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番外編
或る日の帝国魔導師団長執務室
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これはエルンストが副官になったばかりの頃のお話。アルフレート編ですが、なぜか視点がエルンストになってしまいました。
「団長。これ、見てやってくれませんか?」
ノックの音と同時に執務室の扉を開けると、珍しく団長が、見ていた紙をサッと空中に仕舞った。鮮やかな紅色がチラッと見える。またやっていたようだ。
「なんだ?エル。ノックと同時に開けるなら、ノックの意味は無いだろう?」
珍しくまともなことを言いながら、相変わらずの無表情で俺を見る団長。いつもなら視線も上げないのに。
「非常識が服着て歩いてる方に、そんなこと言われてもね・・・。」聞き流しながら団長に近づき、抱えていた筒状の紙を、バサッと机に載せた。
「・・・仕事なんか持ってくるな。」
途端に不機嫌な声で文句を言われ、げんなりする。相変わらずやる気ないよね。この人。
「いや、ここ、魔導師団の本部で、団長の執務室ですから。むしろ仕事以外持ってきちゃいけないところですよ。」
いつも聞き流してばかりだけど、たまには副官としてきちんと返してみようか?そう思って言ってみたついでに、ちょっとつついてみる。
「それより、今何してたんですか?空中に仕舞ったって事は、仕事じゃないですよね。」
言いながらチラッとワザとらしく机の脇の書類の山を見た。脇机から零れ落ちんばかりの未決裁書類。うん、朝渡した時と全く変わってない。
「あんまりさぼっていると、次に辺境伯から連絡があった時に言いつけますよ。」
団長の妻であるバーベンベルクの女辺境伯閣下は美人で気さくで有能で気遣いの人だ。有能だが気紛れな団長の部下を心配して、不定期にだが、困ってないか連絡をくれる。
「こんな量、やろうと思えば一瞬だから、別にさぼってない。」
途端にささっと仕事モードに切り替わる団長。空中に未決裁の書類がいくつも浮き上がり、さっとめくられていく。
本当に操縦しやすくて助かる。俺は笑いをかみ殺しながら、ズイッと先ほど机の上に置いた筒状の紙を押し付けた。
「せっかくやる気になったんだから、こっちを先に見て下さい。先日行った魔導師団、第一騎士団合同の国境視察の際、作成を依頼された地図です。」
オストマルク帝国の北と東は峻険な山地が多く、国境線が定めにくい。北は団長の住むバーベンベルクなので、近年精緻な地図が出来てきているが(とは言え、地図は団長預かりになっており、必要な時にしか我々も、皇帝陛下ですら見られない)、東はきな臭い地域もあるというのに、まだまだ雑なものしかない地域が多いのだ。
先日行われた国境視察は、東の軍事・防衛拠点の確認や結界維持装置の設置・稼働状況の確認の他に、精緻な地図を作成することも重要な任務だった。
「これが、団長の開発した、使い魔との同期の術式と最新の測量技術を組み合わせて作った地図です。魔導師団技術部の力作です。」
広げた紙には、多色刷りの地図が描かれていた。
中の一枚は鳥観図になっており、使い魔の見た景色と測量地図を組み合わせて、立体的になっている。これなら、砦を築くにあたってどの山のどの部分が一番見晴らしがいいか、どこから山を越えられるか、奇襲をかける場所はあるか、補給路に出来る道はどこを通すか、対策を立てやすい。魔導師団としても、遮るものが少ない場所に置きたい結界維持装置の設置場所策定に役に立つ事は間違いない。
団長の天才的な魔術の才能を我々秀才集団が実際の技術に生かす。なんて素晴らしいんだ、これなら文句の言いようもないだろうと思っていると。
チラッと見た団長は、一言、「雑だな。」とつぶやいた。
「・・・なんですって。」予想外の言葉に思わず鼻白む。これは団長がボーっとバーベンベルクの方角を眺めたり、ふらっと消えてしまったり、さっきのように趣味にいそしんでいる間、技術部、術式部、使い魔管理部の連中が寝不足と闘いながら、やっとの思いで仕上げたものなのに。
