188 / 246
第八章 現実での関係性
第178話:【冬の陽だまり、銀色の轍】
しおりを挟む
「冬だしなぁ……。どこへ行くかね」
健太郎は玄関先でキーを指に引っ掛け、少しだけ困ったように眉根を寄せた。
革職人としての生活が中心になって以来、休日はもっぱら自宅の作業場か、あるいはダイブギアを通じた仮想世界での活動ばかりだった。現実の「お出かけ」など、一体いつ以来だろうか。
「そもそも、俺は出掛けること自体が久しぶりなんだ。洒落た場所なんて知らんぞ?」
健太郎が自嘲気味に笑うと、後部座席に陣取ろうとしていた恵梨香が、すかさず身を乗り出した。
「おっちゃん、何言うてんねん! 健太郎さんが運転して、ウチらが一緒に乗ってるだけで、そこはもう最高のデートスポットやんか!」
「そうだよ、おじさん。冬の海とか、空気が澄んでて綺麗かも。……静かなところなら、ゆっくりお話しもできるし」
桃子の控えめな提案に、結衣が助手席のドアを開けながら頷く。
「冬の海、いいわね。潮風に当たれば、昨夜の熱も少しは落ち着くんじゃない? ……あ、でも、風邪引かせちゃうかしら」
「ふふ、大丈夫やで結衣さん。ウチらが健太郎さんを温めてあげるし!」
恵梨香の奔放な発言に、健太郎は「……ほどほどにしろよ」と苦笑しながら運転席に腰を下ろした。
愛車のエンジンが、重厚な低音を響かせて目覚める。
久しぶりに握るハンドルの感触。車内に広がる、三人の少女たちの華やかな香水の匂いと、微かに残る朝の残り香。
「よし、それじゃあ海の方へ向かってみるか。……途中で美味い店でもあったら寄ることにしよう」
車はゆっくりと、健太郎の自宅ガレージを滑り出した。
冬の低い日差しがフロントガラス越しに差し込み、四人の横顔を明るく照らす。
現実(リアル)の世界で、一つの車という密室に閉じ込められた一人の男と三人の女。
窓の外を流れる冬の景色は寒々としているが、車内の温度は彼女たちの期待と健太郎への情愛によって、春のように暖かかった。
「おじさん、音楽かけてもいい……? ダイブギアの中じゃない、現実の音楽が聴きたいな」
桃子のリクエストに、健太郎はオーディオのスイッチを入れた。
流れてきたのは、古いジャズか、それとも彼女たちの好む最新の曲か――。
現実の絆を確かめ合うための、贅沢な冬の逃避行が今、始まった。
【海岸線の情景、交錯する視線】
健太郎の愛車は、都心の喧騒を抜け、潮の香りが混じり始めた海岸沿いの国道へと差し掛かっていた。
冬の澄んだ青空の下、陽光に照らされた相模湾がキラキラと銀色に輝いている。
「わあ……! 綺麗……。本当におじさんと海に来ちゃった」
後部座席で窓に張り付くように外を眺める桃子が、感嘆の声を漏らす。
その隣では、恵梨香がスマホを取り出し、運転する健太郎の横顔をこっそりフレームに収めていた。
「おっちゃん、運転してる姿もサマになっとるねぇ。職人の手って感じがして、なんか……エロいわ」
「こら、恵梨香。運転中に変なこと言うな。集中力が削がれるだろ」
健太郎は苦笑しながら、太い指先でハンドルを捌く。
助手席に座る結衣は、そんな彼らのやり取りを眩しそうに見つめていた。
「いいじゃない、健太郎さん。今日はもう、みんなあなたの虜なんだから。……でも、本当に久しぶりね、こうして遠出するの」
「ああ。仕事に打ち込みすぎたか、あるいはダイブギアの世界にどっぷり浸かりすぎていたか……。現実の景色が、こんなに鮮やかだったとはな」
車は海岸線の駐車場へと滑り込んだ。冬の海は人気(ひとけ)が少なく、寄せては返す波の音だけが静かに響いている。
車を降りると、凛とした冬の冷気が四人を包み込んだ。
桃子は少し身震いしながらも、自分より背の高い健太郎の陰に隠れるように寄り添う。
「おじさん……、やっぱり少し寒いね」
「だから言ったろ。ほら、これでも着ておけ」
健太郎は自分の厚手のコートを脱ぎ、桃子の小さな肩に掛けてやった。職人の体温が残る大きなコートに包まれ、桃子は頬を赤らめて嬉しそうに俯く。
「ずるーい! 桃子ばっかり! ウチも寒いねんけど、健太郎さん?」
恵梨香がわざとらしく腕を擦りながら健太郎の右腕に抱きつき、結衣もまた当然のように左腕を確保した。
「じゃあ、私は健太郎さんに直接温めてもらおうかしら」
冬の誰もいない砂浜で、一人の男が三人の美女に文字通り「団子状態」で絡みつかれる。
現実の世界ではあまりにも浮いた光景だが、今の彼らにとってそれは、ダイブギアの中で育んできた絆の延長線上にある、必然の形だった。
「お前ら……。周りに人がいたらどうするんだ」
「ええやんか。今はウチらだけの世界やもん」
恵梨香の言葉通り、冬の海風は冷たかったが、触れ合う肌の温度は驚くほど熱い。
健太郎は、自分に向けられる三者三様の深い愛を、冬の陽だまりの中で静かに噛み締めていた。
