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三章

終わりと黒幕の影

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『さて、リアス。詳しく説明してもらいましょうか』

「いやあとでいいだろ。ここじゃ誰に見られてるかわからないし」

 俺だってクレに相談したいことは山ほどある。
 契約紋が光ったあと、魔法が使えたこともそうだけど、リリィとニコラが投与したあの薬物の成分についてや、それは誰が何のために作ったとか。
 しかしここは人の目があるしな。
 しかもどうやら国の重鎮様達も続々と来てるみたいだし?

『ふむ。エルーザも来ていますか。そうですね。部屋に戻ったら聞かせてもらいましょう』

「あぁ」

 なんで陛下まで来るんだよ。
 大ごとになりそうだなぁ。
 めんどくさいなぁ。
 いやもう大ごとにはなってるか。
 しばらくすると穴へと降りて行ったスカイベル様とセミール先生がミラ達を連れて戻ってきた。
 早い帰還だな。
 ってあれ、ニコラか?
 頭が半分ないから、確認はできないけど。
 
『どうやら貴方が倒せなかった騎士は、ミライ達が討伐した様ですよ』

「見りゃわかるわ!」

 にやにやとこちらを見ながら俺をからかうクレに抗議の眼差しを向けるも、かるーくスルーされた。
 ちっ!
 今は人目もあるし何も言わないけど覚えとけ。
 ミラが俺の方に急いで駆け寄ってくる。
 まぁ俺が闘技場の壁にもたれかかって立とうともしないからなんだけどな。
 ていうか立てない。

「リアスくん!?大丈夫?なんともない?」

「そのまんま返すよ。イルミナやグレシアはともかく他の奴らを見ながら、ニコラの討伐は大変だっただろ?」

「ううん。アルバートは面倒だったけど、他のみんなはそんなことなかったから大丈夫」

 そのアルバート殿下様と言えば、スカイベル様に背負われてる。
 見た感じ気絶してるな。
 グランベルはセミール先生が担いでる。
 あいつは顔が真っ赤に腫れてることから、おそらくセミール先生がボコったか。
 ニコラは騎士だし、そもそも薬物投与の所為でそんなピンポイントな手加減なんてできない、というかしないだろう。

「疲れたわ。どっこらせっ」

「年寄りくさいわね」

 グレイとグレシアが俺の横に座り込んだ。
 二人も聖魔法で頑張ってくれたんだろう。
 
「がんばってくれたのはわかるがグレイよ」

「なんだよ?オレは疲れてんだ」

「それはわかるけど、あれはないんじゃないか?」

 イルミナがリリィを抱えてこちらに来た。
 この中で一番力が強いとはいえ、女性に人ひとりを抱えさせるのはどうなんだ。

「そりゃ最初はオレが持つって言ったんだけどな」

「バカ言わないでよ。抱えられる女性がいるのに、未婚の淑女を男性に抱えさせる気!?」

 そうだなー、ここ貴族社会だったなぁ。
 こういう小さな気配りも、処世術なんだろうなぁ。
 世知辛い。

「まぁリアス様に淑女の心得を説いても仕方ありませんね」

 リリィをそっと降ろすイルミナの言葉は棘がある。
 失礼だろ。

「だよねー!安いからって、婚約者が同伴してるのに娼婦がよく利用する宿に泊まろうとするんだもん」

「え、リアスそんなことしたの!?マジ引くわよ!?」

「嘘だろ!?そりゃないわー。デリカシーがない」

『グレイに言われたらおしまいですね』

 いや返す言葉もないよ。
 金があるのに貧困生活を送るなんて馬鹿らしい。
 
「俺の反省するべき点だな」

「そうだよ!もっと反省して!」

「ミライはリアスが落とされただけでかなり動揺してたんだよ!精神的に弱いんだから貴方が支えないと!」

 グレシアの発言を聞いて俺はミラを見ると、耳まで真っ赤に腫らしてる。
 可愛いなおい!

「へぇ、そうなのかミラ?」

「なんで言うのグレシア!もーっ!ボク知らない!」

 なんか平和が戻ってきた感じがしていいなこれ。
 まさかこんな事態になるとは想像してなかったからあれだけど。

「まぁ何はともあれ、お疲れみんな」

「それって私の台詞じゃない?」

「違いねーな!グレシアの婚約破棄の決闘だしな」

「ふふっ」

「グレイ、せっかくリアスくんが綺麗にまとめようとしてるんだからそこはおうっ!て言わないと」

 うん。
 なんか締まらない!
 想像と違った!
 こっちが恥ずかしくなってくる。

「はぁ、そういやグレシアとアルバート、両方同時に落ちたみたいだけど、決闘の結果はどうなるんだ?」

「引き分けでしょうね」

「「シャルル先生」」

 シャルル先生の声が上からするから向いてみる。
 どうやら避難誘導が終わったんだな。
 しばらく俺の元にいた先生は、ジノア達じゃ収集が付かなくなったから共に誘導に向かった。
 ローウェイ先生はパルバティとガーデルを運びに、リューリカ先生はジノアの元に向かったみたいだ。
 おかげで堂々とクレと話せたのはよかった。

