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皇宮での邂逅
身分証と使い魔をもらいました
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結局私は、バーベンベルクから侍従見習いとして来たライムンド・ハーマンとして、魔導師団に登録されることになった。
エルンストさんが登録用紙を準備してくれていたので、父さまが承認のサインと念写をしてくれる。
魔導師団は、父さまの開発した念写の技術を生かして、関係者は念写付きの身分証を持ってるんだって。怪しい人も入れなくなるし、何だか特別感があってカッコいいよね!
「カッコいいね!父さま、すごいね!」
私が尊敬の念を込めて言うと、父さまは「そ、そうか?」と言いながらちょっと赤くなった。あ、照れてる?
すかさずエルンストさんが、「すごい団長は今日もしっかり仕事しましょうね!」
と執務机の方へ引きずっていく。
そうだよね、お仕事だよね、じゃあ私は登録手続きに、、、と思ったら。
父さまが、エルンストさんを手で制して、「待て、ディー。」と呼び止めた。
「君の使い魔を用意しておいたんだ。」
ここに居る間は、常に連れて欲しい。そう言って父さまが指を鳴らすと、窓の外に一羽の白い小鳥が現れた。窓ガラスをコンコン、と突く。
父さまが手をすっと動かすと、窓が開いて、当たり前のように飛び込んで来た。真っ直ぐ父さまのところに来て、その手のひらにちょんと乗った。そのままじっとしている。
「よし、いい子だ。」
父さまはそう言うと、そのままその小鳥を手のひらで軽く包んだ。小さい鳥だからすっぽり入る。
次に手を開くと、小鳥は茶色に変わっていた。
「ライとしての君を主人とするよう認識させた。髪の色と一緒だから、肩に乗せてもそんなに違和感は無いだろう?」
基本的な躾も済ませてあるから、後は君と契約すれば使える。
そう言うと父さまは、当たり前のように小鳥を私に向かって差し出した。
簡単に言うけど、父さま。私使い魔と契約なんてしたことないよ。
「その子の額に、親愛の情を込めてキスしてごらん。」
「え?」
戸惑って見回すも、エルンストさんもオリヴィエ兄さまも、笑顔で黙っている。
小鳥は、ただ大人しくこちらを向いて止まっているだけ。
私はそうっと小鳥の目を覗き込むと、これから宜しくね、と言う思いを込めて、小さな額にキスをした。
その瞬間、私から小鳥へ温かいものが流れて行って。
小鳥は一度閉じた目をパッチリと開け、初めて世界を見たかのように意思を持って私を見た。
チチッと鳴くと飛び上がり、さっと私の肩に留まる。
「上手く出来たな。」
父さまが私の頭を撫でてくれて。私は思わずニッコリ笑って父さまの手に頭を擦り付けた。
登録手続きにはオリヴィエ兄さまが連れて行ってくれた。
オリヴィエ兄さまは魔導師では無いけれど、団内に知り合いが多く、登録室にも知人がいるという。
「いいなあ、あの頭をスリスリするの。ねえ、あれ僕にもやってよ。」
行く道すがら、変なことを頼まれる。
「嫌です。知り合ったばかりの方にそんなこと出来ません。」
「えーっ。知り合ったばかりだけど、でも従兄だよ?」
「従兄でも嫌です。」
「残念。まあ、お楽しみは後に取っておこうかな。ああ、此処だよ。」
長い廊下の途中で立ち止まると、オリヴィエ兄さまはお座なりなノックの後、なんの遠慮もなく扉を開いた。
「やあ、誰か居る?臨時の侍従見習いの登録に来たよ。」
大丈夫かな?ちょっと心配していると。案の定、受付らしき男の人が、胡散臭そうな顔をした。
「この時期に臨時の侍従見習い?しかもお前は団員じゃ無いな?やけにキラキラした男だし?誰だ?」
あ、怪しまれてるよ、やっぱり魔導師の誰かに頼んだ方が良かったんじゃ、、、。
ドキドキしていると、オリヴィエ兄さまはいい笑顔で言った。
「テレーゼ・ギルフォード登録室長はいる?オリヴィエが至急呼んでるって伝えて?」
押しの強い笑顔に負けた男の人が中に引っ込むと。
すぐに女の人が出てきた。
「オリヴィエ様、至急って・・・」
オリヴィエ兄さまを見て、私を見て、またオリヴィエ兄さまを見る。
訝しげな顔がハッとなると、声が漏れた。
「隠し子・・・」
「いや、違うからね。君たち、ほんと相変わらず何考えてるんだか。」
オリヴィエ兄さまは呆れ顔だけど私もだ。二十五歳の子どもが十歳って。
ほら、ライムンド君。呼ばれてハッとして、前に出て登録用紙を出す。
「ライムンド・ハーマンです。よろしくお願いします。」
とりあえずまた、胸に手を当てお辞儀をする。
「ああ、はい。まあ性格は兎も角、私達にいいネタを提供して下さる皇宮三大イケメンの一人、オリヴィエ様の頼みなら・・・て。団長の侍従見習い?あの、気難しくて人嫌いの?」
父さまが気難しくて人嫌い?
