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四章
転生特典とか言うやつ
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こいつムカつくけど、とりあえずレアンドロって奴に付いての情報がほしいから聞きに来たんだ。
目的を見失うな。
「リリィに聞きたいことがあるんだ」
「おっさんに話すことなんかないわ!」
「ぐぬぬ・・・」
「リアスくん、こらえてこらえて」
今にもぶん殴ってやりたい気持ちを押し殺して、俺は言葉を続ける。
「たしかに一方的に話を聞くのもフェアじゃないよな。まず一つ聞きたいが、リリィは前世でプレイしていたゲームがこの世界に模している・・・似ているトコロはあるか?」
「えーっと・・・うん。貴方とそこの肩にいる風神、それに雷神の見た目が龍じゃなくて人型ってところや、そこのメイドさん?イルミナだったかしら?彼女以外はわたしがプレイしたゲームに登場する人物よ」
ってことは雷神は出てきたのか。
ミラはハーフだから人型オンリーだから、こいつがプレイしたゲームに出てくる雷神はミラの父親かもしくは全く別の何かかだな。
「へぇ、ボクが出てくるんだ。そこはリアスくんがプレイしたゲームとは違うんだね」
「え、違うってどういうこと?」
俺も赤桐から聞いた話だから半信半疑の情報なんだよな。
でもリリィの言ったことで、赤桐の情報が正しかったことは確信出来た。
「俺が前世でプレイしたゲーム、花咲く季節☆愛を君に注ぐって言うゲームがあったんだが、この世界はそのゲームにあった情報と酷似しているんだ」
「えーっとこくじ?」
「あぁーうん。似てるんだよ、俺がプレイしたゲームと情報だけならそっくりだ」
「待って待って!情報が多すぎて頭がパンクしそう・・・」
混乱するよなまぁ。
もしこの世界をゲームの情報ありきで生きてきたとしたら、それがすべて崩れ去ろうとしてるんだからな。
正直俺だって最悪の気分だ。
「わたしがプレイしたゲームは、禁断の恋~どんな障害も乗り越えて必ず愛して見せる~ってゲームだったわ」
「タイトルだけじゃどんなゲームかはわからない」
「アニメ化や実写映画実写化までしたのに!?」
それくらい有名なら知ってるはずだけどな。
集めてはなかったけど、仕事柄目にすることは多かったし。
「悪いけどわからん。簡単に説明してくれ」
「仕方ないわね。恋愛シュミレーションゲームくらいはわかるわよね?」
そりゃ日本人ならわかるよ。
俺は頷く。
「その所謂乙女ゲーって奴なんだけど、攻略対象はグランベル、パルバディ、グレイなのよ」
「ん?アルバートはいないのか?」
「いないわね。彼は敵キャラ出てくるの。ラスボスの雷神を召喚するのも彼の魔法ね」
アルバートは攻略キャラですらないのか。
敵キャラだから重要ポジションではあるけども。
いや、名前が同じだけで別キャラ説も。
「シナリオ通りに学園生活は進んでいないけど、概ね性格と顔はゲームと同じよ」
なるほど、アルバートが別キャラって線はこれで無くなったな。
しかしそれよりも気になることがあった。
「え、マジか。グレイはお前にメロメロって設定じゃないのか?」
「おい、ちょっと待って聞き捨てなら------」
「悪いリリィ、続けてくれ」
ここで話を切るな。
グレイの話は無視して続ける。
「え、っといいの?」
「いや、ダメ------」
「あぁ問題ない。少しグレイは黙っててくれ」
「なぁ、これオレが悪いの・・・?」
話を遮ると言う意味ではお前が悪いと思うぞ。
グレイのことをグレシアが慰めてるしほっといて良いだろう。
「そ、それじゃあ続けるわね。禁恋での主人公の男爵令嬢が彼らを攻略するゲームね」
「主人公自体お前じゃ無いんだな」
「え、なに?貴方のプレイしたゲームって主人公わたしなの?」
「その通りだけど、俺がプレイしたゲームのことはあとで話してやるから先に説明頼む」
「わかったわ。わたしがプレイしていたゲームの主人公の男爵令嬢の名前は、ヨリア・フォン・ラングードって言うの」
全員が驚いていることがわかる。
ヨリアと言う名前で、家名がラングードと言う男爵令嬢を一人知っているからだ。
「お前って、もしかしてショタコンか?」
「え、いやあの・・・えっと・・・エヘヘ・・」
エヘヘじゃねぇよ。
いや俺も人のこと言えないけどな。
15歳婚約者にしてる精神年齢44歳だけどな!?
いや正確には 9歳に前世の記憶に目覚めたから35なんだがそんなことはどうでもいい。
「主人公は教師なのか」
ショタコンって言ったのは、ヨリア・フォン・ラングードって教師がこの学園にいるからだ。
しかもたしか今年で28歳だったはず。
禁断の恋って、教師と生徒の禁断恋愛って事だったんだな。
いや女子高生だったんなら、攻略対象も同い年くらいだからいいのか?
