとこれは、先輩を装うために用意した影武者と言うことになりますね」
『もう少し棒読みなのをどうにかしてください。あなたが疑われますよ』
うるせぇ、面倒ごとを押しつけるためには棒読みの方が良いんだよ。
それに女帝が俺の身分は保障してくれるはずだから、やっぱり問題ないだろう。
「そ、そうだな・・・何が望みだ?」
「あ、望みってものじゃないですよ。この人達を関所まで運んでほしいんです」
「・・・何故自分で運ばないんだ?状況から推察するに俺は暗殺されかけた。苗字からわかると思うが、一応公爵家の人間で妹は第一皇子の婚約者だ。そんな奴らに恩を売るチャンスだぞ?」
あぁ、そう言う風に捕らえちゃうんだ。
棒読みにしたから、そんな風に言われるのは予想外だ。
でもどうせだから乗っかろう。
「えぇ。だからあなたに恩を返して欲しいと思って」
「図々しい奴だな。まぁ救われたのは事実だ。望みはなんだ」
「だから関所にこいつらを連れて行って欲しいんです。俺、これから婚約者とデートがあるので、できれば騒ぎにしたくありません。だからこれは先輩方が解決したことにして戴けませんか?」
『ちゃっかりしてますね。善意で助けたけど、見返りを求めないための言い訳をしている人のように見えます』
いやそれ事実だから。
見返りが面倒そうだから要らないんだ。
「それだけか?」
「放置しても寝覚めが悪いので助けただけです。別に皇子の婚約者なんて、国を傾けるほど不出来じゃなければどうでもいいと言うところが正直なところですね。だから俺の名前は出さないで、二人で解決したってことにしちゃってください」
「構わないが、こちらに利が多すぎる」
「それはあなた方の価値観です。デート以上に重要な事が男にありますか?」
イルシア先輩は目を丸くしてこちらを見る。
少し冗談を交えて言ってみたけど、どうやら彼に取っては愉快のある答えだったらしい。
腹を抱えて笑い出した。
「ははっ、そうだな。リアスだったか?ありがとう。俺は暗殺されずに済んだ。それに友であるバルトフェルドも救ってくれた。感謝する」
「存分に感謝してください。そのためにも絶対に俺の名前は出さないでくださいね」
「わかっている」
「俺達は新入生に救われたのかー。と言うか、ここの警備ザル過ぎない?」
「そうだな。こいつらを関所に届けたあと、学園長に進言しよう」
あ、そこまでしてくれんだ。
安眠はしたいもんな。
まぁ俺が侵入を妨害する魔法を付与するから無駄になると思うけど。
「じゃあそう言うことで先輩」
「あぁ。本当にありがとう」
「俺達の方こそ御礼を言いたいくらいだよ。この階に居るって事は家格は男爵?」
「そうです」
「じゃあ今度入寮したら俺が学園を案内してあげるよ。その時君のフィアンセも紹介して」
バルドフェルドはモブキャラに居た気がする。
でもやっぱりモブキャラだから会話の内容までは覚えてない。
ただこんな顔してて、モブの中でもイケメンの方だなとは思ってたから覚えてた。
どんなに天才でも、モブキャラの顔と名前と台詞をすべて覚えている人間なんて存在しないだろう。
「楽しみにしてください。俺の婚約者は美人ですから。あ、イルシア先輩、公爵の立場を使って俺の婚約者を奪おうとしたら容赦しませんよ。あ、でも先輩には彼女がいますか」
「ど、どうしてそれを!」
「さっき聞こえましたからね。俺もこの階に居たんですから。だから声量には注意してくださいね」
「う、うむ」
実際声デカすぎるんだよ。
多分この階に俺達以外が居たら普通に聞こえてたと思うぞ。
「忠告感謝する」
「どういたしまして」
そう言って俺は四人を縛り上げて、魔法を封じるマジックシールを唱えて二人に引き渡した。
万が一目覚められたら困るからな。
「これで完璧です。じゃあ俺はこれで」
「あぁ、また入学後に学園で会おう」
「はいっ!」
そう言って俺はそのまま寮をあとにした。
これからトイレを把握する気にもなれず、待ち合わせ場所に行くまではずっと厨房でメルセデスがおやつを作る光景をずっと眺めていた。
因みにメルセデスが作っていたおやつはカップケーキだった。
20個も作ってるし、そんなにいるか?と思ったけど、クレがよだれを垂らしているので、俺は言葉を呑み込んだ。
因みにメルセデスも一緒だ。
この学園は貴族が入学することもあり、使用人を一人だけ連れてくることができたのだ。
まぁ普通メイドとか連れてくるんだろうけど、メルセデスを連れてきたのは単純に信用できる奴に料理を作ってもらうのは悪いことじゃないだろうし、シェフを連れてくる奴も多いんじゃないか?
