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五章

サプライズ

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 まぁ昨日はあんな重たい事件の話があったが、今日は気を取り直してグレゴリータさん達の工房に向かっている。
 残念なのがクレと俺のみってところだな。
 みんな今日は買い物を楽しむって言ってた。
 女子回ってやつだ。
 まぁいいさ。
 男同士で駄弁るのも悪くない。
 幸いこの道では、人がいないから俺は独り言を話しても不思議に思われない。

「それにしても笑えたなアルバート達」

『えぇ、でもあれくらいしないと彼らの性根は叩き直せないでしょう。他の家族ならともかく、彼があんな態度では誰もついていきませんよ』

 朝起きてから、鬼神の指導を受けた二人の顔はとても2日間を終えた顔じゃなかった。
 一年以上山籠りして疲れ切っていた奴のするそれだった。

「まぁあいつの場合、貴族も平民も関係ないって意味ではある意味平等だけどな」

 貴族も平民も全て平等に見下している。
 平等という意味ではまだ改善の余地があるから、おそらく期待を込めて陛下は俺に託したのだろう。
 それはそれはめんどくさい。
 平穏とはかけ離れていっているのが非情に不服だ。

『まぁあれは鬼神に任せてれば大丈夫でしょう』

「だよな。それにしてもさ、Sランクの魔物がこんな一斉に進化が続くってありえるのか?Aランクまでの進化の楽園祭エボルフェスティバルでも稀なのにさ」

 魔物達が次々に進化している現象を、皮肉を込めて進化の楽園祭エボルフェスティバルと呼んでいる。
 しかしSランクに至るまでの進化が起きた事例すら少ないのに、それが七体も徒党を組んで現れるなんて歴史上見てもありえないだろ。

『そうですね。私自身、スノーともう一体の二体しかSランクと呼ばれる魔物は見たことがありません』

「へぇ、他にもいるのか」

『えぇ居ましたよ。それは------』

「おっ、来たかリアス!久しぶりだな」

 クレとだべりながら歩いてたら、いつの間にかついていたみたいだ。
 Sランクの魔物の話はまた後で聞こう。

「久しぶりグレゴリータさん」

「昨日はヴァルメルの飯食ったんだってな?」

「えぁ、これから先人を警戒して生きていく生き方をするなんて考えたらなんというかね」

「うちのはそりゃもう嬉しがってたぜ!まぁ平民から貴族になったんだから、余裕ができるまでは少し警戒するくらいがちょうどいいだろうって思ったが、余裕が出てきたって事だなぁ」

 そうか、そういう考えにもなるのか。
 単純に俺はリアスの他に別の成人男性の記憶があるから、どこかこの世界の人間を信用できてなかったわけがあるんだよな。
 ゲームの世界に転生とか笑えない話だし。

「まぁ長話はなんだ。アジャイルが中で待ってるんだわ。とりあえず来いよ」

「へーい!お邪魔しまーす」

 思い返すとここは俺とアジャイルさんとグレゴリータさんの三人で考えて設計した、この領地の改革の第一歩の場所なんだよな。
 奥に行くと短髪赤髪で、額に鉢巻をしている姿のアジャイルさんが作業している。
 アジャイルさんは仕事人間だが、奥さんと娘さんがいる一家の大黒柱だ。
 飢餓に陥った時も子供を失ったグレゴリータ夫妻と共に率先してアルゴノート家に訴えかけていた。

「おぉよくきたなリアス」

「久しぶりアジャイルさん」

「あぁ。アプレジーナとエルもお前に会いたがっていたぞ。少し顔を出してやってくれ」

 アプレジーナはアジャイルさんの奥さんで、エルは娘さんだ。
 飢餓の影響でアプレジーナさんが流産するかもしれなかったが、無事に生まれてきたのがエルだ。
 リリアーナとは一つ違いで、姉妹のように育ったぽい。
 俺もたまに遊んだから覚えてる。

