[R18]2度目の人生でスローライフ?ハーレムだっていいじゃないか

白猫 おたこ

文字の大きさ
39 / 246
第二章 誘惑

第31話:魂の刻印:職人の進化と漆黒の長弓

しおりを挟む

 早川結衣が去った後の工房には、再び職人の研ぎ澄まされた静寂が戻っていた。
三神健太郎は、作業台に広げられた一枚の特級ヌメ革を見つめる。
それは、ゲーム内の『インフィニット・レルム』で手にした漆黒の皮とは対照的な、柔らかくも芯の通った、生命の温かみを感じさせる素材だった。

(……今までとは、違う。指先が、革の層の奥まで『視える』ようだ)

健太郎は、自らの手を見つめた。
ゲーム内での苛烈な解体、聖霊アイリスとの魂の同調、そしてリサと共に高みを目指した裁縫の経験。
それらが血肉となり、現実の彼の感覚を劇的に変質させていた。

「革の『声』が、以前よりも鮮明に聞こえるな……」

 健太郎は霧吹きを手に取り、革に水分を含ませる。
銀面に水が染み込む速度、その弾力、繊維の密度。
以前なら長年の経験による「推測」で補っていたものが、今は細胞レベルで「実感」として伝わってくる。
彼はスーベルカッターを握り、淀みのない動作で革を断った。
力任せではない。
素材の抵抗を最小限にいなし、最も美しい断面を引き出すそのアプローチは、聖霊の「魔力節」を正確に突くような、極限の精密さを帯びていた。

 制作は、深夜まで及んだ。
今回健太郎が作り上げたのは、ストラップの着脱によりハンドバッグとしても使える、機能美に溢れた2WAY仕様のショルダーバッグだ。
 だが、それはただの鞄ではない。彼がゲーム内で得た「新しい自分」の証明でもあった。

「……仕上げだ。ここに、俺の今の『核』を刻む」

 健太郎は刻印棒を手に取り、バッグの正面に装飾を施し始めた。
普段の彼なら、伝統的な幾何学模様を選ぶ。しかし、今の彼の脳裏に焼き付いているのは、月光の下で白銀に輝く、一人の誇り高き聖霊の姿だった。

 一打一打、慎重に、かつ情熱的に打ち込まれていく刻印。

 やがて現れたのは、流麗な曲線を描くアイリスの横顔と、彼女の半身――最初に健太郎が彼女を象った【黒鋼樺の長弓】を組み合わせた、緻密な意匠だった。

 アイリスの切れ長の瞳、意志の強さを感じさせる唇のライン、そして黒鋼樺特有の荒々しくも美しい木目を表現した長弓の肢。
それは、この世のどこにも存在しないはずの「幻想」が、現実の牛革の上に魂を持って顕現した瞬間だった。

「……できた。俺の今の限界、その一歩先だ」

 完成したバッグは、独特の品格を放っていた。
無骨な革製品の中に、異世界の神秘と美しさが同居している。
健太郎は、その仕上がりに深い満足感を覚えつつ、ふと今日納品に来た新人の娘――早川結衣のことを思い出した。

「……あの早川という娘なら、このラインの引き方に何かを感じ取るだろうか」

 名前も知らないゲーム内の相棒「リサ」の影を、彼女の中に見たわけではない。
ただ、あの娘の瞳に宿っていた、職人仕事に対する純粋な熱量。
それが、自分の作り上げたこの新しい意匠と、どこかで共鳴するような予感があった。

「ま、期待しすぎか。……次は、中に入れる裏地を考えなきゃな」

 彼がゲームと現実の境界線で生み出した初めての「傑作」。
それは、三神健太郎という男が、ただの職人から「真の造物主」へと一歩踏み出した証でもあった。

【設定データ・状況確認】
• 三神健太郎: 2WAY仕様のバッグを完成。自身の「弓」のルーツである黒鋼樺の意匠を現実に落とし込んだ。現実世界での製作により、技術への理解がより深まっている。

• 早川結衣: 現実での職人・三神の姿に当てられ、情動が爆発寸前。今夜、リサとしてログインした際に健太郎への甘えが強くなる予感。

• アイリス: デザインとして現実に投影されたことで、健太郎との「絆」が世界を超えて強固になった。

【共鳴する魂:剥き出しの真実】
 冬の朝の光が、工房の煤けた窓から差し込み、無数の塵を白く浮かび上がらせていた。
 三神健太郎は、昨夜完成させたヌメ革のバッグを傍らに置き、すでに二つ目の製作に取り掛かっていた。
今度は、深いワインレッドに染め上げられたオイルレザー。
昨夜のナチュラルな質感とは異なり、妖艶で、どこかアイリスの激情を思わせる色合いだ。

(……この色なら、あの意匠はさらに映えるはずだ)