花そその登場人物でも、貴族のほとんどが抱えのシェフを連れてきていたのだ。
前世ではどんだけ庶民の料理を口にしたくないんだと思ったけど、貴族って毒殺とかもあるから誰が手を付けたかわからない料理なんて食べたくないって気持ちがわかるし、日本がどれだけ衛生面を考えていたかが死んで初めてわかった。
「俺だけ男子寮だからお前らの事は手伝えないけど、荷ほどきが終わったら適当に帝都にふらつこうぜ」
「わかったー!この学園融通が利かないし宿生活を考えて最低限の服と勉強道具しか持ってきてないし、ボクはそこまで関わらずすぐ終わると思うなー」
「私も同様です」
「え!?二人ともどうして!?ドレスや化粧品とかあるでしょ!?」
アルナが言ってることは、日本の高校だったらそんなもの要らないだろうと捨て置かれるんだろうけど、ここは女性にとっては社交界の練習の場、リハーサルみたいなものだ。
社交界でドレスや化粧品は女性にとっては、防具や武器みたいなもので無防備で行くことがどれだけ無謀なことかわかる。
だから準備は結構罹ると思ったけど、ミラはそもそも荷ほどきするほどの荷物は収納魔法で保管してるだろうし、イルミナは制服以外はメイド服くらいしか持ってきてないんだろうな、メイドじゃないのに。
「ボクは要領がいいからね。アルナの荷ほどき手伝うよ」
「え、ほんと!?ありがとー!さすがミライちゃんですわー」
「僭越ながら私もそこまで時間がかからないのでお手伝いしましょう」
「イルミナまで!これはすぐに準備は終わりそうですわね!兄貴は!」
「いや馬鹿か。入学前から女子寮に忍び込んだら入学取り消しになるわ!」
別にこの学園の生徒としての価値に執着する理由もないけど、精霊契約の儀について調べるためには必要だからな。
「たしかにリアスくんに他の女子の部屋を覗きに行かれるのはいい気がしないなぁ」
『ミライと言う者がありながら浮気なんてしたら、私がリアスを殺します』
「ハイハイ。俺は覗きに行く来もないから安心せい」
「それはそれで健全な男子としてどうなのかな!」
どっちだよ!
あ、ミラの部屋を覗きに行けば解決か。
婚約してるんだし問題ないよな。
「わかったミラの部屋を覗きに行こう!」
「そういうことは言える癖に、いざ実行に移すと顔を真っ赤にするうぶなリアスくんは可愛いと思う!」
「ミラさんや、そういうことは言わないでくださる?」
「ふへへ!」
やはり俺は恵まれているんだろう。
6年前のあの日に、幻獣の森に迷い込んでクレと出会わなければミラとは知り合うことすらなかった。
俺はミラを撫で回しながら笑みをこぼしてしまった。
「なんか楽しそう兄貴」
「リアス様はドがつくマゾですからね。ミラ様に言葉攻めにあって興奮してるんでしょう」
「イルミナ!?俺はマゾじゃないぞ!」
「兄貴、やっぱそっち方向に進んでたんだ。ごめんね幼少期にワタクシとお母様でいじめたばっかりに」
「がーっ!勘違いしてないでさっさと荷ほどきしてこい!」
俺はそのままメルセデスを連れて、広場を後にした。
『甲斐性が無いですね』
「大きなお世話だ」
「坊ちゃん、どうせ今クレの旦那に甲斐性無しとか言われてるんでしょ」
何故わかる。
精霊の言葉がわかるのは、精霊とのハーフのミラを除けば俺だけだってのに。
実はメルセデスも、長年俺達の会話をみて聞いて、言葉を覚えたとでも言うのか!?