「雑だと言っている。この使い魔は鷹だな。鷹の飛ぶ高度から見たものをそのままの大きさで作っているだろう。全体を把握するのには役に立つかもしれないが、一つ一つが小さすぎる。
例えば、この尾根と一つ向こうの尾根へ至る道、どちらが砂礫などが無く歩きやすいか、沢へ至る道の行きやすさ、泉は近くにあるか、抜け道は作れるか・・・、実戦で使う際に必要なものが分からない。」
「っ・・・。それは、そうですが・・・。」
そんなことを言い出したら、軍事の分かる人間が直接飛んで、見たものをその通りに描くくらいでないと無理だ。
「・・・か?」
「?なんだ?」
「なら、団長には作れるんですか?もっと精緻で、一目でその場所の全貌と詳細が分かるような地図。」
思わず反抗的なことを言ってしまう。
「これは、、、。団長がさっきのように辺境伯のお姿を念写して遊んでる間も不眠不休で頑張っていた団員の成果です。雑で片付けるんなら、雑じゃないものを見せて下さい!」
言い切ってからハッと我に返る。俺は新人の副官だというのになんてことを、、、。
うろたえる俺の視界に、しかし驚くべきものが映った。
何と団長が真っ赤になって立ち上がったのだ。
「な、なん、なんでお前は知ってるんだ・・・。」
表情は変わらないのに顔色や口調が変わるって、ある意味器用なお人だ。
そんなことを思いながら、そのまま転移しようとする団長をがしっと掴む。今日こそ、この才能あふれる怠け者を逃すものか!
「お願いします。団長。出来るんですよね!?」
俺の必死さが分かったのか、自分の所業が副官にばれていたのがショックだったのか。
団長は珍しく、執務室に留まってくれた。
「頭の中には全貌と詳細が分かる立体地図があるんだが。確かに紙に落とすのはやっかいだな。」
しばらく、、、といっても五分も掛かってないだろう、、、考えていた団長は一つ頷くと俺に視線を向けた。
「視察は夏の初めだったな。この地図の場所、タトロイ山脈を私が見たのは三年前の晩秋だ。それでよければ作るが。」
「・・・お願いします。」季節がそんなに需要なのか?いぶかし気に頷く私を見て、団長はおもむろに腕を上げると、空中に魔術空間を出現させた。一瞬閉じた目を開くと空間をじっと見つめる。
「っなんだ、これは・・・」そこには、おそらく当時団長が見たままであろう視察地域の立体像が浮かび上がっていた。こ、細かい!
「どの方角から見る?」
「・・・帝都から山脈を抜けて、モラヴスカ王国へ。」
「分かった。」
立体像の向きがスーッと変わる。
「これでいいか?」
「・・・はい。」
口を開くのもやっとだ。人は、こんなに鮮明に物事を記憶できるものなのか、、、?
呆然としていると、立体像がスッと広がった。
「まずは全体が一枚。」像が静止したと思ったら、どこから取り出したのか、大きな一枚紙にスッと念写された。
「次に防衛拠点とする場所、川を抑えるべきだな。オロモッツとリドニクそれぞれの周辺。」
立体像がスーッと広がるが、団長はある一部のみを念写していく。
「あとは、、、攻撃拠点は出したくないし、結界維持装置の設置拠点は私が分かっているから必要ない。これでいいな。」
スッと魔術空間を消すと、そこには三枚の地図が出来上がっていた。一枚は鳥観図に測量結果の数字を載せたもの。後の二枚は団長が防衛拠点と示した場所の、川筋、街道、近隣の村落を結ぶ山道、氷河の作った洞窟などが詳しく記載されている。
「団長、こんな技を持っていたなんて!これはどうやって・・・」
思わず詰め寄ると、団長はスッと避ける。
「ただの念写だ。慣れればある程度は誰でも出来るようになる。それよりあまり近づくな。暑苦しい。」
悪かったね、暑苦しくて。でも、なんてすごいんだ。
俺の手放しの称賛に、多少は気をよくしたらしい。
いつもなら仕事を片付けるとすぐに執務室から消えてしまう団長が、珍しくコツを話してくれた。
「地形は晩秋に限る。雪が降る直前は木に邪魔されないし、空気が乾燥しているから遠くまで鮮明に見えやすい。それを出来るだけ精緻に目に焼き付けるんだ。私は使い魔を飛ばさず、自分が飛んで、必要なところを確認している。」