うーん。
「実はそうなのよ。しかもこれが日本の少子化があまりにも酷くなってて大ブレイクしたのよ!すごいわよね」
「いやすごいかどうかは知らんけど」
「わたしも大ファンで色々とグッズも集めたのよ。わたしはパルバディ推しだったんだけど、彼はヨリアに諭されることで、自分の間違いに気づいていくのよ!それがもう可愛くて可愛くて!だから彼のグッズも集めていったわけ!今はあんなにツンケンしてるけど、多分ヨリアに諭されたらきっと元の彼に戻ると思うのよ!彼、今回の決闘で一番最初に落とされたし、見込みはあるんじゃないかしら?だってだって、彼は人一倍プライドの高い人間だし、負けた自分に納得出来ないで居るはずなのよ!それでちょっとした事件が起こるんだけど、そこをヨリアに守られて自分がどうするべきなのかを説かれるの!そこからが恋の始まりね!パルバディはその言葉がどうしても頭から忘れられず、今までにしてきたことを鑑みて、何がどう間違っていたかを思い返すの。そして宰相である父に認められたときに、ヨリアの顔を思い出し自分の気持ちに気づくの!大体好感度が☆3くらいになった時にそのイベントが起きるのよね。あ、好感度制度は五段階で------」
「あぁ、お前がパルバディの事を好きなのはわかった。わかったからもう少しゆっくり話してくれ・・・」
早口過ぎるし長い。
一応イルミナにメモを取ってもらってるけど、全部かけてるのかな?
いやドヤ顔してるわ。
多分書けてるんだろう。
すげぇな。
「えぇー!ここからがいいとこなのにぃ!」
「こいつの話なげぇだろ。俺も子供ん時から聞かされてるんだ。一度話し始めると止まらないぞ?」
グランベルが遠い目で俺のことを諭してくる。
いやー、これを子供の時からずっととか地獄かよ。
マシンガントークって、聞いてる側はあんまり情報入って来ないんだよな。
「なんでそんなパルバティが好きなのに、アルバートにくっついてんだ?まさかアルバートを踏み台にしてパルバティを狙って?」
「いや、現実の俺様キャラに魅力なんか感じないわ。自分が正しいと思ってるとか痛過ぎ。わたし平民出身だし、日本でも庶民だったし無理!」
いや言いたいことはわかるけど、じゃあなんでグレシアから奪ってまでアルバートにくっつこうと?
乙女ゲームをプレイしているってことは、それに連なる作品も見てるだろうし、この方法で婚約者から皇子を奪ってもろくなことにならないのに。
「アルバートがラスボスを召喚するのは、廃嫡されてグレシアと一緒に追放されたからなのよ。だから皇太子の座を捨てるのも、グレシアが婚約者になるのも止めないといけなかったわけよ!」
なるほど、それだと確かに一番手っ取り早い方法はアルバートをグレシアから奪うのが早いわけだ。
「俺もその話を聞いてたからな。できるだけアルバートの野郎を矯正できれば良いなって思って頑張ったんだが、まぁ結果は見ての通りだ」
「それでわたしがグレシアから婚約者の座を奪おうとしたわけよ」
「へぇー、これはもう最終手段だったってわけなんだ。ボク的には君達の事情を考慮しても、友人の婚約者を奪ったことに変わりはないと思うし、報復しても問題ないと思うんだけど?」
手に電撃をばちばちと纏わせて、二人に不適な笑みを向けるミラ。
「俺は止めたんだぜ?でもやるって聞かなかったんだわ」
「えぇ、これはわたしの責任よ。グランベルは何も関係ないわ。報復するならわたしにしてちょうだい」
お互いかばい合ってるんだろうけど、ミラは本気じゃないだろう。
怒ってるときはこんなもんじゃない。
数年前、ミラのいちごのショートケーキのいちごを取ったらマジギレされて死にかけた。
まぁ俺が悪いけど。
「冗談だよ。本気にしないでよ」
「まぁでもお前達がしたことはそういうことだぞ?一人の人間を不幸にする形になったかもしれないんだ」
「うん・・・」
そうやって沈むところが子供って感じするな。
女子高生から転生したとしたら、前世の知識なんて大して多くないだろう。
ある意味ゲームでの出来事を軸に影響が出るのは仕方ない事なのかも知れない。
寧ろよくありがちなバカヒロインみたいな対応をしなかったからまだいいだろうよ。