 手慣れた手つきでショルダーバッグの形を成形していく。
正面に刻まれるのは、昨日と同じ「アイリスの横顔と黒鋼樺の長弓」。

一度指が覚えた曲線は、二度目にはさらに洗練され、革の表面に命を吹き込んでいく。
 だが、製作が佳境に入ったところで、健太郎の手が止まった。

「……チッ、仕上げ用のウエスと、コバ磨き剤が底を突いたか」

 普段なら予備を確認しているはずだが、昨夜からの神がかり的な集中力が、消耗品の減りへの注意を散らしていた。
健太郎は作業の手を止め、馴染みの材料屋『レザーワークス社』に電話をかけた。

『お電話ありがとうございます、レザーワークスです!』

 受話器から聞こえてきたのは、昨日工房へやってきた新人、早川結衣の声だった。

「三神だ。仕上げ用の綿布を二ロールと、特製の無色コバ磨き剤を急ぎで頼みたい。今から注文を出して、今日中に届くか?」

『三神さん!? あ、はい! 在庫確認します……ええ、ちょうど今あります! 私、今から他の納品で近くを通る予定ですので、すぐにお持ちします!』

 結衣の声は、弾むような、どこか切羽詰まったような熱を帯びていた。

 電話から一時間もしないうちに、一台のバンが工房の前に滑り込んできた。
 息を切らして飛び出してきた結衣は、抱えた段ボールを作業台の端に置くと、真っ先に健太郎の視線を求めた。

「お待たせしました……っ! 間に合って、良かったです……」

「ああ、助かった。手間をかけたな」

 健太郎はぶっきらぼうに礼を言い、すぐに作業台に戻った。
 そこには、製作途中のワインレッドのバッグと、そしてその横に、昨夜完成したばかりの「アイリスの意匠」が刻まれたヌメ革のショルダーバッグが置かれていた。

「……っ!?」

 結衣の動きが、凍りついたように止まった。
 彼女の瞳が、バッグの正面に刻まれた銀色の光沢を放つ意匠に吸い寄せられる。

(これは……嘘、でしょ……?)

 流麗な髪のライン、凛とした横顔、そしてその手に添えられた独特の木目を持つ長弓。
 それは、世界中の誰が見ても「美しいデザイン」でしかないだろう。
だが、早川結衣にとって、それは「デザイン」などという言葉では片付けられないものだった。
 彼女がゲームの中で、隣で共に戦い、嫉妬し、そしてその進化を共に見守ってきた『アイリス』の真の姿そのもの。
 そして、健太郎が「弓」として初めて打ち出し、リサである自分と共に素材を集めたあの『黒鋼樺の長弓』。
 結衣の指先が、ガタガタと震えだす。
現実世界の三神健太郎が、自分以外には誰も知り得ないはずの「あのアバター」の姿を、これほどまでに鮮明に、愛惜を込めて刻んでいる。

(おじさん……健太郎さんは、あの世界での出来事を……あの子を……こんなにも……)

 衝撃で呼吸を忘れる結衣の横で、健太郎がふと独り言のように漏らした。

「……昨夜、夢中で彫り込んだ。なぜか、そうしなければならない気がしたんだ。……早川さん? どうした、そんな顔をして」

 結衣は答えられなかった。
今この場で「私も知っています」と叫び出しそうな衝動と、彼がこれほどまでにアイリスを――自分の半身とも言える聖霊を想っていることへの、狂おしいほどの嫉妬と歓喜。
 
 彼女の視界が、溢れ出した涙で歪んでいく。

【設定データ・状況確認】
• 三神健太郎: 結衣がなぜ泣きそうになっているのか理解できず困惑。しかし、彼女が自分の「意匠」に強く反応したことに、言葉にできない絆を感じ始めている。

• 早川結衣: 健太郎がゲーム内の体験を「現実の芸術」にまで昇華させていることに衝撃を受ける。リサ=自分であると明かすべきか、それともこのまま「早川結衣」として彼を堕とすべきか、激しく葛藤。

• アイリス: 現実のバッグに刻まれた姿を通じて、結衣の揺れ動く心を冷ややかに、しかし優越感を持って見つめている(ような気がするほど、意匠は生き生きとしている)。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

【魔法少女の性事情・1】恥ずかしがり屋の魔法少女16歳が肉欲に溺れる話

TEKKON
恋愛
きっとルンルンに怒られちゃうけど、頑張って大幹部を倒したんだもん。今日は変身したままHしても、良いよね?

あべこべな世界

廣瀬純七
ファンタジー
男女の立場が入れ替わったあべこべな世界で想像を越える不思議な日常を体験した健太の話

ドマゾネスの掟 ~ドMな褐色少女は僕に責められたがっている~

ファンタジー
探検家の主人公は伝説の部族ドマゾネスを探すために密林の奥へ進むが道に迷ってしまう。 そんな彼をドマゾネスの少女カリナが発見してドマゾネスの村に連れていく。 そして、目覚めた彼はドマゾネスたちから歓迎され、子種を求められるのだった。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

赤ずきんちゃんと狼獣人の甘々な初夜

真木
ファンタジー
純真な赤ずきんちゃんが狼獣人にみつかって、ぱくっと食べられちゃう、そんな甘々な初夜の物語。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

処理中です...