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バーベンベルク城にて

父さまは、ちょっとまずい魔導師団長かもしれません

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私も窓の外でため息をつく。

父さまってこんな人だったんだ、、、。

なんてことを言い出すのか。母さま好きなのは知っていたけど。子どもが恥ずかしくなるくらい好きなのも知ってるけど。それに転移の魔法を使えるのも知っているけど。
本来なら馬で早駆けして10日かかる帝都でお仕事している父さまが、なんでこんなに詳しく母さまの日常を知っているの?
母さまに使い魔貼り付けてるの?眼が映すのを見ているって言ったよね。あの内容、て聞こえたよ。使い魔の視界と聴覚を自分と同期させてるってこと?そんなんで自分のお仕事はどうやってしているの?
一日に何度も来ていたって言ったよね。魔導師団長って忙しいんじゃなかったの?
母さまに男性が触れると分かるってどんな魔術?そしてそれを聞いても母さまも副官たちも驚かないってことは、それが当たり前ってことなの?
突然現れるのが月に一回に減って喜んでたって言ってたよね、母さま。、、、長ーい新婚期間がやっと落ち着いたとか?いや、今でも暑苦しいくらい、父さまは母さま好きだよね???
頭の中を少しでも整理するために盛大に脳内で突っ込んでいると、ただでさえハスキーボイスの母さまの、怒りマックスの低~い声がした。

「いい加減怒るぞ。アルフレート。私は『仕事』をしている。ちょっとぶつかっただの、ちょっと会議が増えただので大騒ぎするな。」
母さま、いつもの凛々しい軍服姿だからか、声は大きくないし笑顔なのに、威圧感が半端ない。

「ほら、君がそんなだから、彼らもあきれているだろう。」
母さまは目線だけで、副官の二人、アランとブラント、を示し、父さまをたしなめた。
確かに二人はさっきから無言だが、その視線は厳しい。まあ、こんなの度々見ていたら、仕方ないよね。

でも、父さまは彼らをチラッと見やるとグッと唇を噛みしめ、声を絞り出した。
仕事?違うでしょう!」
「アルフレート?」
「ちょっと会議ではないでしょう、エレオノーレ。貴女は私に内緒での話をしていたじゃないですか!」
「家族旅行?突然なんでそんな話しになるんだ?」
いきなり家族プライベートの話になり、腕を組んだまま小首をかしげる母さま。軍服姿なのに、さっきまで威圧感半端なかったのに、表情が一気に可愛くなる。父さまは「うっ、」とうめいて手を口元にやりながらも、言いつのった。
「か、可愛くしたって駄目ですから!一族全員が城を空けるのは初めてだ、だの、夜間のルーとディーを誰に任せようか、だの、いつ来てもいいように自分は一人で居たいだの。極めつけに私には黙っていて欲しいと頬を染めてこいつ等に頼み込んでいたでしょう!」
話しているうちに怒りがぶり返したらしい。父さまは黄金色の瞳をギラギラさせて、アランとブラントを『こいつ等』呼ばわりして睨み据えた。
「っ、それは・・・」
始めの内はあっけにとられていた母さまは、父さまの話が進むにつれ、微妙な表情になった。思い当たることがあるみたい。顔に出さないようにしてるけど、あれは相当やばいと思ってるはず。やらかしたことがばれそうな時のルー兄さまにそっくりだもの。
私に分かるんだから、当然父さまも分かってるよね。
「ま、待て、初めから話そう、落ち着くんだ、アルフレート。」
母さまも落ち着いて!
「一族総出で城を空け、夜は貴女は子供たちと別で、誰かを待って一人。しかも私は知らされない・・・。」
まずくないかな?なんだか父さま、火花の量がすごい勢いで増えてる。
「答えて、エレオノーレ。『私に知らされない夜』を『貴女』は『誰』と過ごすの?それは『仕事』では無く、『私事プライベート』ではないの?『私事プライベート』の『貴女』の話を、私に、黙って、こいつ等と、していたのは・・・なぜ?」
父さま、一語一語区切らないで。疑問の前にためを作らないで。体中から渦巻く火花を飛ばさないで。滅茶苦茶怖いから!ほら、アランとブラントは後ずさってるよ!
私は震えながら祈った。母さま!頑張ってうまく答えて!

私の祈りは変な風に届いてしまったみたい。その瞬間、母さまがふっとこっちを見て、窓越しにカーテンの陰から覗く私と、バッチリ目が合ってしまったのだ。慌てて少し動いてしまい、アランやブラントまでもこっちを見て目を見開く。まずい、まずいよ。父さまには今のところ気づかれてないみたいだけど、私、どんな罰を受けることになる!?
でも、慌てたのは母さまも同じだった。

「っ!?」
あからさまに動揺する母さま。ちょっと視線もさまよってる。ダ、ダメだって。父さまの質問に集中して!このタイミングにその表情は、父さまの質問に動揺したように見えるよ!
「?エレオノーレ?」
ほら、父さまの火花が激しくなってる!
「そ、それはだな・・・あー、ここではなんだから場所を改めて・・・」
「今、ここで言えない訳でもあるんですか?エレオノーレ。やはり、やましいことでも・・・?」
父さまの声がだんだん柔らかく、やさしくなっていく、、、なのに恐ろしさが増すのはなんで?

私の応援は、結局届かなかったようだ。母さまは父さまの言葉に慌てて二、三回首を振ったが動揺を消しきれず、乱れた髪をかき上げると、ほんの一瞬父さまから視線を逸らして、チラッと、私と、私に気づいたアランとブラントを流し見た。ほんのり頬が染まってる。
うん、母さまは照れ屋さんだからね、自分の子どもに見つかって照れたのね、分かるよ、分かるんだけど、でも、でも今は、、、。
凛々しい軍服姿の母さまから、なぜか色気が滴っている!

その瞬間。
父さまの周りでゆらり、と陽炎が立った、ような気がした。
違う、違う!あれは魔力が立ち上ったのだ。あれだけ盛大だった火花はいつの間にか消えてしまった。父さま、魔力を制御する気を無くしたんだ、、、。
私は戦慄した。母さまはしまった、という顔をし、アランとブラントは青ざめている。
そして、次の瞬間。通風孔からものすごい勢いで冷気が流れ出してきた。つ、冷たい!
「エレオノーレ。の目の前で、男に流し目をして頬を染めるなんて・・・こいつ等を、貴女の目の前で、消していいでしょう?」
父さまがうっそりと笑ってる、、、どんな時でも、表情のない父さまが。そしてその瞳は、魔力を解放した証の紫色。帝国中の、誰よりも濃い、混じりけのない濃紫色。

父さま、あなたはほんとにの帝国魔導師団長ですか?
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