帝国最強(最凶)の(ヤンデレ)魔導師は私の父さまです

波月玲音

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帝都のひと夏

茶会の翌朝(ステファンは決意を固める)

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目が覚めた時、一瞬どこだか分からなかった。
明るい朝日が差し込む広い窓。白いレースのカーテンがそよぎ芳しい薔薇の香りが漂うここは・・・。
「ママン・・「エティエンヌ様、お目覚めですか?」
「・・・ああ、起きているよ。」
寝起きでボケるのもいい加減にしないと。
僕は一瞬で覚醒し、心の中で舌打ちをすると、なるべく穏やかに声をかけた。
朝の支度をしながらこれからの予定を確認し、部屋で食事を済ませると、バルコニーへ出てみる。
今日はここで一日ぼーっとするしか無い。いつも研究やら情報収集やらで忙しいから、たまにはのんびりするか。
目の前に広がるのは、今を盛りと咲き誇る様々な品種の薔薇の園。
今日もいい天気だ。明日も、、、いい天気だと良いけれど。
「雨は困るんだよな~。薔薇園に誘えなくなっちゃう。」
僕は信じたこともない神様に形式的な祈りを捧げると、寝椅子にゴロリと寝そべった。

僕のオストマルク帝国での身分は、隣国ロンヌ王国の伯爵の次男、大学の魔導科で研究しているただのステファンだ。
金に困っている訳でも無いが繋ぎをつけるほど財も力もある訳では無い、毒にも薬にもならない存在、それが僕。
実際、小さい頃はそう思っていたから、歳の離れた兄上が僕を敬遠するのは、単に父上が遅く迎えた隣国出身の後妻の子が鬱陶しいんだろうと思っていた。

五歳の時、父上が死んだ。僕に興味も関心も無いが、きちんと世話をして穏やかな時間をくれた人だった。今から思えばあの人には感謝しかない。
その後、環境が激変する。
まず、伯爵位を継いだ兄上が、母と僕を邸から追い出そうとしたのだ。
その時初めて知ったのだが、、、どうやら僕は、父上の親族にも、母上にも全く似てないらしい。
他所の子を伯爵家で育てるなんて持ってのほかだ!
母と言い争う声が聞こえて来た時にそう言っているのが聞こえて、、、幼いながらも聡明だった僕は怖くてドキドキしたのを覚えている。
だけど、僕はなぜか伯爵家を追い出されることはなく、、、代わりに、母がオストマルクに帰ってしまった。
「エティエンヌはいい子にしていてね。ママンは少し・・・里に帰るだけだから。」
そう言って、邸を出る最後まで、僕を抱きしめてくれたママンは、それから二年、一度も伯爵家に帰ってくる事はなかった。
けれど、手紙や小さな贈り物、、、魔術式の組み込まれたおもちゃや、ガラスの綺麗なペン先など、、、をまめにくれたから、僕を忘れていた訳では無いと思う。
二年後の或る夜、母は突然帰って来た。
それも、どうやらオストマルクからいきなり飛ばされたらしい。
それが誰に何処へかは、当時は分からなかったけれど、、、母と僕はその後伯爵家を出て、小さな邸に住むことになった。
一握りの使用人と、母と暮らす静かな生活は、伯爵家で二年、一人寂しく暮らしていた当時七歳の僕には天国で、、、母の笑顔の他は何もいらないとさえ思ったものだった。
或る時から、母の作る綺麗な薔薇園に、たまに老紳士が顔を見せるようになった。
穏やかな彼は僕ともすぐに打ち解け、そのうち僕と母と三人でお茶をする事もあったけれど、他人が入るのは、その時くらい。
その後、成長に従って貴族の子弟らしく家庭教師は幾人かついたけれど、基本的に僕の生活は極々静かで、このままひっそりと過ぎていくはずだっだ。
でも、五年前、十二歳の時。
僕の世界はまた激変した。
少し前から体調を崩している母が心配で、次に老紳士が来たら相談しようと思っていた矢先に、老紳士の遣いという者が邸を訪れたのだ。
母は何かの間違いだと行くのを止めたけれど、僕は母が心配だったから、話を少ししてくるだけだと迎えの馬車に乗った。
そうしたら。
連れて行かれたのは王宮だったのだ。
「何を驚いている。それだけ陛下に似ているんだ、お前、自分が陛下の庶子だと知らない訳ではあるまい?」
恐怖に怯えた僕を引きずるように連れて来られた謁見室の中はがらんとして、数人の騎士と何人かの大人がいるだけだった。
その中に、あの老紳士は勿論いなくて。
見上げた玉座にも誰も居なくて、一段下の椅子に、偉そうな若い男が座って僕を見下ろしていた。
言ってることが分からなくて、ぼんやり見つめた僕に、その男は半信半疑の目を向けた。
「・・・まさか、父上は本当に何も知らせていなかったのか?おい、お前、何か言え。」
「・・・貴方はどなたですか?」
「・・・ハハッ。なんだそれ、お前、本当に何も知らないんだな?」
そして。
およそ、出生の理由とやらを聞くには本当にそぐわない場所で、そぐわない人から投げつけるように、僕は、僕の生まれの秘密とやらを知らされた。
曰く、賢明で穏やかな王を血迷わせた妖婦の息子だと。
第三王子として認知されながらも、愛妾の子として、離宮に監視付きで閉じ込められているのだと。
「では、あの、たまに来る老紳士は・・・」
「っは。陛下を老紳士とは、お前はなんて不敬な奴だ。」
「陛下・・・」
「今は病で伏せっていらっしゃるがな。」
「!そんな!話があると言われたから来たのに!」
「煩い。話なら俺がしただろう。陛下が甘やかし過ぎたようだな。お前はこれから隣国オストマルクの帝都にある皇立学園に入学するんだ。」
「い、いやです、母の体調が良く無いんです。僕がついてないと!」
「お前の母親!あの女のせいで、俺の母はどれだけ傷付いたか。俺だって・・・。ああ、そうだ、お前がいう事を聞かなければ、離宮からお前の母親を身一つで追い出してもいいんだ。病床の陛下は気付くまい?」
「そんな!!」
「それがいやなら、せいぜい俺の手足となって、オストマルクで諜報活動に努めるんだな?日陰の第三王子エティエンヌ・・・いや、伯爵家の次男、オストマルクあっちじゃステファンか?・・・話は終わった、連れて行け!」