「そんな風に思ったこと無いけど・・・」
思わず呟くと、ビックリした表情で見つめられた。
「僕、団長の知り合いなの?」
「ええ、まあ、小さい頃から。」
答えて見上げると、今度は不思議そうに小鳥を見ていた。
「小さい頃。バーベンベルク出身・・・この可愛い顔立ち。しかも、団長の魔力を感じる使い魔を持ってる・・・」
訝しげな顔がハッとなると声が漏れた。
「今度こそ隠し子・・・」
「無いから!ほんと、君、大丈夫?叔父さんと言い君たちと言い・・・魔導師団が心配だよ。」
オリヴィエ兄さまの呆れ果てた声が響いた。
結局、テレーゼさんはごめんねと言いながら、直ぐに身分証を用意してくれた。
お詫びに、と、薄い皮をなめした綺麗な身分証入れもくれる。
ちょっと変わった人だけど、いい人だな。
「それと、こっちは皇宮共通の決まりでね。侍従や侍従見習いは、所属毎に色違いのタイやリボンタイを付けるんだ。はい、魔導師団の侍従見習いはこの黒いリボンタイを付けてね。」
結んであげる。
テレーゼさんに黒いビロードの細いリボンを結んでもらって、備え付けの鏡の前に立つ。
そこには、黒いリボンタイをつけた茶色い髪の男の子が、肩に小さな小鳥を乗せて立っていた。
あ、可愛い。これが、これから半月の、わたしの姿なのね!
ふふっと笑った私を見て、テレーゼさんが「新しい世界!」と小さく叫び、オリヴィエ兄さまに黒い笑顔で叱られていた。
いい人だけど、やっぱり変わってるね。
✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎ ✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎
テレーゼ・ギルフォードさんは番外編「いついかなる~」に出て来た、自由精神研究会のメンバーです。
あれから七年、活動は順調に続いているようです。
エルンストさんが登録用紙を準備してくれていたので、父さまが承認のサインと念写をしてくれる。
魔導師団は、父さまの開発した念写の技術を生かして、関係者は念写付きの身分証を持ってるんだって。怪しい人も入れなくなるし、何だか特別感があってカッコいいよね!
「カッコいいね!父さま、すごいね!」
私が尊敬の念を込めて言うと、父さまは「そ、そうか?」と言いながらちょっと赤くなった。あ、照れてる?
すかさずエルンストさんが、「すごい団長は今日もしっかり仕事しましょうね!」
と執務机の方へ引きずっていく。
そうだよね、お仕事だよね、じゃあ私は登録手続きに、、、と思ったら。
父さまが、エルンストさんを手で制して、「待て、ディー。」と呼び止めた。
「君の使い魔を用意しておいたんだ。」
ここに居る間は、常に連れて欲しい。そう言って父さまが指を鳴らすと、窓の外に一羽の白い小鳥が現れた。窓ガラスをコンコン、と突く。
父さまが手をすっと動かすと、窓が開いて、当たり前のように飛び込んで来た。真っ直ぐ父さまのところに来て、その手のひらにちょんと乗った。そのままじっとしている。
「よし、いい子だ。」
父さまはそう言うと、そのままその小鳥を手のひらで軽く包んだ。小さい鳥だからすっぽり入る。
次に手を開くと、小鳥は茶色に変わっていた。
「ライとしての君を主人とするよう認識させた。髪の色と一緒だから、肩に乗せてもそんなに違和感は無いだろう?」
基本的な躾も済ませてあるから、後は君と契約すれば使える。
そう言うと父さまは、当たり前のように小鳥を私に向かって差し出した。
簡単に言うけど、父さま。私使い魔と契約なんてしたことないよ。
「その子の額に、親愛の情を込めてキスしてごらん。」
「え?」
戸惑って見回すも、エルンストさんもオリヴィエ兄さまも、笑顔で黙っている。
小鳥は、ただ大人しくこちらを向いて止まっているだけ。
私はそうっと小鳥の目を覗き込むと、これから宜しくね、と言う思いを込めて、小さな額にキスをした。
その瞬間、私から小鳥へ温かいものが流れて行って。
小鳥は一度閉じた目をパッチリと開け、初めて世界を見たかのように意思を持って私を見た。