「でも、われわれでも出来るんでしょうか?こんなに精緻な念写を?」
「ここまでは無理だがある程度は日々の訓練だろう。私から見ると、お前らは本当に対象を観ていると言えない。魔術は、魔力がなければ使えないものだが、仕組みは大胆なイメージ、それを裏付ける精緻な理論と作業の積み重ねだからな。」
魔術科で初めに習う言葉だ。そんな常識を今更、と思ってしまうが。
「例えば人の顔を念写するにしても、お前たちはいい加減だ。いつの念写でも、色も形も同じだったりする。だが、実際は、肌の色一つとっても、朝日を浴びているのか、月の光なのか、夜の室内の魔道具の灯りなのかで全然違う。光だけではない。眠っている時の肌、起きている時の肌、動いている時の肌、羞恥に染まる肌、すべてが違うし、新たな発見だ。だから私は毎日忘れないうちに念写を・・・」
団長の声が、はたと止まった。
俺の思考も流されかけて、、、イヤイヤ、トンデモナイコトヲイッタヨコノヒト、と動き出す。
「団長、もしや毎日暇さえあれば作って空中に仕舞ってる念写って、辺境伯との・・・」
チリ、と空気が電気を帯びて、俺の髪の先が焦げた。
「息を止められたくなければそれ以上の思考を放棄しろ。」
団長の声が凍っている。俺は両手を挙げて降参を示した。賢い部下は撤退処を心得ているものだ。でも、、、。
「辺境伯から連絡があった時、俺の口がうっかり滑らないよう、仕事も頼みますよ、団長。」
にやっとすると、団長の眉がピクッと動いた。これ以上は危険だな。
「では、私めはこの地図を持って、第一騎士団との合同会議の下準備に行って参ります。」胸に手を当てて一目散に扉へ向かう。閉めた瞬間、扉に衝撃音があり、真ん中が廊下側まで黒焦げになったのは、見なかったことにしよう。
、、、少し油を売ってから帰ったほうがいいな。きっと、戻った時には未決裁の書類は無くなっているに違いないから。
それにしても、辺境伯はご存じなんだろうか。
良い方なのに、とんでもない人に魅入られたもんだ。
ご苦労なこった。せめて俺からの感謝と、、、同情を。
俺は遥かバーベンベルクの方角に向けて心からの敬礼をした。
「団長。これ、見てやってくれませんか?」
ノックの音と同時に執務室の扉を開けると、珍しく団長が、見ていた紙をサッと空中に仕舞った。鮮やかな紅色がチラッと見える。またやっていたようだ。
「なんだ?エル。ノックと同時に開けるなら、ノックの意味は無いだろう?」
珍しくまともなことを言いながら、相変わらずの無表情で俺を見る団長。いつもなら視線も上げないのに。
「非常識が服着て歩いてる方に、そんなこと言われてもね・・・。」聞き流しながら団長に近づき、抱えていた筒状の紙を、バサッと机に載せた。
「・・・仕事なんか持ってくるな。」
途端に不機嫌な声で文句を言われ、げんなりする。相変わらずやる気ないよね。この人。
「いや、ここ、魔導師団の本部で、団長の執務室ですから。むしろ仕事以外持ってきちゃいけないところですよ。」
いつも聞き流してばかりだけど、たまには副官としてきちんと返してみようか?そう思って言ってみたついでに、ちょっとつついてみる。
「それより、今何してたんですか?空中に仕舞ったって事は、仕事じゃないですよね。」
言いながらチラッとワザとらしく机の脇の書類の山を見た。脇机から零れ落ちんばかりの未決裁書類。うん、朝渡した時と全く変わってない。
「あんまりさぼっていると、次に辺境伯から連絡があった時に言いつけますよ。」
団長の妻であるバーベンベルクの女辺境伯閣下は美人で気さくで有能で気遣いの人だ。有能だが気紛れな団長の部下を心配して、不定期にだが、困ってないか連絡をくれる。
「こんな量、やろうと思えば一瞬だから、別にさぼってない。」
途端にささっと仕事モードに切り替わる団長。空中に未決裁の書類がいくつも浮き上がり、さっとめくられていく。
本当に操縦しやすくて助かる。俺は笑いをかみ殺しながら、ズイッと先ほど机の上に置いた筒状の紙を押し付けた。
「せっかくやる気になったんだから、こっちを先に見て下さい。先日行った魔導師団、第一騎士団合同の国境視察の際、作成を依頼された地図です。」