「じゃあ今度に会いに行く」

「そうしてやってくれ。妻も娘も喜ぶ」

「あぁ。それより俺をここに呼んだってことは、何か頼んでいたものが完成したんだろ?それも俺が驚くようなの」

 俺がそういうと二人はニヤリと不敵な笑みを浮かべる。
 なるほど、これは期待値が高い。

「あぁ!期待してくれ!」

「こいつはグレゴリータと共同開発した中でもかなりの物だ!そしてお前が俺達に見せた初めての我儘でもある。これまでこの領地に尽くしてくれたお礼と思って受け取って欲しい」

 俺はわがままということで、二人が何を作ってくれたのかわかってしまった。
 二人が出してきたのは黒色のチョーカーだ。

「やっぱりこれか!」

「おう!」

『ほぅ。これはリアスが頼んでいた魔道具ですね』

 これは俺が学園に入学する前に頼んでいたものだ。
 入学前に嬉しい誤算があったから利用しない手はないと思って、改造を依頼したわけだ。
 早速俺はチョーカーをつけてみる。

「お?お?おー!似合ってるか?」

「馬子にも衣装とはよく言ったもんだ!似合ってんぜ!」

「それ失礼じゃね?」

「こいつはこいつなりに褒めてるんだ。似合っているぞ、安心しろ」

 グレゴリータさんとアジャイルさんに褒められるとむず痒い。
 このチョーカーは元々は黒ローブを着たヒャルハッハの間者の魔剣だ。
 あれだけの闘いをして、褒賞が何もなしとか笑えないしな。
 陛下に頼んで、拝借しておいたんだ。
 そして二人にこれに掛かってる機能、ゴーレムを生み出す機能はそのままにして、アクセサリーにして欲しいと頼んでおいたんだ。

「それは俺たちの嫁にデザインしてもらったんだ!いいだろ?」

「二人に礼を言っといて。気に入ったって」

「リアス、そいつの機能がちゃんと動くかも試してくれ。俺達にも魔力はあるが、そいつを起動するにはそれなりの魔力がいるみたいでな」

 なるほど、たしかに制限がなきゃあの時もっと大量にゴーレムを出されてたかもしれない。
 俺はチョーカーに魔力を注入する。
 すると目の前にゴーレムが一体現れる。
 あれー?
 なんかゴーレムってよりこれ------

『なんですかこのデザイン』

 四角い頭に、スパナのような手を持ち、キャタピラを足に持つデザイン。
 これはロボットだ。
 ゴーレムを生み出すときに想像したのがそのまま土から具現化されたんだ。
 倦怠感がないから今度は2体同時に展開する。

「うまくいったみたいだな。それにしてもなんだこれ?」

「あ、あぁこれはなんとなく想像した物になったんだよ」

 二人を信じてないわけじゃないが、俺が転生者ってことは知ってしまうだけ危険に晒すかもしれないから黙っておく。
 クレの反応からも分かる通りロボットは前世である現代にしかない物だし。
 俺はゴーレムに命令を出して見る。
 一応念じるだけで出来んのかな?
 あの男もなにか命令を発していたわけじゃないし。
 とりあえず俺は前と後ろに動けと命令して見る。

「おー!動いた」

「こりゃ驚いた。何も命令しなくても動かせるのか」

「頭の中でイメージしただけだけどな」

 しかしすごいな。
 大きなラジコンのイメージだ。
 これを量産できたら労働力が丸ごと手に入るがおそらく出来ない。
 これは魔法付与じゃない。
 魔法を起動させるリソースそのものだ。

「量産できたら、この領地でもっと色んな事業に手が出せるのになぁ」

「量産は難しいな。俺も建築であれこれ付与魔法を極めたが、これは固有魔法オリジナルが付与された代物だ」

 ゴーレムを生み出す魔法なんて聞いたことないからな。
 現代でのフィクション物ではその限りじゃないけど。
 頑張れば俺でも生み出せるのかねー?

