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帝都のひと夏
カレンブルクのお茶会へようこそ(ここで貴方ですか)
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取り敢えず、双子君の片割れヘイリーさまの意見も聞こうという話になったら、カーティスさまが難しい顔をした。
「ヘイリーは今大分機嫌を損ねてますから。ルーファスさまやディアナ嬢が会いたいと言って、素直に聞くかどうか・・・。」
「なに言ってんだ、お前。会ってやるのはこっちなんだよ。」
呆れたようなルー兄さまに、私もそこは内心頷く。だって、困ってるのは双子君たちの方でしょう?
「あ、そ、それは確かにそうなんですけれど。でも・・・」
カーティスさまは口籠る。うーん、一族では見ないタイプだわ。バーベンベルクもコンラートもカレンブルクも、基本みんな自信たっぷりだものね。
私はまだ観察している余裕があるけれど、協力してやると請け負ったルー兄さまはイラッと来たみたい。普段は無口だし、綺麗な外見と冷静な口調で目立たないけど、ルー兄さまはこれでちょっと、いえ、結構短気なのだ。
「ああ、もういい。」
言うなりサッと立ち上がる。そのまま私のところに回って来た。
「どうせ俺たちは早めに帰ろうとしていたんだから、帰る挨拶をしがてら、お前の弟んところに寄ってやるよ。」
良いだろう、ディー?と言いながら、もう私の椅子に手をかけている。
本当に気が短いんだから。
でも、私もここでこれ以上紅茶を飲んで愛想笑いをするのは辛いかも。ジキスムント君を待つとは言ったけど、殿下のお手紙を解読したり、カーティス様と話している間にも戻って来なかったし、そもそもあの御令嬢、、、マティルデさまがジキスムント君を離すとも思えないし。
「・・・そうですね、兄さまの言う通り、こちらから伺いましょうか。」
そう言って私も立ち上がると、釣られてカーティスさまも腰を上げた。すぐにマックス殿下のライムンドがさっさと椅子を戻してしまったから、座り直すわけにもいかず、あわあわしてる。
うーん、この従兄弟に合わせていたら、ルー兄さまのイライラが増しそう。
私はサッとルー兄さまの出したエスコートの手を取った。
「ヘイリーさまは御令嬢に囲まれてるかもしれないでしょう?その場合はどうなさるの?」
もう、行くのは決まったこととして、次の話へと進めると、兄さまの機嫌がちょっと良くなった。
でも。
「面子を潰すつもりはないけど、へりくだるつもりも一切ないからな。話す気があるなら連絡をくれって言って、あとは放っておくさ。それで連絡が来ないなら、それまでだ。グタグタ言って状況の打開をする気のない奴の尻拭いをする気はない。神殿でもどこでも行けばいい。な、従兄弟殿。」
そう言ってカーティスさまを振り返る兄さまの顔に一切の温情はない。可哀想に、カーティスさまは青ざめているわ。その後ろに立つマックス殿下の顔は、完全に他人の厄介ごとを楽しむ表情だ。
ふう。私はまたまた内心ため息をつく。なんでこの人たち、身内以外にはこんなに厳しいんだろう。これじゃあなんだか虐めてるみたいじゃない。
私は仕方なしにカーティスさまに話しかけた。
「まずはヘイリーさまを探してみましょうよ、カーティスさま。例え今日詳しくお話し出来なくても、お困りのことを一緒に考えるつもりだと知って頂けるだけで、お気持ちも落ち着くのではないかしら?」
そう言って微笑みかければ、カーティスさまは縋るような視線を向けてくる。
「あ、そ、そうですね・・・。そうして頂ければ・・・」
思わずと言ったふうに一歩踏み出して私の手を握ろうとしたカーティスさまの、その手を振り払ったのはルー兄さまだった。