「攻略キャラ達・・・パルバディについてはよくわかったが、グランベルとグレイとガーデルについては何も問題ないのか?」
「オレ達がいる前でよくづかづかと聞けるよな」
「苦労するなグレイ」
「わかってくれるがグランベル!」
「いや、付き合いが浅いからわからん」
「グレイって、どの立場でも同じ扱いにされるのな」
可哀想に・・・
「グランベルは、普通に王道ルートだと思う。王道過ぎて面白みが無いかな」
「これ本人の前で言うんだぜ!?幼馴染みとしての情はねぇのかようあああ!」
「いやストレート過ぎてコメントしづれぇんだけど・・」
多分、ここ一週間リリィに付きっきりだったことから、少なからず好意があるだろうに。
まぁ人の恋路に口出しするのは良くないしほっとこう。
「ガーデルルートは?」
「ガーデルはあの通りクズでしょ?だから主人公が指導していくんだけど、立場に傘を立てて貶めていくのよ。結果的に主人公は奴隷落ちまで行くんだけど、そこからガーデルの転落生活が始まって、ガーデル自体も奴隷になるのよね」
「いや、急に壮絶だなおい。なんでガーデルだけそんな重たい設定なんだよ」
「制作者に文句は言って。そして奴隷として再開するふたりは、お互いをかばい合うことによって愛を育んでいくの。そして一年の時を得て、二人は奴隷から解放されて元の貴族に戻るんだけど、奴隷オチした主人公は傷物として親から虐げられるのよ。そこをガーデルが救い出すってストーリーよ」
「いや、一人だけ重てぇんだよ設定。しかも今あいつは殺人未遂で牢屋にいるぞ。ルートまっしぐらじゃん!」
「いやガーデルは奴隷落ちでもしないと元に戻らないわよ?ガーデル以外のルートでガーデルを説得する回があるんだけど、すべての選択肢どれを選んでも彼の心が変わることはなかったんだから」
いや、それはなんとなくわかるよ。
あいつ話を聞かないタイプだし、一回痛い目でも見ないと治んないだろうとは思うけど。
「はい!終わり!そっちがプレイしたゲームを教えてよ!わたしは未知の病原体で死んじゃったんだから!もしかしたらこのゲームの姉妹シリーズかも知れないじゃん!」
「死因は病死だったのか」
「そうよ!わたしは、優しいママとパパに育てられたのよ!こっちの世界でも最初だけは優しかったお母さんとお父さんだったけど、てぃっくんが聖獣とわかると目の色を変えてわたしを売ろうとしたのよ!」
聖女を出した家は、一生安泰だって言うしな。
そうだとしても、教国や教皇の言いなりになるのなんてごめんだ。
「だけどなんで売ろうとしたんだ?別に聖女とわかったところで、この世界では敬われる事はあっても不便することは無いだろう?それとも自由が欲しかったのか?いやそれならアルバートが帝国を滅ぼさないようにするために自己犠牲は選ばないか」
「え、本当に言ってる?聖女の裏設定ってそっちのゲームではなかったの?」
「裏設定?」
聖女の裏設定なんてなかったはずだ。
「聖女は拷問の末に、聖人君子になるんだよ!?精神を壊されてさ!」
「ッ!?」
嘘だろ?
あまりにも予想外過ぎる。
いや、予想が付きそうなもんだったけど、さすがにあり得ないだろうと見逃してしまった。
盲目的に、言われるまで気づくことが出来なかった。
「まさか教国がそこまで・・・」
「実際、俺がリリィの事を父に言わなかったら、その未来もあり得たであろう未来だ。なにせ、リリィは帝国で保護するって提案したところ、断固拒否の姿勢を見せたらしいからな教国は」
それは世界に黒だと言うことを発布してるような物だ。
いや、拷問の末って情報が無ければわからないから何とも言えない。
精霊契約の儀といい、命をなんだと思ってるんだ。
今の教国は、まるで前世の父親を見てるみたいだ。
「たしかにそれは災難だったな」
「おかげで幼少期は恐怖の記憶しか無いわ。女子高生としての記憶が無ければ折れていたかも知れない」
いやこれは本当に前世の記憶に救われた形だろう。
前世の記憶が無ければ本当に精神を壊されていたかも知れない。
ある意味選ばれた存在とも言えるけど。
「お前の幼少期に比べたら、俺の幼少期は可愛いもんだな。精々、親に虐待されてたくらいだからな。今はそうでもないけどよ」
言ってて思ったけど、転生者は虐待される傾向でもあるのか?