「人手不足だからその魔剣の能力が使えたら嬉しいんだけどな。まぁその魔剣を起動させられる魔力を持つ奴らはいないしなぁ」

 たしかに後からうちの領地に来た人間や子供達はともかく、この領地に最初からいた人間でこの魔剣を起動できる人物はおそらくいない。
 魔力計測を行った際に最も高かったのがこの二人で、それでもイルミナと同じくらいの魔力量しかなかった。
 まぁそれだけあれば身体強化くらいは使える。
 二人には身体強化の魔法を教えたから、おそらく役立ってるだろう。
 二人が提携した工場でも身体強化は必修になってるしな。

「まぁ俺達は無い物ねだりを実現するのが仕事だ。そいつの量産は厳しいが、それなりの物を作ってやるよ!」

「無理すんなよー?二人ともいい歳なんだから」

「なんだとぉー?この生意気め!」

 グレゴリータさんに頭をガサガサと撫で回される。
 結局、現代知識を使った製品ならリソース源が魔力になっただけだから、既存の汎用魔法を付与での組み合わせによっては実現可能なんだ。
 ビデオカメラとかも、電源である電気は魔法で簡単にできるし、消費する魔力を抑えるのと、写したものを保存するメモリを作るのに苦労しただけだ。
 メモリの付与する魔法は固有魔法オリジナルと言っても差し支えはないが、この領地でビデオカメラを作る為に携わった人達は全員その魔法を付与する魔法陣を組むことができるし、完全オリジナルというわけじゃないから汎用魔法に入るのかな?
 でも固有魔法オリジナルはその名前の通り作った人間が居なきゃ自力で探していく必要があるし、ゴーレムを作る複雑な魔法なんて、どれだけ製作と時間とコストがかかることか。
 まぁだから漫画に出てくる様な、開けば好きなとこにいけるドアとか、時間を超越出来る機械とか、頭に空飛ぶ竹とんぼとかは実現できていない。
 どれも青い頭でっかちが居た時代の物だけど、あれは本当に実現できたのかね?
 この世界に転生してしまった以上知るよしもないし、仮に生きてたとしても一世紀先まで生きれたかはわからないけど。

「とりあえずこれありがとう!」

「そいつがあれば、お前もゴーレムに任せてなんでもできるだろ」

「あぁ!色々と思い描くものが出来そうだ」

 ゴーレムが砕けたあと、魔法が解かれてもゴーレムの固まった残骸が消えることはなかった。
 つまりまだまだできることがあるってことだ。

『これは楽しみですね。労働力が増えたということは、それだけメルセデスの時間も増えるということ!つまり新作のお菓子も・・・』

 涎を垂らすクレの口をそっと拭く。
 あれ?ハンカチの涎が綺麗に消えた。

「あ、言い忘れてたが、ヨダレとか砂まみれとか外部からの汚れは綺麗に出来る魔法を付与してるからな。因みにこれは避妊グッズに使われてる物とは別物だ!」

「グレゴリータ、最後の情報は要らないだろう」

「さすがすけべ親父だな!」

 外部からの汚れを綺麗に出来るグッズって言ってそれを想像する奴は相当なすけべだ。
 避妊グッズには大きな欠点があるから、そういう行為をしてる時以外では使用が禁止されている。
 食事をしても口に入った瞬間に消えてしまうからだ。
 そりゃ、体内のある部分のみの異物を排除するって難しいしな。
 寧ろ、この世界で一番現代以上に活気的な付与ではあるが、もっと別のことに活かせよ昔の付与師。

「ミラがいなくてよかったな?セクハラで殺されるぞ?」

「やめとくれよ!俺もあんな奴だとは思わなかったが、ティコリスからイルミナちゃんを救出した時のお前らは恐ろしかったぞ?」

 ティコリスってのはイルミナの父親で、イルミナを襲おうとしていた人物だ。
 ティコリスとグレゴリータさんは幼馴染だったらしい。
 
「ティコリスの奴も自業自得だ。娘のいる身からしては恐ろしい」

「そりゃそうだ。俺達も同じ目で見られたらたまらないしな。まぁあいつはこの世にいないし、気にすることはねぇけどなぁ」

 ティコリスは病死した。
 なんでもイルミナを産んだ母が産んだ後、有り余った性欲を発散する為に色々な娼館に通い詰めていたらしい。
 念のためイルミナにも感染してないか検査したが陰性だった時は安心した。
 