『なんとなく今考えてることがわかるので言いますけど、どれだけ頑張っても精霊の言葉がわかるはずがありません。全部「キュゥゥゥゥゥ」って聞こえるんですから』
まぁそれはわかってるんだよ。
精霊の言葉はテレパシーに誓い感じらしくって、音声でじゃなくて感覚で言葉がわかってる感じなんだ。
ちょっとそこら辺よくわからないし、別に困るもんでもないからそういうことにしてる。
「メルセデス、それはお前が俺に対して思ってることじゃないの?」
「そりゃもちろん!」
「はぁ、俺だって怒るときは怒るぞ?」
「6年前に懲りてまっせはい!」
ため息しか出てこない。
たしかにこいつは、俺の目の前で10個も歳の離れた餓鬼の前でチビってるしな。
チビってるとは言わないか。
盛大にぶちまけてるし。
「そうかいそうかい。お仕置きだ。ピクニック用のおやつを俺が荷ほどきしてる間に作ること」
「え!?そりゃ無茶だ坊ちゃん!荷造りが1分で終わったってことは荷ほどきだってそんな時間罹んないだろ!」
「1時間の猶予はあるはずだ。女性陣はどんなに荷物が少なくても時間がかかるんだから。いいな?」
「ひぇぇぇ」
『情けない声あげんなメルセデス!』
「フェ、フェリー。あぁわかったよ。厨房借りれるか聞いてくるぜ坊ちゃん。借りれなかった諦めてくれ名」
「わかったよ」
そう言うとメルセデスは、レイアーノ寮の厨房へと向かって走っていた。
1時間で作れるおやつに限りがあるが、まぁあいつならそれなりの物を作ってきてくれるだろう。
庶民的な物で良いってわかってるしな。
この世界には魔法もあるし、それなりに食事を作るスピードは速いからいけるだろう。
『結構無茶言いますね』
「あ、不満なの?じゃあクレはおやつぬ------」
『メルセデス相手に生ぬるいんじゃないですか?』
手のひら返しがすごい。
こいつもメルセデスがちゃんとおやつを作ってきてくれるのを確信しているんだろう。
さて、1時間って言った以上、ゆっくりと荷造りしないとな。
収納魔法はこの世界で使える人間は本当にごく少数だ。
それもアイテムを媒介にしたインベントリを作る事に対してしか使われないため、俺やミラみたいに直接空間から物を出すのはよろしくない。
だからある程度大きな物は全部寮の中にしまっとかないといけなかった。
俺が下宿する部屋は二階だ。
ある程度出せる物を出す。
俺の場合は教科書とカバン、制服くらいだな。
あと一応剣術の授業もあるらしいけど、俺は剣術はからっきしだった。
ちょっと大きすぎるんだよな。
「一応アルジオの奴が渡したから持っているけど、まぁ使うことはないだろう」
『あのへっぴり腰は面白かったですよ。普通は剣を持ってる方が安心感があって落ち着くはずなんですよ人間って』
「仕方ないだろう。短剣だったらそこそこ振れると思うんだけどなぁ」
『まぁ素手とほぼ変わりませんしね。でも素手じゃこの学園の決闘制度のときは勝てないですよ』
この学園には決闘制度があり、お互いの意見が噛み合わなかった場合、剣を持ってどちらの意見が正しいかを決める制度だ。
花そそでも、やはり決闘システムがあった物の主人公は女子だ。
決闘で人と闘うことはなかった。
グレシアが主人公に決闘を挑むんだが、代理人として攻略キャラが代わりに決闘を受けてしまう。
校則では同性同士の決闘しか許可されていないため、代理人を立てる必要が生まれて、グレシアに憑く人間も居ないわけで、そのまま処刑へとトントン拍子で進んだ。
そこがおかしいところなんだよな。
あの女帝が、証拠も掴まずに処刑を実行するとは思えないんだよな。
だとすれば理由があったんだろうな。
「意外と早く準備が終わったな」