実際俺もリリィも親からの虐待を受けてる。
脱却方法はかなり異なるけど、それでも事実としてそれはあるよな。
「虐待受けてたんだ。そうだ話してよ!わたしだって話したんだから、ゲームのことから前世の死因と今生の出来事!」
「いやそんなに話してねぇだろ!」
「いいじゃん!おっさんのケチ!」
「おいてめぇ、自ら地雷原に入ってくるとは良い度胸してんじゃねぇかよ」
「おっさん呼びが嫌なんだろうけど、実際年齢的にはおっさんでしょ?」
「今はお前と同い年だドアホ!」
「あーもう、始まった!リアスくん、いい加減にして!」
「リリィもだ。これじゃ話が進まねぇぞ!」
ギャアギャア2人で罵り合いは結局夜まで続いた。
結局その日は、転生者のレアンドロについての話が全く聞けなかった。
*
アルゴノート領には隣接する領地がいくつかある。
そのうちの一つであるヘルナーリット子爵家とは、友好的な関係が続いているがどぶさらいをよく思わない領地ももちろんあった。
リンガーウッド侯爵家だ。
リンガーウッドの当主、マルデリン・フォン・リンガーウッドは生粋の貴族主義の家系で、アルゴノートが平民たちに媚を売っているのが貴族の恥として許せないと思っていた。
「アルゴノートは貴族に相応しくない!しかし彼らを表立って制裁すれば、私まで裁かれてしまう」
実は今までそう思ってアルゴノート家に度々暗殺者を送っていたマルデリンだったが、暗殺者は全て戻ってくることはなかった。
リアスが排除して帝都に罪人として送り付けられていた。
暗殺者達もマルデリンに襲われた被害者で、家族を人質に取られていて仕方なく行動をした領民ではあったが、いくら被害者だからといってリアスは自身を殺しにきた人間を許したりしない。
結局その家族は全てマルデリンが予め殺害していたのだから無駄に終わった。
「帝都ではあの子息はかなり名声をあげたと聞いた。このままだと、どぶさらいが本当に誹謗中傷になりかねん。いったいどうすれば・・・」
「ふふっ、お困りのようですね」
「誰だ!」
そこに立っていたのは初老の男性。
セバスだった。
「どこから入った!」
「さぁ?どこでしょうね?」
セバスは撤退命令を依頼者から受けていたが何もせずに帰っては、自身の考えてる計画に確実に遅れが生じてしまう。
だから少しでも打撃を与えるために、アルゴノートに恨みを持っているリンガーウッド領に訪れたのだ。
「おい!衛兵!どうして来ない!」
リンガーウッド家は、貴族の中でも一際アルゴノート領に恨みを持っている家系であり、そして侯爵家で最も人望の無い貴族だった。
故に衛兵達は、自分達で行動こそ起こさないがネズミ一匹だって通してしまうほど警備はガバガバだった。
「くっ!何故だ!」
「貴方のような方を私は尊敬しますよ?」
「・・・ほぉ?」
セバスは皮肉めいてそう口にしたのだが、マルデリンはそれを良いように捕らえていた。
赤い悪魔と呼ばれた男はマルデリンの様な人間が特に嫌いだと言うのに。
「これを貴方にお送り致します」
一つの瓶を懐から取り出すセバス。
見るからに危険なその薬物は、さすがのマルデリンも眉を上につり上げる。
「なんだそれは?毒か?」
「いえいえ、これは自分を強化することができる薬ですよ。貴方は選ばれた人間です。ですが気を付けてくださいね。これは高貴なる血の人間以外に投与すると、暴れ狂う魔物と化してしまいます。使うのは貴方様だけにしてもらいたいです」
マルデリンは侯爵家でありながら、その貴族主義の強さから妻を一人も娶っておらず、次期領主の子供がいなかった。
なので、リンガーウッドには高貴な血はマルデリンのみだったため、セバスは確実に彼が薬物を投与するようにそう言い放つ。
「これを・・・私が使えば・・・アルゴノート領をどうにかできると?」
「はい、もちろんです」
「ふふ・・・ふははははは!」
本来であれば得体の知れないセバスの言うことは絶対に疑うはずなのだ。
にも関わらずマルデリンは一切疑うことなくその薬を手にし、薬物を口にへと運び飲み込んでしまった。
「ほぉ・・・力が湧いてくる。これはすごい!」
「お気に召したようで何よりです。こちらに複数薬品を用意致しました」
「おぉ、大義であるな。貴様、ここに常駐し薬を作れ」
「すいません。この薬の制作者は私ではないので」
「そうか・・・ならばこの力を試させてもらおう!」
そう言うとマルデリンは、セバスの胴体を簡単に貫いてしまった。
最もそれはセバスが作り出した幻惑魔法で、そう見せただけだったのだが。
「がはっ・・・なにを・・・」
「私の実験台になれたのだ。ありがたく思え」
「そう・・・ですか」
そう言うと幻惑魔法で作られたセバスは倒れてた。
しかしマルデリンはそんなこと気にすることもなく、外にいた衛兵の所に向かって行く。
「おい、衛兵!何故私が呼んでるのに来ない!」
「ま、マルデリン様!?」
衛兵と呼んでいる時点で、暗殺者が来ているのは明白だったため、そのまま彼が殺されて仕舞えばこのような地獄は終わると思い、この衛兵は彼の元に駆け付けることはなかった。
しかしその願いは叶わず、彼はピンピンしている。