「忙しかった・・・」

「引き分けだとどうなるんですか?」

「決闘の無効、あるいは再戦となるな」

「再戦・・・神は見ているとか言って、勝手に勝敗が付くよりは良いのかな?」

「教会がないか言うかは大丈夫だ、問題ない。なにせ学園始まって以降で、引き分けという結果を出した人間が居なかったものでね。正直どうすればいいか迷っている」

 だろうな。
 今回みたいなのは異例中の異例だろう。
 本来であれば確実に勝敗が決まる。
 あー、でもどうなんだろう。
 
「これって肉眼で決めてたりするんですか?」

「いや、魔道具を使って正確に落ちた時刻を記録しているよ」

 だとしたらアルバートとグレシアは同時に落ちたんだろう。
 同時に王を取るなんて難しいし、サシや勝ち抜き戦では確実に勝敗は決まる。
 
「教会がどういうか待ちって事ですか?」

「いや、今回は第三者の介入があったからな。一度決闘はこちらで預からせてもらうのが筋だ」

 なるほど、シャルル先生は気づいていたのか。
 ガランがリリィに何かしたことに。

「それにしてもガランの奴は一体何を考えてたんだろうか」

「それは本人に聞くのが一番じゃないかしら?」

「いれば苦労しないんだけどな」

 おそらくどこかへと姿を眩ましただろう。
 ミラに実行現場を見られて尚、平然と皇族として居座るのなら顔の皮は厚い。

「たしかに私でもこの状況なら、しばらくは姿を見せないわね」

「だろ?お前的には決闘に関してはそれで納得できるのか?」

 グレシアが当事者なんだ。
 この状況は言ってしまえばアルバート側の不正。
 不戦勝と言っても差し支えはないだろう。

「そうね。個人の気持ちとしても、なんとも言えないわね。決闘が成立するならそれに越したことはないわ」

 それが成立するならいいとは思う。
 個人的には、グレシアとアルバートが穏便に婚約破棄することができればそれでいいしな。

「どうかな。あの教皇がそれを許すとは思えない。おそらく決闘が成立しても、なんらかの方法で覆してくるだろうな」

 シャルル先生はそう言うがわからない。
 ガランに連れられて来た教皇が、皇子につくメリットが然程あるとも思えない。
 なにせ当の本人がこの事態を招いているからだ。
 下手をすれば責任問題を問われてもおかしくない。
 それとも俺には知らない何かが教会にはあるのか?
 
「理由を聞いても?」

「簡単に言えば、歴代で同じ国に3人も聖獣と契約した人間が存在していることが、過去にはないんだ」

 聖獣が全員ぽんぽん言うことを聞くとも思えないしな。
 グレシアの相棒のメシアや、グレイの相棒のクロは精霊契約の儀で契約したわけではないわけだし。
 
「二人はボロを出したのか?」

「地下では聖魔法を使ったが、決闘中は使用してないぞ?」

「私も同じね。そもそも決闘の時、相手側の人間と出会ってすらいないわ」

「今の話じゃない。君達、ガラン様が何故教皇をここに連れてくることができたかわからないのか?皇族とは言え、他国から見たらたかが第二皇子だぞ?」

「俺達はリリィ、聖女を観に来たと思っていましたけど」

 実際、聖女を観に来たんじゃないかと思ったけど、もしかして教国には聖獣と契約してるかどうかわかる手段がある?
 
「リリィくんは帝国の聖女様だ。教会が認定をしたな。だから別に問題を起こさない限りは、普通は教皇は来ない。だとすれば何故来たか。君達が聖獣と契約していることを知っているから出来る憶測だ。真意や事実はわからないけどな」

 じゃあ教国には聖獣と契約しているかどうかをわかる手段があると断言はできないな。
 だとしたら------

「ガランが二人が聖獣と契約していることを知っていて、それを教皇に流したって事ですか」

「あくまで可能性の話だけどな」

「つまり教皇の狙いは、グレシアを国外追放させて抱え込むっていう筋書きかな?つまり引き分けの場合はボク達の負けに近いって事になるのかな?」

「近いと言うより負けだろ。下手したら勝利しても、何かしらの因縁を付けてきそうだ。なにせ狙いはグレシアを抱え込むことなんだからな」

「人の人生をなんだと思ってやがんだあの教皇!」

「ありがとうグレイ。でもそれは貴族に生まれた以上仕方ないと割り切っているわよ」

「グレシア、お前の人生は・・・」

 グレシアの人生は、間違えた方向に進むと帝国が滅んでしまいかねない。
 内容を伝えてはあるしそもそもこの世界は花そそだけの世界とは限らないけど、それでも確実にならないとは言い切れないしな。