オストマルク帝国の北と東は峻険な山地が多く、国境線が定めにくい。北は団長の住むバーベンベルクなので、近年精緻な地図が出来てきているが(とは言え、地図は団長預かりになっており、必要な時にしか我々も、皇帝陛下ですら見られない)、東はきな臭い地域もあるというのに、まだまだ雑なものしかない地域が多いのだ。
先日行われた国境視察は、東の軍事・防衛拠点の確認や結界維持装置の設置・稼働状況の確認の他に、精緻な地図を作成することも重要な任務だった。
「これが、団長の開発した、使い魔との同期の術式と最新の測量技術を組み合わせて作った地図です。魔導師団技術部の力作です。」
広げた紙には、多色刷りの地図が描かれていた。
中の一枚は鳥観図になっており、使い魔の見た景色と測量地図を組み合わせて、立体的になっている。これなら、砦を築くにあたってどの山のどの部分が一番見晴らしがいいか、どこから山を越えられるか、奇襲をかける場所はあるか、補給路に出来る道はどこを通すか、対策を立てやすい。魔導師団としても、遮るものが少ない場所に置きたい結界維持装置の設置場所策定に役に立つ事は間違いない。
団長の天才的な魔術の才能を我々秀才集団が実際の技術に生かす。なんて素晴らしいんだ、これなら文句の言いようもないだろうと思っていると。
チラッと見た団長は、一言、「雑だな。」とつぶやいた。
「・・・なんですって。」予想外の言葉に思わず鼻白む。これは団長がボーっとバーベンベルクの方角を眺めたり、ふらっと消えてしまったり、さっきのように趣味にいそしんでいる間、技術部、術式部、使い魔管理部の連中が寝不足と闘いながら、やっとの思いで仕上げたものなのに。
「雑だと言っている。この使い魔は鷹だな。鷹の飛ぶ高度から見たものをそのままの大きさで作っているだろう。全体を把握するのには役に立つかもしれないが、一つ一つが小さすぎる。
例えば、この尾根と一つ向こうの尾根へ至る道、どちらが砂礫などが無く歩きやすいか、沢へ至る道の行きやすさ、泉は近くにあるか、抜け道は作れるか・・・、実戦で使う際に必要なものが分からない。」
「っ・・・。それは、そうですが・・・。」
そんなことを言い出したら、軍事の分かる人間が直接飛んで、見たものをその通りに描くくらいでないと無理だ。
「・・・か?」
「?なんだ?」
「なら、団長には作れるんですか?もっと精緻で、一目でその場所の全貌と詳細が分かるような地図。」
思わず反抗的なことを言ってしまう。
「これは、、、。団長がさっきのように辺境伯のお姿を念写して遊んでる間も不眠不休で頑張っていた団員の成果です。雑で片付けるんなら、雑じゃないものを見せて下さい!」
言い切ってからハッと我に返る。俺は新人の副官だというのになんてことを、、、。
うろたえる俺の視界に、しかし驚くべきものが映った。
何と団長が真っ赤になって立ち上がったのだ。
「な、なん、なんでお前は知ってるんだ・・・。」
表情は変わらないのに顔色や口調が変わるって、ある意味器用なお人だ。
そんなことを思いながら、そのまま転移しようとする団長をがしっと掴む。今日こそ、この才能あふれる怠け者を逃すものか!
「お願いします。団長。出来るんですよね!?」
俺の必死さが分かったのか、自分の所業が副官にばれていたのがショックだったのか。
団長は珍しく、執務室に留まってくれた。
「頭の中には全貌と詳細が分かる立体地図があるんだが。確かに紙に落とすのはやっかいだな。」
しばらく、、、といっても五分も掛かってないだろう、、、考えていた団長は一つ頷くと俺に視線を向けた。
「視察は夏の初めだったな。この地図の場所、タトロイ山脈を私が見たのは三年前の晩秋だ。それでよければ作るが。」
「・・・お願いします。」季節がそんなに需要なのか?いぶかし気に頷く私を見て、団長はおもむろに腕を上げると、空中に魔術空間を出現させた。一瞬閉じた目を開くと空間をじっと見つめる。
「っなんだ、これは・・・」そこには、おそらく当時団長が見たままであろう視察地域の立体像が浮かび上がっていた。こ、細かい!