「どうやらお仕置きが必要のようだ。これを飲め!」
そう言うとセバスから受け取った薬物の一つを、衛兵に無理矢理飲ませたのだ。
衛兵は苦しみ出し、咽が焼けるような痛みに襲われる。
次にはみるみる肥大化して行き、やがて破裂した。
「なるほど、これは本当に高貴な血だけが力を得るのだな。ふふふっ・・・ふはははははははは!」
高らかに笑い声を上げるマルデリンの声は、リンガーウッド領に響き渡った。
「ふふっ・・・精々かりそめの力を使って、踊り続けてください若者よ」
セバスはそう言いながら闇夜に消えていき、しばらくすると帝国自体からいなくなった。
目的を見失うな。
「リリィに聞きたいことがあるんだ」
「おっさんに話すことなんかないわ!」
「ぐぬぬ・・・」
「リアスくん、こらえてこらえて」
今にもぶん殴ってやりたい気持ちを押し殺して、俺は言葉を続ける。
「たしかに一方的に話を聞くのもフェアじゃないよな。まず一つ聞きたいが、リリィは前世でプレイしていたゲームがこの世界に模している・・・似ているトコロはあるか?」
「えーっと・・・うん。貴方とそこの肩にいる風神、それに雷神の見た目が龍じゃなくて人型ってところや、そこのメイドさん?イルミナだったかしら?彼女以外はわたしがプレイしたゲームに登場する人物よ」
ってことは雷神は出てきたのか。
ミラはハーフだから人型オンリーだから、こいつがプレイしたゲームに出てくる雷神はミラの父親かもしくは全く別の何かかだな。
「へぇ、ボクが出てくるんだ。そこはリアスくんがプレイしたゲームとは違うんだね」
「え、違うってどういうこと?」
俺も赤桐から聞いた話だから半信半疑の情報なんだよな。
でもリリィの言ったことで、赤桐の情報が正しかったことは確信出来た。
「俺が前世でプレイしたゲーム、花咲く季節☆愛を君に注ぐって言うゲームがあったんだが、この世界はそのゲームにあった情報と酷似しているんだ」
「えーっとこくじ?」
「あぁーうん。似てるんだよ、俺がプレイしたゲームと情報だけならそっくりだ」
「待って待って!情報が多すぎて頭がパンクしそう・・・」
混乱するよなまぁ。
もしこの世界をゲームの情報ありきで生きてきたとしたら、それがすべて崩れ去ろうとしてるんだからな。
正直俺だって最悪の気分だ。
「わたしがプレイしたゲームは、禁断の恋~どんな障害も乗り越えて必ず愛して見せる~ってゲームだったわ」
「タイトルだけじゃどんなゲームかはわからない」
「アニメ化や実写映画実写化までしたのに!?」
それくらい有名なら知ってるはずだけどな。
集めてはなかったけど、仕事柄目にすることは多かったし。
「悪いけどわからん。簡単に説明してくれ」
「仕方ないわね。恋愛シュミレーションゲームくらいはわかるわよね?」
そりゃ日本人ならわかるよ。
俺は頷く。
「その所謂乙女ゲーって奴なんだけど、攻略対象はグランベル、パルバディ、グレイなのよ」
「ん?アルバートはいないのか?」
「いないわね。彼は敵キャラ出てくるの。ラスボスの雷神を召喚するのも彼の魔法ね」
アルバートは攻略キャラですらないのか。
敵キャラだから重要ポジションではあるけども。
いや、名前が同じだけで別キャラ説も。
「シナリオ通りに学園生活は進んでいないけど、概ね性格と顔はゲームと同じよ」
なるほど、アルバートが別キャラって線はこれで無くなったな。
しかしそれよりも気になることがあった。
「え、マジか。グレイはお前にメロメロって設定じゃないのか?」
「おい、ちょっと待って聞き捨てなら------」
「悪いリリィ、続けてくれ」
ここで話を切るな。
グレイの話は無視して続ける。
「え、っといいの?」
「いや、ダメ------」
「あぁ問題ない。少しグレイは黙っててくれ」
「なぁ、これオレが悪いの・・・?」
話を遮ると言う意味ではお前が悪いと思うぞ。
グレイのことをグレシアが慰めてるしほっといて良いだろう。
「そ、それじゃあ続けるわね。禁恋での主人公の男爵令嬢が彼らを攻略するゲームね」
「主人公自体お前じゃ無いんだな」
「え、なに?貴方のプレイしたゲームって主人公わたしなの?」
「その通りだけど、俺がプレイしたゲームのことはあとで話してやるから先に説明頼む」
「わかったわ。わたしがプレイしていたゲームの主人公の男爵令嬢の名前は、ヨリア・フォン・ラングードって言うの」
全員が驚いていることがわかる。
ヨリアと言う名前で、家名がラングードと言う男爵令嬢を一人知っているからだ。
「お前って、もしかしてショタコンか?」
「え、いやあの・・・えっと・・・エヘヘ・・」
エヘヘじゃねぇよ。
いや俺も人のこと言えないけどな。
15歳婚約者にしてる精神年齢44歳だけどな!?
いや正確には 9歳に前世の記憶に目覚めたから35なんだがそんなことはどうでもいい。
「主人公は教師なのか」
ショタコンって言ったのは、ヨリア・フォン・ラングードって教師がこの学園にいるからだ。
しかもたしか今年で28歳だったはず。
禁断の恋って、教師と生徒の禁断恋愛って事だったんだな。
いや女子高生だったんなら、攻略対象も同い年くらいだからいいのか?