『5分は早すぎですね。トイレの場所でも把握しておいたらどうですか?』
「男爵家の部屋は備え付けトイレじゃないもんな」
これから住む場所を把握するのも大事なことだ。
俺は部屋を出る。
「ん?あれって」
『知り合いですか?』
「あぁ、あれはグレシアの兄のイルシアだったはずだ」
『例の悪役令嬢の兄ですか。まぁ同じ学園に通う以上、居てもおかしくはありませんね』
いやおかしいよ。
この寮は五階建てだ。
そして一階から公爵家、侯爵家、伯爵家、子爵家、男爵家と分かれている。
別にそう言った決まりがあるわけじゃないらしいけど、一応何かあったときに優先順位を考えてそうしているらしい。
「あいつは公爵家だから滅多なことがなきゃ、ここには上がってこないはずだ」
『友達とかじゃないですか?』
「その線は薄い。イルシアは自分より下の身分の者とは仲良くしないはずだ。まぁ現実だからゲームと違う状態になっている可能性もあるが」
『・・・少し様子をみましょうか』
俺達はイルシアのあとを付けることにした。
しばらく付けていると、階段近くの部屋で足を止めている。
そこに用があるのか。
「バルトフェルド。俺だ」
「イルシア、遅かったじゃないか」
「あぁ、少し親から呼び出されていてな。どうやら厄介なことが起きているらしくてな。俺達も呼び出しを喰らうかも知れないぜ」
「え、学生も呼び出さなきゃいけない様な事なのか?」
「あぁ、詳しくは部屋で話そうぜ。つまみと酒は持ってきてるからよ」
「おー、さすがじゃん。イルシアは気が利くな。他の公爵家の人間とは思えねぇよ」
「身分なんてどうでもいいだろ。ほとんどの公爵家が貴族制度に胡座を掻いてるけど、俺は絶対にあぁはならない!」
「ふふっ、ミルムちゃんは平民だもんな。婚約するためにも身分は邪魔でしかないもんなぁ」
「う、うるせぇ!」
ミルム?
初めて聞いた名前だ。
でも話を聞く限り、イルシアの彼女か何かだよな。
花そそとは違う?
皇子は概ね性格通りだと、陛下の話からわかる。
でもこれじゃあ顔以外まるでゲームのイルシアとは別人だ。
「ここまで性格が違うことがあるか?」
『この世界が偶然乙女ゲー、”花咲く季節☆君に愛を注ぐ”と同じ名前の建物や人がいて性格まで同じ。なのに一人だけ性格が違うってまぁレアケースですよね。まぁ考え得る要素は色々ありますが』
クレの言うとおりだ。
ここはあくまで現実世界だから性格が全く違っても不思議じゃない。
寧ろこれまで色々と偶然が重なりすぎて怖いくらいだ。
まぁ性格が貴族主義じゃないってことは仲良くなれそうだし、深く考えすぎたな。
「ここは現実なんだ。前世の知識は情報の一つとして考えておこう。ってなんだあれ?」
二人が入った部屋の前に四人の男性が現れた。
そしてそのうちの一人がさっきまでドアの前に居た人物にそっくりだ。
『さっきのイルシアという方とそっくりですね』
「おい、もしかしてだ。あのイルシアの話を聞くに、グレシア家の当主は貴族主義の中でも、貴族すら差別する身分制度厳しい人間。だとすると、イルシアが平民と付き合いをしていることは好ましくない?」
だがイルシアの彼女を殺すなんて真似すれば、イルシアを敵に回してしまう。
イルシアとグレシアの二人以外に兄妹は居なかった。
だとすれば当主は当然イルシアに継ぐことになる。
そうすれば当然、現当主が望んだ結果にはならないだろうことがわかる。
「つまり、うちの馬鹿親と同じ・・・いやそれ以上に質が悪い事をしているって事か」
命を奪うだけじゃ飽き足らず、換えの人間を用意している。
つまり、出来の悪い息子を捨てて新しい息子を手に入れたようなもんだよな。
そんなの親としての所業か?