「どの方角から見る?」
「・・・帝都から山脈を抜けて、モラヴスカ王国へ。」
「分かった。」
立体像の向きがスーッと変わる。
「これでいいか?」
「・・・はい。」
口を開くのもやっとだ。人は、こんなに鮮明に物事を記憶できるものなのか、、、?
呆然としていると、立体像がスッと広がった。
「まずは全体が一枚。」像が静止したと思ったら、どこから取り出したのか、大きな一枚紙にスッと念写された。
「次に防衛拠点とする場所、川を抑えるべきだな。オロモッツとリドニクそれぞれの周辺。」
立体像がスーッと広がるが、団長はある一部のみを念写していく。
「あとは、、、攻撃拠点は出したくないし、結界維持装置の設置拠点は私が分かっているから必要ない。これでいいな。」
スッと魔術空間を消すと、そこには三枚の地図が出来上がっていた。一枚は鳥観図に測量結果の数字を載せたもの。後の二枚は団長が防衛拠点と示した場所の、川筋、街道、近隣の村落を結ぶ山道、氷河の作った洞窟などが詳しく記載されている。
「団長、こんな技を持っていたなんて!これはどうやって・・・」
思わず詰め寄ると、団長はスッと避ける。
「ただの念写だ。慣れればある程度は誰でも出来るようになる。それよりあまり近づくな。暑苦しい。」
悪かったね、暑苦しくて。でも、なんてすごいんだ。
俺の手放しの称賛に、多少は気をよくしたらしい。
いつもなら仕事を片付けるとすぐに執務室から消えてしまう団長が、珍しくコツを話してくれた。
「地形は晩秋に限る。雪が降る直前は木に邪魔されないし、空気が乾燥しているから遠くまで鮮明に見えやすい。それを出来るだけ精緻に目に焼き付けるんだ。私は使い魔を飛ばさず、自分が飛んで、必要なところを確認している。」
「でも、われわれでも出来るんでしょうか?こんなに精緻な念写を?」
「ここまでは無理だがある程度は日々の訓練だろう。私から見ると、お前らは本当に対象を観ていると言えない。魔術は、魔力がなければ使えないものだが、仕組みは大胆なイメージ、それを裏付ける精緻な理論と作業の積み重ねだからな。」
魔術科で初めに習う言葉だ。そんな常識を今更、と思ってしまうが。
「例えば人の顔を念写するにしても、お前たちはいい加減だ。いつの念写でも、色も形も同じだったりする。だが、実際は、肌の色一つとっても、朝日を浴びているのか、月の光なのか、夜の室内の魔道具の灯りなのかで全然違う。光だけではない。眠っている時の肌、起きている時の肌、動いている時の肌、羞恥に染まる肌、すべてが違うし、新たな発見だ。だから私は毎日忘れないうちに念写を・・・」
団長の声が、はたと止まった。
俺の思考も流されかけて、、、イヤイヤ、トンデモナイコトヲイッタヨコノヒト、と動き出す。
「団長、もしや毎日暇さえあれば作って空中に仕舞ってる念写って、辺境伯との・・・」
チリ、と空気が電気を帯びて、俺の髪の先が焦げた。
「息を止められたくなければそれ以上の思考を放棄しろ。」
団長の声が凍っている。俺は両手を挙げて降参を示した。賢い部下は撤退処を心得ているものだ。でも、、、。
「辺境伯から連絡があった時、俺の口がうっかり滑らないよう、仕事も頼みますよ、団長。」
にやっとすると、団長の眉がピクッと動いた。これ以上は危険だな。
「では、私めはこの地図を持って、第一騎士団との合同会議の下準備に行って参ります。」胸に手を当てて一目散に扉へ向かう。閉めた瞬間、扉に衝撃音があり、真ん中が廊下側まで黒焦げになったのは、見なかったことにしよう。
、、、少し油を売ってから帰ったほうがいいな。きっと、戻った時には未決裁の書類は無くなっているに違いないから。
それにしても、辺境伯はご存じなんだろうか。
良い方なのに、とんでもない人に魅入られたもんだ。
ご苦労なこった。せめて俺からの感謝と、、、同情を。
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