「自業自得だな、幼馴染のグレゴリータさんには悪いけど」

「いやいや、ティコリスがあんなのって知ってたらイルミナちゃんをそのままにはしてねぇよ」

「違いない。今からでも引き取ったらどうだ?」

「そりゃあ良い!ぜひうちの娘になって欲しいもんだ」

「いややらねぇよ!」

 一応イルミナは養子という形でアルゴノート家に席を置いてる兄妹だ。
 絶対に渡さない。

「ちぇっ!」

「まぁ仕方ないだろう。俺達はあの子に何もしてやれなかったんだからな」

「まぁ、そうだな。イルミナちゃんを愛人にしてやれよ?お前のこと慕ってるんだからさ!」

「イルミナにもミラにもそんな不誠実なことはしないわ!それにイルミナはあれでモテるんだ。大丈夫だろ」

 メルセデスやグレイだってイルミナに好意を抱いてるんだ。
 メルセデスはまぁ、マーサさんとくっつきそうだけど、グレイはわからないしな!
 グレシアのことは大事にしてるけど、あの二人からは甘い雰囲気は感じられないし。

「まぁお前ならそういうと思ったよ。その代わり生き遅れにさせるなよ!万が一お前の家が没落したら、イルミナちゃんも露頭に迷うんだからな!」

「わかってるよ」

「なら良い!ところで今日はまだ暇なんだろ?」

「あぁ、一応今日一日は開けてるからな」

「だったらちょっと魔法教えてくれよ。収納魔法!あれがあると幻獣の森にも入れる様になると思うんだよ」

「幻獣の森か。あーそれなら」

 昨日の夜自己紹介してもらったクピドって奴の進化した時に得たスキルに、魔物達を操る能力があったはずだ。
 おかげでこの領地は、魔物達が居候してる間はほぼ安全と言える。

「って訳だから滞在期間中はそいつ連れて馬車で行けば------ってそんな呆けた顔して聞いてるか?」

 俺がクピドの話をしたら、彼らは口をパクパクとさせてまるで鯉のようにこちらを見ている。

「Sランクの魔物なんて言われて、呆け無い方がおかしいわ!」

「あ、悪い。感覚麻痺してた」

 色濃い体験しすぎて、ついSランクの魔物のことを入念してなかった。
 でも魔物達と話してみて、あいつらは自分達の国を作ると言うより居場所を作りたいみたいな感じだったし、この領地が居場所になればいいなと思ってるし隠すこともないだろう。
 カムイには本人は気にしてないが、親を殺したって後ろめたさもあるしな。

「でも気にしないでくれよ。殺し合った仲だが、まぁ逆に彼らは信用できる。あいつらが全力で闘ってたら少なくとも俺はここにいなかったと思うし」

 俺達と魔物達にはそれだけの実力差があった。
 ミラはクレと二人でチーリンを圧倒したらしいけど、少なくともカムイ、鬼神、フェンリルの三名は<狂戦士の襟巻き>無しじゃ捌けなかった可能性が高い。
 ある意味彼らに生かされた。
 それに子供を帰しに来るって言うちゃんとした理性もあるしな。

「それはまぁSランクの魔物と対峙して五体満足なだけ儲けもんだが」

「だろー?今度紹介するからうち来てくれよ。全員で街中歩くと騒ぎになるし。あいつら見た目は異人種だから。あ、収納魔法のやり方は------」

 俺は二人に収納魔法のやり方を教えて、二人は無事魔法を習得した。
 平民で精霊を持つのはかなりレアだし、ぶっちゃけこれくらいは許されるだろう。
 そういや学園に戻ったらリューリカ先生にも教えようか。
 この国の最低限の魔法水準に収納魔法が分類されたら国もかなり発展するだろうよ。
 まぁリューリカ先生の授業は必修ではないんだけど。

「それじゃ俺帰るわ」

「あぁ、サプライズのつもりが世話になって悪いな」

「いや、このチョーカーだけでもかなりの代物だし、これくらいお安い御用だありがとう」

「また今度邪魔する。またな」

 俺は二人に手を振って工房後にした。
 帰り道では行きの様に駄弁る訳じゃなく、ゴーレムの色々な使い方をクレと話しながら帰宅する。
 そして明日から始まる地獄を遠い目になりながら空を見上げて。

「なぁ、あいつ魔物って言ったよな?」

「やめろ。気にしない様にしてたんだ。あいつの家に行けばわかる」

 俺は最も重要なことを二人に話してはいなかったが気にしない。
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