チチッと鳴くと飛び上がり、さっと私の肩に留まる。
「上手く出来たな。」
父さまが私の頭を撫でてくれて。私は思わずニッコリ笑って父さまの手に頭を擦り付けた。
登録手続きにはオリヴィエ兄さまが連れて行ってくれた。
オリヴィエ兄さまは魔導師では無いけれど、団内に知り合いが多く、登録室にも知人がいるという。
「いいなあ、あの頭をスリスリするの。ねえ、あれ僕にもやってよ。」
行く道すがら、変なことを頼まれる。
「嫌です。知り合ったばかりの方にそんなこと出来ません。」
「えーっ。知り合ったばかりだけど、でも従兄だよ?」
「従兄でも嫌です。」
「残念。まあ、お楽しみは後に取っておこうかな。ああ、此処だよ。」
長い廊下の途中で立ち止まると、オリヴィエ兄さまはお座なりなノックの後、なんの遠慮もなく扉を開いた。
「やあ、誰か居る?臨時の侍従見習いの登録に来たよ。」
大丈夫かな?ちょっと心配していると。案の定、受付らしき男の人が、胡散臭そうな顔をした。
「この時期に臨時の侍従見習い?しかもお前は団員じゃ無いな?やけにキラキラした男だし?誰だ?」
あ、怪しまれてるよ、やっぱり魔導師の誰かに頼んだ方が良かったんじゃ、、、。
ドキドキしていると、オリヴィエ兄さまはいい笑顔で言った。
「テレーゼ・ギルフォード登録室長はいる?オリヴィエが至急呼んでるって伝えて?」
押しの強い笑顔に負けた男の人が中に引っ込むと。
すぐに女の人が出てきた。
「オリヴィエ様、至急って・・・」
オリヴィエ兄さまを見て、私を見て、またオリヴィエ兄さまを見る。
訝しげな顔がハッとなると、声が漏れた。
「隠し子・・・」
「いや、違うからね。君たち、ほんと相変わらず何考えてるんだか。」
オリヴィエ兄さまは呆れ顔だけど私もだ。二十五歳の子どもが十歳って。
ほら、ライムンド君。呼ばれてハッとして、前に出て登録用紙を出す。
「ライムンド・ハーマンです。よろしくお願いします。」
とりあえずまた、胸に手を当てお辞儀をする。
「ああ、はい。まあ性格は兎も角、私達にいいネタを提供して下さる皇宮三大イケメンの一人、オリヴィエ様の頼みなら・・・て。団長の侍従見習い?あの、気難しくて人嫌いの?」
父さまが気難しくて人嫌い?
「そんな風に思ったこと無いけど・・・」
思わず呟くと、ビックリした表情で見つめられた。
「僕、団長の知り合いなの?」
「ええ、まあ、小さい頃から。」
答えて見上げると、今度は不思議そうに小鳥を見ていた。
「小さい頃。バーベンベルク出身・・・この可愛い顔立ち。しかも、団長の魔力を感じる使い魔を持ってる・・・」
訝しげな顔がハッとなると声が漏れた。
「今度こそ隠し子・・・」
「無いから!ほんと、君、大丈夫?叔父さんと言い君たちと言い・・・魔導師団が心配だよ。」
オリヴィエ兄さまの呆れ果てた声が響いた。
結局、テレーゼさんはごめんねと言いながら、直ぐに身分証を用意してくれた。
お詫びに、と、薄い皮をなめした綺麗な身分証入れもくれる。
ちょっと変わった人だけど、いい人だな。
「それと、こっちは皇宮共通の決まりでね。侍従や侍従見習いは、所属毎に色違いのタイやリボンタイを付けるんだ。はい、魔導師団の侍従見習いはこの黒いリボンタイを付けてね。」
結んであげる。
テレーゼさんに黒いビロードの細いリボンを結んでもらって、備え付けの鏡の前に立つ。
そこには、黒いリボンタイをつけた茶色い髪の男の子が、肩に小さな小鳥を乗せて立っていた。
あ、可愛い。これが、これから半月の、わたしの姿なのね!
ふふっと笑った私を見て、テレーゼさんが「新しい世界!」と小さく叫び、オリヴィエ兄さまに黒い笑顔で叱られていた。
いい人だけど、やっぱり変わってるね。
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テレーゼ・ギルフォードさんは番外編「いついかなる~」に出て来た、自由精神研究会のメンバーです。
あれから七年、活動は順調に続いているようです。
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