皇統を繋ぐ者 ~ 手白香皇女伝~

波月玲音

文字の大きさ
15 / 33
ヲホド王来襲

回顧Ⅶ主との約束中(杖刀人磐井)

しおりを挟む
手白香様を?しかし、主は・・・」
大王貴方の想い人では無いのか。
言ってはならない事をうっかり口にしそうになって、磐井は慌てて口を噤む。
倭国この国は同族結婚が多い。特に高貴な血ほど、血統を維持するために、同族内での婚姻が推奨される。
だが、許されるのは異母か異父の兄弟姉妹まで。同じ両親から生まれた兄弟姉妹が夫婦になる事は許されない。
大王の祖父の世代に同母兄妹が深い仲になった時には、男は日嗣の君ひつぎのきみ(皇太子)だったにも拘らず、遠国に流罪になったと聞く。
それ程の禁忌故、一度もはっきりと聞いたことは無い。無いが、しかし、磐井は大王かつての主が同母姉である手白香皇女を姉としてではなく、一人の女として恋い慕っていると知っていた。
いつ気付いたのか?
大王が若雀皇子と呼ばれていた懐かしいあの頃、皇子に「姉様に触れるな」とくぎを刺された時か?
磐井を自分付きから皇女の杖刀人として、「姉上に男を近づけるな」と厳命された時か?
いずれにせよ、手白香皇女は、可憐な少女の頃から嫋やかな佳人となった現在に至るまで、弟である大王の庇護の下、宮の奥に厳重に匿われている。
数年前から大和の豪族からの縁談も多いが、大王は「自分に後継ぎがいない今、姉の婚姻は政に不安をもたらす」と言う理由で一切を跳ね除けていた。
確かに、大王家には大王以外の男子がいない。手白香皇女の嫁した者が次の大王の有力候補になるのは必定であり、無理を言うものは大王家に翻意あり、と睨まれ沈黙した。
また。
手白香皇女本人には、「自分の体調管理が出来るのは彼女だけだから、大后を迎えるまでは嫁すのは待って欲しい」と願っていた。
結果、大王と警護のための僅かな杖刀人以外、男の目に触れることなく、手白香皇女はここ数年を暮らしている。
きっとこのまま、独り身となさるのであろう。磐井は大王に月に一度拝謁し、皇女の身辺を報告しながら、そう思っていた。
自分が手に入れたくも入れられない女を他の男に渡すはずがない。
それは、いつしか皇女を一人の女性として見る様になってしまった自分に置き換えても納得できる心持ちであった。まして、幼いころからのあの執着を見てしまっては、、、。
それ故に。
大王の先ほどの言葉は驚き以外の何物でもなかった。
「仕方あるまい。どう足掻いても余の命は後幾ばくも無い。正直に言えば、余の亡き後、倭国がどうなろうと構わんが、姉上の身は守らねばならぬ。」
敢えて感情を載せていないのか、この場でさえ恋情を一切吐かず淡々と紡がれる言葉に、磐井は黙るしかない。
「大和は荒れるであろう。なにせ大王家に後継となる皇子がいないのだからな。余も探しては見たが、四世も五世も離れた者しかいないようだ。そんな者、そこいらの豪族と変わらぬ。」
「そうなると、血の正しい皇女と婚姻し、大王家に入り婿となって位を継ごうとする者が出よう。大王家で成人しているのは姉上と、余の大后になるはずであった異母妹の春日のみ。より濃い血を欲さば、春日より余の同母姉である姉上に皆の目が行くであろう。」
「御意」
「そこで、お前の役割だが・・・。大和ここではお前の力は弱い。姉上を連れて、疾く筑紫へ帰れ。筑紫に戻って立ち位置を調え、姉上と共に再び大和に戻ればよい。戻る気があるなら、金村に手はずを調えさせよう。まあ、あれば、だがな・・・どうだ、筑紫の磐井、品陀和氣命ほむだわけのみこと(応神天皇)の双子の片割れの末よ。」
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

月弥総合病院

御月様(旧名 僕君☽☽‪︎)
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。 また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。 (小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!

とある男の包〇治療体験記

moz34
エッセイ・ノンフィクション
手術の体験記

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

処理中です...