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 そして魔装を外した瞬間、全身が脱力する。
 なんか乗り物酔いした気分だわ。

「あ・・・れ?」

「ルル、よくやったぜ」

 グレンが、ふらつく私を支えてくれた。
 どうやらこの魔装は装備してるとき、私の魔力を保管して別の内包魔力に変換させてるみたいね。
 つまり魔力がごっそり減って、ごっそり入ってきた。
 そりゃ酔いもするわよね。

「ふひひっ!」

「アース・モディウス。往生際が悪いな」

「あー!楽しかったよぉ!ルルシア、次に会うときはその力を使いこなしておくんだよぉ!」

「逃げるつもりか!?させると思うか?」

「いいのかい?聖騎士百名の方には、ヒスイを含めた三人しかいないんだろう?そちらに救援にいかなくて」

「どのみち満身創痍の我々では足でまといになるだけだ。それよりも貴様の捕縛を優先する」

「冷静だねぇ」

 ガウリ様はアースをなんとしてでもここで捕らえる気だわ。
 魔力自体はほぼ魔装発動前と変わらない私も援護しないと。

「でも勘違いしなさんな?逃げるつもりではない。引いてあげるんだよぉ」

「なに?」

「このまま継続してもあっしを捕らえることができても、良いようには事が進まないと言ったんだよ」

「どういうことだ?」

「我々の目的はもう達したからです」

 空からふわりと現れた女性。
 それは私と紛いなりにも関係のある人物。
 あっという間にアースの傷を治癒してしまった。
 聖女の治癒能力は健在。

「ゴールドマリー」

「久しぶりねルルシア様。貴女に会いたかったわ」

「私は貴女の顔も見たくなかったわよアバズレ」

「酷いわルルシア様。いくら私が嫌いだからってそんな言い方」

 最後に会ったときの純粋無垢な姿はどこへいったの?
 能面を貼り付けたような無表情で、喋り方も棒読み。
 それに彼女から放たれる負のオーラと殺気は余りにも異常だ。

「貴女は誰?」

「私はゴールドマリーよ?」

「どちらでも構わん。ルルシア、この二人を捕らえるぞ。一人は虫の息だ」

 確かに。
 それに彼女に聞きたいことは色々ある。
 でも捕らえるの?

「アース、彼女を生かすのは危険だわ。殺しましょう。生かすのはゴールドマリーだけで十分よ」

「ッ!?だめだルルシア。師団長の命令には従ってもらう」

 ガウリ様がそういうなら仕方ないわ。
 でも捕らえるのは骨が折れるわね。
 幻惑魔法で二人を幻覚に捕えようとしてる。
 二人が幻惑魔法がかかってくれれば、それだけ闘いも楽になる。

「手癖の悪い男だこと」

 彼女が指を鳴らした瞬間、何か負荷をかけられた気がした。
 あの時と同じ。

「グレン!これって」

「あぁ、あの時の魔法の作用を悪くした犯人はお前だったのか」

「魔法使いにとって私は天敵のようなものでしょう?」

 ならもう一度魔装を装備して彼女に攻撃を仕掛けるだけよ。
 脱いだ帽子を再び被り直そうとする。
 
『魅了セシモノノクールダウン不足ヲ検知使用スル場合、肉体ダメージノ甚大ガ予測サレマス』

 警告文章みたいのが流れてくる。
 なんだよくわからないけど、身体への負担があることはわかったわ。

「構わないわ」

 彼女達を生かしておけば、危険が迫る。
 だったらここで殺しておかないと。
 魔層を発動するために帽子を被ろうとした手をグレンに掴まれて止めてしまった。

「いってぇ、待てルル!」

「なんでよ!」

「俺にも聞こえてんだぞ今の音声は!止せ!」

「でも!彼女達を殺さないと!大事な人達が傷つくのよ!」

 だから殺さないと。
 ゴールドマリー、現聖女を!

「くっ、まさかここまで呪法が!?」

 呪法?
 呪法を彼女達が使用してるの?
 なら尚更彼女達を殺さないと。

「哀れねルルシア様。貴女は被害者。でも呪法は使用者にしか解除できない。だからせめて私の手で殺してあげる」

 私は殺されない!
 殺すのは私よ!

「待て!」

『魅了サレシモノ、魅了セシモノヲ救タイナラバ、舞闘の帽子アトラスヴァルカンヲ装着セヨ』

「お前、意思まであるのか!?わかった!」

 グレンが魔装を装着すると、私とグレンの身体が光り始めた。
 グレンの裂けた拳は急激な速度で治癒し始めた。
 待って、頭が割れる!?

「い、痛い!痛い痛い痛い」

 流れ込んでくる記憶が、幼い頃の記憶?
 まるで別世界の私?
 私は色々な子供達と仲良くしてる光景が見える。
 こんなの知らない。
 これは誰?

「私は陛下やアハト様、クロムウェル様以外に私と仲良くしてくれた人はいない・・・はず?」

 本当に?
 それになんで私は人を平気で殺そうとしてた?
 死んだら、それで人の人生は終わるのに。
 それにディラは、私の目の前で。
 爆散した・・・

「いや、いやぁぁぁあ!」

「ルル!?大丈夫だ落ち着け」

「いや、いや!ディラ、死んじゃいやよ!ディラァア!」
 
 ディラが、私の可愛いディラが死んだ。
 本当の妹の様に思ってたのに、私の目の前で。
 それだけじゃない。

「シリィ、ロア、レイン」

 みんな、みんな死んだ。
 どうして、死んだことを通知を受けた。
 あれでもその時の記憶はない?
 あれ?なんで?
 なのに私はそんな事忘れて、留学して、楽しい生活を送って・・・なんで薄情なの?

「みんなはもう二度と笑うことができないのに、どうして一人で幸せになろうと・・・」

「大丈夫かルル?」

「そうだ、私も死ねばみんなのところに行けるんだ」

「おい待てルル!」

 みんな死後の世界で待ってる。
 私も行かないと。
 そうじゃないと、どうにかなってしまいそうだわ。

「ふふっ、ディラ待っててね」

「やめろルル!ガウリ!手伝え!」

「なんとかしろグレイ。こいつらが攻撃してくるかもしれない」
 
「へぇ、魔装ってのはすごいのねー!呪法が次々と解除されていくわ。しかし用意周到ね。万が一解除されたら精神状態を狂わせ自害させる呪法まで仕掛けてるなんて、おぞましいわほんと」

「術者にとって都合の悪い記憶なんだろうねぇ?」

「でしょうね。あぁ、大丈夫よそこの貴方。私達の目的はもう済んだの。本当はルルシア様も殺して開放してあげようと思ったけど、その必要もないみたいだしね」

「信じられるか!それに俺はお前らを逃がす気はないぞ?」

「さぁさっさと行くよマリ。幻惑の小僧程度じゃあんたやあっしを止めることはできないし、今ならヒスイ達も駆け付けられる距離じゃないだろう?」

「そうですね。安心して幻惑のガウリ様。私たちの思惑で王国側に被害はないわ。でもあなたが追撃してくるならその限りじゃないから」

「くっ!歯痒いな。だが任務は撤退か。さっさと行け!今はルルシアの事が先決だ」

「懸命ね」

『魅了セシモノ、呪法ニヨル精神汚染ヲ確認。危険ト判断シ意識ヲ一時的ニ遮断シマス』

 最後に魔装からの声が聞こえたけど、その言葉が何かわからずに私の意識はその瞬間に真っ暗になった。
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