いや、まだイルシアの両親が犯人と決まったわけじゃないか。
『可能性が高いですよね。最近面倒ごと多くないですか?』
「俺だって望んでるわけじゃない。悔しいことにすべて辻褄が合うんだよ」
あの女帝がグレシアを処刑した理由がグレシアの家を、ターニャ公爵家を潰すためだとしたら?
これだけのことをするってことは、何か裏があることはまず間違いない。
だってあれだけそっくりな人間を送り込めるんだ。
『どうします?』
「止める。どのみち替え玉をこのタイミングで持ってきたのは愚策だったな」
『いえ、人が余り居ないことを考えたら絶好の機会とも言えます』
たしかに入学前から入寮することはレイアーノ魔術学園は許されていない。
だったらこれだけ人が居ないのは、彼らにとってこの上ないチャンスだったんだ。
「イルシアがいるぞ。グランマド家の嫡男はどうする?」
「捨て置け。所詮男爵。代わりなどいくらでもいるだろう」
「もうすぐお前がイルシアだ。事が済んだら自ら命を絶て。これでこの国も終わりだ」
どうやら俺の予想は外れていたらしい。
あれは他国のスパイか。
スパイだということが発覚して、一族で処刑されてしまったってところか?
少なくともイルシアのキツい性格は、目の前に居る偽物のイルシアの物だろう。
まぁ邪魔しちゃうし!
兄がちゃんとしてるならグレシアに味方して、破滅ルートも回避できるんじゃないか?
「おい、あんたら」
「チッ。生徒がまだいたか。情報部の怠慢だ」
「いいの?こういうことは、もうちょっと隠れてやるもんじゃないの?」
「お前は知らなくて良いことだ。どうせあと数分後には首と身体が繋がってないだろうからな!」
速いけどイルミナほどじゃないな。
ゴードンにも劣るし、優秀だが精鋭レベルじゃないんだろう。
俺は身体を横に反らして、即座に首に手刀をたたき込む。
多分これで意識は刈り取れただろ。
「隊長!て、てめぇ!」
「くそっ!一旦退くぞ」
「やめてよ。面倒ごとは増やしたくないんだ。妹と友達同伴とはいえ、デートが待ってるからな」
俺はショックボルトを三人にたたき込んで、全員の意識を刈り取る
やっぱ貴族が住む場所だから、こういう危険とも隣り合わせなんだろうな。
俺が在学中は、うちの屋敷にも施した侵入妨害の魔法を付与しとこう。
男子寮はともかく、ミラやイルミナが襲われたら事だ。
『どうするんですか?これを送り付ければ、確実に呼び出しを喰らいますよ?』
「そこはちゃんと考えてるよ」
俺は501号室のドアをノックする。
「は、はい。えーっと、どちら様でしょうか?ってえぇ!?」
「どうしたバルトフェルド?」
「どうもー、俺来週から入学する新入生のリアス・フォン・アルゴノートです。以後お見知りおきを先輩」
「あぁ、よろしく。俺はバルドフェルド・フォン・グランマドだ。ところでそこに転がっているのって・・・」
そりゃあ友人とそっくりな顔した奴が倒れてたら驚くよな。
でも驚かれていては困る。
俺はこの二人に面倒ごとを押しつける気満々だ。
「俺・・・だよな?」
「あ、本当ですね!あなたとそっくりです。双子ですか?」
「ち、違う。あ、すまない。申し遅れたな。俺はイルシア・フォン・ターニャだ。よろしく頼む」
「よろしくお願いしますイルシア先輩。ですが双子でないとするとこれは、先輩を装うために用意した影武者と言うことになりますね」
『もう少し棒読みなのをどうにかしてください。あなたが疑われますよ』
うるせぇ、面倒ごとを押しつけるためには棒読みの方が良いんだよ。
それに女帝が俺の身分は保障してくれるはずだから、やっぱり問題ないだろう。
「そ、そうだな・・・何が望みだ?」
「あ、望みってものじゃないですよ。この人達を関所まで運んでほしいんです」