うーん。
「実はそうなのよ。しかもこれが日本の少子化があまりにも酷くなってて大ブレイクしたのよ!すごいわよね」
「いやすごいかどうかは知らんけど」
「わたしも大ファンで色々とグッズも集めたのよ。わたしはパルバディ推しだったんだけど、彼はヨリアに諭されることで、自分の間違いに気づいていくのよ!それがもう可愛くて可愛くて!だから彼のグッズも集めていったわけ!今はあんなにツンケンしてるけど、多分ヨリアに諭されたらきっと元の彼に戻ると思うのよ!彼、今回の決闘で一番最初に落とされたし、見込みはあるんじゃないかしら?だってだって、彼は人一倍プライドの高い人間だし、負けた自分に納得出来ないで居るはずなのよ!それでちょっとした事件が起こるんだけど、そこをヨリアに守られて自分がどうするべきなのかを説かれるの!そこからが恋の始まりね!パルバディはその言葉がどうしても頭から忘れられず、今までにしてきたことを鑑みて、何がどう間違っていたかを思い返すの。そして宰相である父に認められたときに、ヨリアの顔を思い出し自分の気持ちに気づくの!大体好感度が☆3くらいになった時にそのイベントが起きるのよね。あ、好感度制度は五段階で------」
「あぁ、お前がパルバディの事を好きなのはわかった。わかったからもう少しゆっくり話してくれ・・・」
早口過ぎるし長い。
一応イルミナにメモを取ってもらってるけど、全部かけてるのかな?
いやドヤ顔してるわ。
多分書けてるんだろう。
すげぇな。
「えぇー!ここからがいいとこなのにぃ!」
「こいつの話なげぇだろ。俺も子供ん時から聞かされてるんだ。一度話し始めると止まらないぞ?」
グランベルが遠い目で俺のことを諭してくる。
いやー、これを子供の時からずっととか地獄かよ。
マシンガントークって、聞いてる側はあんまり情報入って来ないんだよな。
「なんでそんなパルバティが好きなのに、アルバートにくっついてんだ?まさかアルバートを踏み台にしてパルバティを狙って?」
「いや、現実の俺様キャラに魅力なんか感じないわ。自分が正しいと思ってるとか痛過ぎ。わたし平民出身だし、日本でも庶民だったし無理!」
いや言いたいことはわかるけど、じゃあなんでグレシアから奪ってまでアルバートにくっつこうと?
乙女ゲームをプレイしているってことは、それに連なる作品も見てるだろうし、この方法で婚約者から皇子を奪ってもろくなことにならないのに。
「アルバートがラスボスを召喚するのは、廃嫡されてグレシアと一緒に追放されたからなのよ。だから皇太子の座を捨てるのも、グレシアが婚約者になるのも止めないといけなかったわけよ!」
なるほど、それだと確かに一番手っ取り早い方法はアルバートをグレシアから奪うのが早いわけだ。
「俺もその話を聞いてたからな。できるだけアルバートの野郎を矯正できれば良いなって思って頑張ったんだが、まぁ結果は見ての通りだ」
「それでわたしがグレシアから婚約者の座を奪おうとしたわけよ」
「へぇー、これはもう最終手段だったってわけなんだ。ボク的には君達の事情を考慮しても、友人の婚約者を奪ったことに変わりはないと思うし、報復しても問題ないと思うんだけど?」
手に電撃をばちばちと纏わせて、二人に不適な笑みを向けるミラ。
「俺は止めたんだぜ?でもやるって聞かなかったんだわ」
「えぇ、これはわたしの責任よ。グランベルは何も関係ないわ。報復するならわたしにしてちょうだい」
お互いかばい合ってるんだろうけど、ミラは本気じゃないだろう。
怒ってるときはこんなもんじゃない。
数年前、ミラのいちごのショートケーキのいちごを取ったらマジギレされて死にかけた。
まぁ俺が悪いけど。
「冗談だよ。本気にしないでよ」
「まぁでもお前達がしたことはそういうことだぞ?一人の人間を不幸にする形になったかもしれないんだ」
「うん・・・」
そうやって沈むところが子供って感じするな。
女子高生から転生したとしたら、前世の知識なんて大して多くないだろう。
ある意味ゲームでの出来事を軸に影響が出るのは仕方ない事なのかも知れない。
寧ろよくありがちなバカヒロインみたいな対応をしなかったからまだいいだろうよ。