そうして、僕は病床の母を置いて、ここ、オストマルクにやって来た。
もう五年、手紙のやり取りだけで帰ってない。
今なら分かる。
母は、伯爵が亡くなった後、僕の養育を条件に、今の僕と同じようにオストマルクここで諜報活動をしていたのだ。
なぜ帰らされたのかは謎だけど、、、。
そして、実の父が王陛下と言うことは、国の貴族なら知らないものはない醜聞だったらしい。
陛下はまだ亡くなってはいないけれど、あまり良くない病状で五年、臣下に顔を見せることはないと言う。
ロンヌの実権は今や、王太子である兄上に握られている。
つまり、僕や、母上のことも全てだ。
逃げたかった。
魔術に適性のある僕は、母をさらってこの国でひっそり魔導師として暮らしてもいいとさえ思っていたのに。
ここでの僕の唯一の友のフィンの妹に目をつけ、入り婿になるなんて言ったこともあったけど、僕の本音は、母と二人、また静かな生活を取り戻すことだ。
それなのに。

「ユランの王子をバーベンベルク辺境伯が匿っています。おそらく従者として。どんな手を使っても良いから、ロンヌ公邸に連れて来なさい。」
「これが成功したら、貴方と母上に自由をあげましょう。」
「母上の病状が心配ではないのですか?」

おそらく。
ロクでもない陰謀に巻き込まれているのだろう。
捨て駒になっている自覚は十分ある。
でも。
僕は。
「やるしかないんだよね~。やだな。」
だから。精一杯足掻いてみた。
あとは、せいぜい楽しい事を考えよう。
これが終わって、もし本当に母上と一緒にオストマルクこっちに移住できたら。一介の魔導師になっちゃうけど、でも、後ろ暗い事がなくなって綺麗さっぱりしたならば。
フィン悪友のあの可愛い妹ちゃんでもからかって過ごしたいな・・・」
親と兄弟とは言え、男に本当に大事にされることを知っているあの子は、小手先の口説きには全然反応しなかった。
あんな子を落とせたら良いな、、、て、僕も嫌がっていてもロンヌの男なんだな。

僕は木漏れ日の中微睡に落ちていきながら、クスッと笑った。
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