「わかってるわよ。それよりも私達に内通者がいる可能性、あるわよね?」

「あぁ、それはあるだろうな。先生だったりして?」

「おいおい、私を疑うな」

 シャルル先生以外にも、リューリカ先生とか色々な人物がグレシアが聖獣の契約者、聖女だと知っている。
 つまり疑ったらキリがないわけだが。

『一人疑わしい人物が居ますよ』

 疑わしい人物?
 クレに誰だよって問いただしたいけど、先生の前でそれをするわけにはいかない。

『よく思いだしてください。この決闘ではグレシア以外にも被害を被る人間が居ることを』

 グレシア以外に被害を被る人間?
 誰だ?
 イルシア先輩か?
 いや、妹を貶める方が被害を被るしそれはないだろう。
 クレがそう言うんだ。
 もっと別の人間だ。

「リアスくん、グレシア以外で被害を受ける人って、ジノアじゃない?」

「ジノア・・・」

 たしかに元はと言えば、グレシアがジノアと不貞をしていると言う理由からアルバートに決闘を申し込まれた。
 そしてグレシアが国外追放になると、ジノアは第一皇子の婚約者を寝取ったクズとして皇位継承権は絶望的になると同時に、聖女という後ろ盾も無くなる。
 アルバートも公爵家の婚約者という後ろ盾が無くなるが、どっちにしたって候補者が全員完全に消えることに変わりない。
 じゃあジノアが皇位継承権を失って得する人物は、やはりガランとアルバートって事になる。
 でも二人はグレシアが聖女だと知りうる手段がない。

「俺達の中でジノアが皇位継承権がなくなって得する人物っているか?」

『もっと頭を柔らかく考えて下さい。ジノアが皇位継承権を失う時、彼を貶めることの出来る最も疑わしい人物がいたでしょう?』

 皇位継承権を失うときって、アルターニアの家のシャルネ公爵家で不貞を行ったと思われる現場を作られてハメられた話だよな。
 ジノアを貶められる最も疑わしい人物って、一体誰だ?

「ラーフェミア、ラミアさん?」

「どうしてそっちが出てくるの!ここまで来たらボクでもわかったよ」

「私もわかるわね。身内で且つ疑わしい人間って」

「セバスだろ?セバスは俺達の内情をジノアから聞いているだろうし、ジノアが意識を手放したときにセバスも近くにいたはずだ」

「あぁ、セバスさんか!」

『リアスって、たまに抜けているところがありますよね』

 セバスさんが内通者、無意識のうちに候補から外してた。
 それは願望混じってる。

「セバス様が内通者だとして、わたし達がそのことに気づいたと知れたら、非情にまずいですね」

「だよな。イルミナの言うとおり、俺もそう思ったから無意識に候補から外してた」

「何がまずいんだ?」

「わからないか?複合魔法が使える上に、近接戦闘はイルミナ以上で、恐らく剣聖とも互角に戦えるレベルだぞ」

 つまり手が付けられないってことだ。
 正直セバスが敵になるのは、俺として避けたい。

「多分、あんたらが言ってることは正しいと思うぜ」

「僕としては残念だけどね・・・」

 また闘技場の上から誰か・・・ってジノアじゃん。
 もう一人いるけど、こいつってたしか・・・

「よっと。初めましてだな。俺はホウエルだ。ガラン様の側近騎士をしてる」

「ホウエル!あーいたねそんな人」

「結構扱い酷くね?」

「ガラン兄上にはいい印象がないからね。そんな紹介したらそうもなるでしょ」

 ジノアとホウエルが闘技場から降りてきた。
 まぁそんなことよりも------

「どうしてジノアが、ガランの側近騎士と一緒なんだよ」

「深い事情があるんだよ。ホウエルは騎士としてはかなり優秀な方だから、連れてきたんだけどよかったよ。おかげで色々と収穫もあったから・・・」

 そう言いながらも、声のトーンからあんまり嬉しい内容ではないことがわかる。
 セバスは、ジノアの側近で恐らく小さいときから付いてもらってるんだろう。
 俺で例えるなら、メルセデスが裏切っていたことになるからな。

「セバスさん・・・いやセバスが裏切っていたことが正しいってどういうことだよ」

「そうだね。でも悪いんだけど、シャルル。君は席を外して欲しいんだけどいいかな?」

「わかりましたジノア様。リアス、ジノア様に苦労をかけさすなよ」

「なんで俺だけなんですか」

「お前がこのグループの中心だろうが!胃痛のネタを増やすんじゃ無い!」

 ひでぇなおい!
 まるで全部俺が悪いみたいな言い方。
 
「俺の所為じゃ無いだろうがぁぁぁああ!」

「はいはい。リアスくん、馬車出してー」

「早くしてよリアス」

「少しくらい抗議してもいいだろよ。はぁ、まぁいいや」

 俺は馬車を取り出す。
 聞かれたらまずい話なのかは知らないけど、シャルル先生を外したのは恐らくそう言うことだろう。
 だからミラは馬車をすぐにチョイスしたわけだし。

「ほれ」

「ほぉ、収納魔法って奴か。初めて見たな」

「リアスはアルゴノート領の物産品を手がけてるからね。これだけで驚いてたらキリが無いよ」

 なんか俺がすごいみたいな言い方してるが、多分リリィもその気になればできたことだと思うぞ。
 
「あ、そうだ。リリィ------」

「リリィくんは私が見ていよう。安心して話してこい」

 まぁシャルル先生なら、下手に教皇がなんか言ってきてもそれとなく躱せそうだしな。
 取りあえず俺達は話をするために、馬車へと入った。
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