「攻略キャラ達・・・パルバディについてはよくわかったが、グランベルとグレイとガーデルについては何も問題ないのか?」
「オレ達がいる前でよくづかづかと聞けるよな」
「苦労するなグレイ」
「わかってくれるがグランベル!」
「いや、付き合いが浅いからわからん」
「グレイって、どの立場でも同じ扱いにされるのな」
可哀想に・・・
「グランベルは、普通に王道ルートだと思う。王道過ぎて面白みが無いかな」
「これ本人の前で言うんだぜ!?幼馴染みとしての情はねぇのかようあああ!」
「いやストレート過ぎてコメントしづれぇんだけど・・」
多分、ここ一週間リリィに付きっきりだったことから、少なからず好意があるだろうに。
まぁ人の恋路に口出しするのは良くないしほっとこう。
「ガーデルルートは?」
「ガーデルはあの通りクズでしょ?だから主人公が指導していくんだけど、立場に傘を立てて貶めていくのよ。結果的に主人公は奴隷落ちまで行くんだけど、そこからガーデルの転落生活が始まって、ガーデル自体も奴隷になるのよね」
「いや、急に壮絶だなおい。なんでガーデルだけそんな重たい設定なんだよ」
「制作者に文句は言って。そして奴隷として再開するふたりは、お互いをかばい合うことによって愛を育んでいくの。そして一年の時を得て、二人は奴隷から解放されて元の貴族に戻るんだけど、奴隷オチした主人公は傷物として親から虐げられるのよ。そこをガーデルが救い出すってストーリーよ」
「いや、一人だけ重てぇんだよ設定。しかも今あいつは殺人未遂で牢屋にいるぞ。ルートまっしぐらじゃん!」
「いやガーデルは奴隷落ちでもしないと元に戻らないわよ?ガーデル以外のルートでガーデルを説得する回があるんだけど、すべての選択肢どれを選んでも彼の心が変わることはなかったんだから」
いや、それはなんとなくわかるよ。
あいつ話を聞かないタイプだし、一回痛い目でも見ないと治んないだろうとは思うけど。
「はい!終わり!そっちがプレイしたゲームを教えてよ!わたしは未知の病原体で死んじゃったんだから!もしかしたらこのゲームの姉妹シリーズかも知れないじゃん!」
「死因は病死だったのか」
「そうよ!わたしは、優しいママとパパに育てられたのよ!こっちの世界でも最初だけは優しかったお母さんとお父さんだったけど、てぃっくんが聖獣とわかると目の色を変えてわたしを売ろうとしたのよ!」
聖女を出した家は、一生安泰だって言うしな。
そうだとしても、教国や教皇の言いなりになるのなんてごめんだ。
「だけどなんで売ろうとしたんだ?別に聖女とわかったところで、この世界では敬われる事はあっても不便することは無いだろう?それとも自由が欲しかったのか?いやそれならアルバートが帝国を滅ぼさないようにするために自己犠牲は選ばないか」
「え、本当に言ってる?聖女の裏設定ってそっちのゲームではなかったの?」
「裏設定?」
聖女の裏設定なんてなかったはずだ。
「聖女は拷問の末に、聖人君子になるんだよ!?精神を壊されてさ!」
「ッ!?」
嘘だろ?
あまりにも予想外過ぎる。
いや、予想が付きそうなもんだったけど、さすがにあり得ないだろうと見逃してしまった。
盲目的に、言われるまで気づくことが出来なかった。
「まさか教国がそこまで・・・」
「実際、俺がリリィの事を父に言わなかったら、その未来もあり得たであろう未来だ。なにせ、リリィは帝国で保護するって提案したところ、断固拒否の姿勢を見せたらしいからな教国は」
それは世界に黒だと言うことを発布してるような物だ。
いや、拷問の末って情報が無ければわからないから何とも言えない。
精霊契約の儀といい、命をなんだと思ってるんだ。
今の教国は、まるで前世の父親を見てるみたいだ。
「たしかにそれは災難だったな」
「おかげで幼少期は恐怖の記憶しか無いわ。女子高生としての記憶が無ければ折れていたかも知れない」
いやこれは本当に前世の記憶に救われた形だろう。
前世の記憶が無ければ本当に精神を壊されていたかも知れない。
ある意味選ばれた存在とも言えるけど。
「お前の幼少期に比べたら、俺の幼少期は可愛いもんだな。精々、親に虐待されてたくらいだからな。今はそうでもないけどよ」
言ってて思ったけど、転生者は虐待される傾向でもあるのか?