「何がそうして頂ければ、だ。厄介ごとを持ち込んだ身でディアナに頼るな。話をするのはお前だよ。ほら、さっさと案内しろって。」
そのまま強引に先頭を歩かせる。
観念したようにふらふら歩き出したカーティスさまの後ろにつきながら、私はこっそりルー兄さまに文句を言った。
「あれじゃあ、ヘイリーさまにお会いしても、まともにお話しなんて出来ないと思うわ。なんであんなに厳しくおっしゃるの?」
「何言ってるんだ。下手に同情して優しくしてみろ。ああいう奴は縋り付いて厄介ごとを全部押し付けて来るぞ。これくらいで丁度いいんだよ。」
「そうかも知れないけど・・・」
私が少し不満げに口籠ると、後ろからマックス殿下が小声で割り込んで来た。
「ディアナ嬢は優しいな。でもルーファスの言う通りだと思うぞ。大体今日は客層が悪いからさっさと帰るって話だったろ?そう言えば俺も、今日は絶対にお前らから離れるなって魔導師団長に言われたんだ。面通しだけしたら帰ろうぜ。相談事はあいつらに来させればいいだろ?」
「忌々しいが、マックス殿下の言う通りだ。詳しい話は後日だよ。」
こそこそ三人で話しながら歩いていたので、カーティスさまと少し距離が空いてしまった。
私たちの席のあった小さめの客室の隣には舞踏会場にできるような大広間があり、その向こうの端に、ソファに座る短い白金の髪の少年と周りを囲む御令嬢の一群が見えた。近付いて声を掛けたらしいカーティスさまが、何か言われて慌ててこちらを振り返る。
「兄さま、急ぎましょう。」
エスコートされた腕に添えた手に軽く力を込めた時。
「おや、ご挨拶に伺おうと思っていたのにお会いできるなんて、これも運命でしょうか?」
柔らかい声がして。
私の前にスッと手が差し伸べられた。思わず立ち止まって見上げると。
少し垂れ気味の榛色の瞳を優しげに細めて。
「ステファンさん・・・」
「こんにちは、愛しいディアナ嬢。覚えていて下さったのは嬉しいけれど、今日の僕はロンヌ王国第三王子のエティエンヌだよ?」
にっこり。
笑みを深めて強引に私の手を取る胡散臭い王子様が、そこにいた。
「ヘイリーは今大分機嫌を損ねてますから。ルーファスさまやディアナ嬢が会いたいと言って、素直に聞くかどうか・・・。」
「なに言ってんだ、お前。会ってやるのはこっちなんだよ。」
呆れたようなルー兄さまに、私もそこは内心頷く。だって、困ってるのは双子君たちの方でしょう?
「あ、そ、それは確かにそうなんですけれど。でも・・・」
カーティスさまは口籠る。うーん、一族では見ないタイプだわ。バーベンベルクもコンラートもカレンブルクも、基本みんな自信たっぷりだものね。
私はまだ観察している余裕があるけれど、協力してやると請け負ったルー兄さまはイラッと来たみたい。普段は無口だし、綺麗な外見と冷静な口調で目立たないけど、ルー兄さまはこれでちょっと、いえ、結構短気なのだ。
「ああ、もういい。」
言うなりサッと立ち上がる。そのまま私のところに回って来た。
「どうせ俺たちは早めに帰ろうとしていたんだから、帰る挨拶をしがてら、お前の弟んところに寄ってやるよ。」
良いだろう、ディー?と言いながら、もう私の椅子に手をかけている。
本当に気が短いんだから。
でも、私もここでこれ以上紅茶を飲んで愛想笑いをするのは辛いかも。ジキスムント君を待つとは言ったけど、殿下のお手紙を解読したり、カーティス様と話している間にも戻って来なかったし、そもそもあの御令嬢、、、マティルデさまがジキスムント君を離すとも思えないし。
「・・・そうですね、兄さまの言う通り、こちらから伺いましょうか。」
そう言って私も立ち上がると、釣られてカーティスさまも腰を上げた。すぐにマックス殿下のライムンドがさっさと椅子を戻してしまったから、座り直すわけにもいかず、あわあわしてる。