「・・・何故自分で運ばないんだ?状況から推察するに俺は暗殺されかけた。苗字からわかると思うが、一応公爵家の人間で妹は第一皇子の婚約者だ。そんな奴らに恩を売るチャンスだぞ?」
あぁ、そう言う風に捕らえちゃうんだ。
棒読みにしたから、そんな風に言われるのは予想外だ。
でもどうせだから乗っかろう。
「えぇ。だからあなたに恩を返して欲しいと思って」
「図々しい奴だな。まぁ救われたのは事実だ。望みはなんだ」
「だから関所にこいつらを連れて行って欲しいんです。俺、これから婚約者とデートがあるので、できれば騒ぎにしたくありません。だからこれは先輩方が解決したことにして戴けませんか?」
『ちゃっかりしてますね。善意で助けたけど、見返りを求めないための言い訳をしている人のように見えます』
いやそれ事実だから。
見返りが面倒そうだから要らないんだ。
「それだけか?」
「放置しても寝覚めが悪いので助けただけです。別に皇子の婚約者なんて、国を傾けるほど不出来じゃなければどうでもいいと言うところが正直なところですね。だから俺の名前は出さないで、二人で解決したってことにしちゃってください」
「構わないが、こちらに利が多すぎる」
「それはあなた方の価値観です。デート以上に重要な事が男にありますか?」
イルシア先輩は目を丸くしてこちらを見る。
少し冗談を交えて言ってみたけど、どうやら彼に取っては愉快のある答えだったらしい。
腹を抱えて笑い出した。
「ははっ、そうだな。リアスだったか?ありがとう。俺は暗殺されずに済んだ。それに友であるバルトフェルドも救ってくれた。感謝する」
「存分に感謝してください。そのためにも絶対に俺の名前は出さないでくださいね」
「わかっている」
「俺達は新入生に救われたのかー。と言うか、ここの警備ザル過ぎない?」
「そうだな。こいつらを関所に届けたあと、学園長に進言しよう」
あ、そこまでしてくれんだ。
安眠はしたいもんな。
まぁ俺が侵入を妨害する魔法を付与するから無駄になると思うけど。
「じゃあそう言うことで先輩」
「あぁ。本当にありがとう」
「俺達の方こそ御礼を言いたいくらいだよ。この階に居るって事は家格は男爵?」
「そうです」
「じゃあ今度入寮したら俺が学園を案内してあげるよ。その時君のフィアンセも紹介して」
バルドフェルドはモブキャラに居た気がする。
でもやっぱりモブキャラだから会話の内容までは覚えてない。
ただこんな顔してて、モブの中でもイケメンの方だなとは思ってたから覚えてた。
どんなに天才でも、モブキャラの顔と名前と台詞をすべて覚えている人間なんて存在しないだろう。
「楽しみにしてください。俺の婚約者は美人ですから。あ、イルシア先輩、公爵の立場を使って俺の婚約者を奪おうとしたら容赦しませんよ。あ、でも先輩には彼女がいますか」
「ど、どうしてそれを!」
「さっき聞こえましたからね。俺もこの階に居たんですから。だから声量には注意してくださいね」
「う、うむ」
実際声デカすぎるんだよ。
多分この階に俺達以外が居たら普通に聞こえてたと思うぞ。
「忠告感謝する」
「どういたしまして」
そう言って俺は四人を縛り上げて、魔法を封じるマジックシールを唱えて二人に引き渡した。
万が一目覚められたら困るからな。
「これで完璧です。じゃあ俺はこれで」
「あぁ、また入学後に学園で会おう」
「はいっ!」
そう言って俺はそのまま寮をあとにした。
これからトイレを把握する気にもなれず、待ち合わせ場所に行くまではずっと厨房でメルセデスがおやつを作る光景をずっと眺めていた。
因みにメルセデスが作っていたおやつはカップケーキだった。
20個も作ってるし、そんなにいるか?と思ったけど、クレがよだれを垂らしているので、俺は言葉を呑み込んだ。
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