実際俺もリリィも親からの虐待を受けてる。
脱却方法はかなり異なるけど、それでも事実としてそれはあるよな。
「虐待受けてたんだ。そうだ話してよ!わたしだって話したんだから、ゲームのことから前世の死因と今生の出来事!」
「いやそんなに話してねぇだろ!」
「いいじゃん!おっさんのケチ!」
「おいてめぇ、自ら地雷原に入ってくるとは良い度胸してんじゃねぇかよ」
「おっさん呼びが嫌なんだろうけど、実際年齢的にはおっさんでしょ?」
「今はお前と同い年だドアホ!」
「あーもう、始まった!リアスくん、いい加減にして!」
「リリィもだ。これじゃ話が進まねぇぞ!」
ギャアギャア2人で罵り合いは結局夜まで続いた。
結局その日は、転生者のレアンドロについての話が全く聞けなかった。
*
アルゴノート領には隣接する領地がいくつかある。
そのうちの一つであるヘルナーリット子爵家とは、友好的な関係が続いているがどぶさらいをよく思わない領地ももちろんあった。
リンガーウッド侯爵家だ。
リンガーウッドの当主、マルデリン・フォン・リンガーウッドは生粋の貴族主義の家系で、アルゴノートが平民たちに媚を売っているのが貴族の恥として許せないと思っていた。
「アルゴノートは貴族に相応しくない!しかし彼らを表立って制裁すれば、私まで裁かれてしまう」
実は今までそう思ってアルゴノート家に度々暗殺者を送っていたマルデリンだったが、暗殺者は全て戻ってくることはなかった。
リアスが排除して帝都に罪人として送り付けられていた。
暗殺者達もマルデリンに襲われた被害者で、家族を人質に取られていて仕方なく行動をした領民ではあったが、いくら被害者だからといってリアスは自身を殺しにきた人間を許したりしない。
結局その家族は全てマルデリンが予め殺害していたのだから無駄に終わった。
「帝都ではあの子息はかなり名声をあげたと聞いた。このままだと、どぶさらいが本当に誹謗中傷になりかねん。いったいどうすれば・・・」
「ふふっ、お困りのようですね」
「誰だ!」
そこに立っていたのは初老の男性。
セバスだった。
「どこから入った!」
「さぁ?どこでしょうね?」
セバスは撤退命令を依頼者から受けていたが何もせずに帰っては、自身の考えてる計画に確実に遅れが生じてしまう。
だから少しでも打撃を与えるために、アルゴノートに恨みを持っているリンガーウッド領に訪れたのだ。
「おい!衛兵!どうして来ない!」
リンガーウッド家は、貴族の中でも一際アルゴノート領に恨みを持っている家系であり、そして侯爵家で最も人望の無い貴族だった。
故に衛兵達は、自分達で行動こそ起こさないがネズミ一匹だって通してしまうほど警備はガバガバだった。
「くっ!何故だ!」
「貴方のような方を私は尊敬しますよ?」
「・・・ほぉ?」
セバスは皮肉めいてそう口にしたのだが、マルデリンはそれを良いように捕らえていた。
赤い悪魔と呼ばれた男はマルデリンの様な人間が特に嫌いだと言うのに。
「これを貴方にお送り致します」
一つの瓶を懐から取り出すセバス。
見るからに危険なその薬物は、さすがのマルデリンも眉を上につり上げる。
「なんだそれは?毒か?」
「いえいえ、これは自分を強化することができる薬ですよ。貴方は選ばれた人間です。ですが気を付けてくださいね。これは高貴なる血の人間以外に投与すると、暴れ狂う魔物と化してしまいます。使うのは貴方様だけにしてもらいたいです」
マルデリンは侯爵家でありながら、その貴族主義の強さから妻を一人も娶っておらず、次期領主の子供がいなかった。
なので、リンガーウッドには高貴な血はマルデリンのみだったため、セバスは確実に彼が薬物を投与するようにそう言い放つ。
「これを・・・私が使えば・・・アルゴノート領をどうにかできると?」
「はい、もちろんです」
「ふふ・・・ふははははは!」
本来であれば得体の知れないセバスの言うことは絶対に疑うはずなのだ。
にも関わらずマルデリンは一切疑うことなくその薬を手にし、薬物を口にへと運び飲み込んでしまった。
「ほぉ・・・力が湧いてくる。これはすごい!」
「お気に召したようで何よりです。こちらに複数薬品を用意致しました」
「おぉ、大義であるな。貴様、ここに常駐し薬を作れ」
「すいません。この薬の制作者は私ではないので」
「そうか・・・ならばこの力を試させてもらおう!」
そう言うとマルデリンは、セバスの胴体を簡単に貫いてしまった。
最もそれはセバスが作り出した幻惑魔法で、そう見せただけだったのだが。
「がはっ・・・なにを・・・」
「私の実験台になれたのだ。ありがたく思え」
「そう・・・ですか」
そう言うと幻惑魔法で作られたセバスは倒れてた。
しかしマルデリンはそんなこと気にすることもなく、外にいた衛兵の所に向かって行く。
「おい、衛兵!何故私が呼んでるのに来ない!」
「ま、マルデリン様!?」
衛兵と呼んでいる時点で、暗殺者が来ているのは明白だったため、そのまま彼が殺されて仕舞えばこのような地獄は終わると思い、この衛兵は彼の元に駆け付けることはなかった。
しかしその願いは叶わず、彼はピンピンしている。
「どうやらお仕置きが必要のようだ。これを飲め!」
そう言うとセバスから受け取った薬物の一つを、衛兵に無理矢理飲ませたのだ。
衛兵は苦しみ出し、咽が焼けるような痛みに襲われる。
次にはみるみる肥大化して行き、やがて破裂した。
「なるほど、これは本当に高貴な血だけが力を得るのだな。ふふふっ・・・ふはははははははは!」
高らかに笑い声を上げるマルデリンの声は、リンガーウッド領に響き渡った。
「ふふっ・・・精々かりそめの力を使って、踊り続けてください若者よ」
セバスはそう言いながら闇夜に消えていき、しばらくすると帝国自体からいなくなった。
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