うーん、この従兄弟に合わせていたら、ルー兄さまのイライラが増しそう。
私はサッとルー兄さまの出したエスコートの手を取った。
「ヘイリーさまは御令嬢に囲まれてるかもしれないでしょう?その場合はどうなさるの?」
もう、行くのは決まったこととして、次の話へと進めると、兄さまの機嫌がちょっと良くなった。
でも。
「面子を潰すつもりはないけど、へりくだるつもりも一切ないからな。話す気があるなら連絡をくれって言って、あとは放っておくさ。それで連絡が来ないなら、それまでだ。グタグタ言って状況の打開をする気のない奴の尻拭いをする気はない。神殿でもどこでも行けばいい。な、従兄弟殿。」
そう言ってカーティスさまを振り返る兄さまの顔に一切の温情はない。可哀想に、カーティスさまは青ざめているわ。その後ろに立つマックス殿下の顔は、完全に他人の厄介ごとを楽しむ表情だ。
ふう。私はまたまた内心ため息をつく。なんでこの人たち、身内以外にはこんなに厳しいんだろう。これじゃあなんだか虐めてるみたいじゃない。
私は仕方なしにカーティスさまに話しかけた。
「まずはヘイリーさまを探してみましょうよ、カーティスさま。例え今日詳しくお話し出来なくても、お困りのことを一緒に考えるつもりだと知って頂けるだけで、お気持ちも落ち着くのではないかしら?」
そう言って微笑みかければ、カーティスさまは縋るような視線を向けてくる。
「あ、そ、そうですね・・・。そうして頂ければ・・・」
思わずと言ったふうに一歩踏み出して私の手を握ろうとしたカーティスさまの、その手を振り払ったのはルー兄さまだった。
「何がそうして頂ければ、だ。厄介ごとを持ち込んだ身でディアナに頼るな。話をするのはお前だよ。ほら、さっさと案内しろって。」
そのまま強引に先頭を歩かせる。
観念したようにふらふら歩き出したカーティスさまの後ろにつきながら、私はこっそりルー兄さまに文句を言った。
「あれじゃあ、ヘイリーさまにお会いしても、まともにお話しなんて出来ないと思うわ。なんであんなに厳しくおっしゃるの?」
「何言ってるんだ。下手に同情して優しくしてみろ。ああいう奴は縋り付いて厄介ごとを全部押し付けて来るぞ。これくらいで丁度いいんだよ。」
「そうかも知れないけど・・・」
私が少し不満げに口籠ると、後ろからマックス殿下が小声で割り込んで来た。
「ディアナ嬢は優しいな。でもルーファスの言う通りだと思うぞ。大体今日は客層が悪いからさっさと帰るって話だったろ?そう言えば俺も、今日は絶対にお前らから離れるなって魔導師団長に言われたんだ。面通しだけしたら帰ろうぜ。相談事はあいつらに来させればいいだろ?」
「忌々しいが、マックス殿下の言う通りだ。詳しい話は後日だよ。」
こそこそ三人で話しながら歩いていたので、カーティスさまと少し距離が空いてしまった。
私たちの席のあった小さめの客室の隣には舞踏会場にできるような大広間があり、その向こうの端に、ソファに座る短い白金の髪の少年と周りを囲む御令嬢の一群が見えた。近付いて声を掛けたらしいカーティスさまが、何か言われて慌ててこちらを振り返る。
「兄さま、急ぎましょう。」
エスコートされた腕に添えた手に軽く力を込めた時。
「おや、ご挨拶に伺おうと思っていたのにお会いできるなんて、これも運命でしょうか?」
柔らかい声がして。
私の前にスッと手が差し伸べられた。思わず立ち止まって見上げると。
少し垂れ気味の榛色の瞳を優しげに細めて。
「ステファンさん・・・」
「こんにちは、愛しいディアナ嬢。覚えていて下さったのは嬉しいけれど、今日の僕はロンヌ王国第三王子のエティエンヌだよ?」
にっこり。
笑みを深めて強引に私の手を取る胡散臭い王子様が、そこにいた。
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