【冬の銀盤、揺れる車内と絆の深淵】
冬の低い太陽が、鈍色の海面に銀の鱗を撒き散らしている。
海岸沿いの国道を、健太郎の愛車が一定のエンジン音を響かせながら滑るように進んでいた。車内は外の寒風を遮断し、エアコンの微かな温風と、三人の女性たちが放つ混ざり合った体温で、春先のような柔らかい空気に包まれている。
健太郎は太く節くれだった指でハンドルを握り、ゆっくりと車を走らせていた。隣の助手席では結衣が、ゆったりとした仕草でシートに背を預けている。
その後ろ、後部座席では、健太郎の分厚いコートを二人で分かち合うように羽織った桃子と恵梨香が、窓の外に流れる冬の情景に瞳を輝かせていた。
「ねぇ、おじさん……見て。海が、ダイブギアの中で見るよりもずっと、キラキラしてる」
桃子が窓ガラスに小さな白い息を吹きかけながら呟く。
その横で、恵梨香がスマホのレンズを海へと向け、シャッターを切った。
「ほんまやなぁ。でも、これって太陽の光が目に直接刺さるからやんな? ゲームの中やと調整されてるけど、現実は眩しさが痛いわ。……でも、その痛さが、なんか『生きてる』って感じする」
恵梨香の言葉に、健太郎は小さく頷いた。
「そうだな。仮想世界は完璧すぎて、逆に見落とすものもある。光の眩しさも、風の冷たさも、こうして肌に刺さるからこそ、今ここにいる実感が持てるのかもしれないな」
「健太郎さん、意外とロマンチストなのね」
結衣がクスリと笑い、健太郎の横顔を愛おしそうに見つめる。
「仕事ばかりで、外の世界のことなんて忘れてたと思ってたわ」
「……馬鹿にするな。俺だって、たまにはこういう景色を見て、感傷に浸ることくらいあるさ」
健太郎は少し照れくさそうに視線を正面へ戻した。革職人として、あるいは一人の男として、彼はこれまで多くの時間を静寂と孤独の中で過ごしてきた。しかし、今この車内に満ちているのは、孤独とは対極にある「喧騒」と「温もり」だ。
「おじさーん! あの辺に車停められない? 砂浜に降りたい!」
恵梨香が健太郎の肩を後ろから揺らす。
「わかった、わかった。揺らすな、危ないだろ」
健太郎は慣れた手つきでウインカーを出し、人気のない海辺のパーキングへと車を滑り込ませた。
エンジンを切ると、車内に静寂が訪れる。ドアを開けた瞬間に流れ込んできたのは、凛とした、そして塩辛い冬の冷気だった。
「……っ、さむ……っ!」
桃子が身をすくめる。健太郎は自らのコートを彼女の肩にしっかりと掛け直し、ボタンを留めてやった。
「だから言ったろう。海沿いの風は、街中とは比にならないほど冷たいんだ」
「でも、おじさんが一緒にいてくれるから、平気だよ」
桃子はコートの襟を握りしめ、健太郎の腕をぎゅっと抱きしめた。その感触は、分厚い冬服越しでも、彼女が持つ少女特有の柔らかさと熱を伝えてくる。
「ウチも! ウチも健太郎さんに温めてほしい!」
恵梨香が反対側の腕に飛びつき、結衣はそんな二人を見守りながら、健太郎の背中にそっと手を添えた。
四人は、誰もいない灰色の砂浜へと降りていった。足元で砂がザクザクと音を立てる。波は寄せては返し、泡が弾ける音が冬の静寂の中に吸い込まれていく。
「健太郎さん」
結衣が、風に乱れる髪を耳にかけながら、健太郎の顔を覗き込んだ。
「現実で、こうして四人で歩くなんて、数日前には想像もできなかったわね」
「……ああ。ダイブギアの中で始まった縁が、まさかここまで現実を侵食してくるとはな」
「侵食、なんて人聞きが悪いわ。これは『融合』よ」
結衣の言葉に、健太郎はふと足を止めた。
融合……。
仮想世界での出来事、そこで得たスキル、育んだ感情。
それらが今、現実の肉体を通じて、目の前の少女たちの熱量として還元されている。桃子の処女を散らした昨夜の記憶、結衣の熟練した奉仕。
それらすべてが、ただの「体験」ではなく、彼らの人生を決定的に変える楔となっているのだ。
「おじさん、見て。貝殻……。これ、持って帰ってもいいかな?」
桃子が小さな、欠けた貝殻を拾い上げ、宝物のように掌に載せている。
「いいんじゃないか。現実の思い出として、部屋にでも飾っておけ」
「うん。……ねぇ、おじさん。私、昨日の夜……怖かったけど、今はすごく幸せなの。おじさんが、私を本当の『女』にしてくれたから」
潮騒の音にかき消されそうなほど小さな、しかし芯の通った桃子の告白。
健太郎は、彼女のまだ幼い頬をそっと撫でた。
「桃子……。俺はお前の未来を奪ってしまったのかもしれない。そう思うと、胸が痛む時もある」
「そんなことない! 私が望んだことだよ。おじさんのそばにいられるなら、私、他には何もいらないもん」
桃子が健太郎の胸に顔を埋める。その純粋すぎる想いに、健太郎は言葉を失う。
そこに、恵梨香が少し寂しげな、けれど強気な笑顔で割って入った。
「桃子だけずるいわ。健太郎さん、ウチのことだって、ちゃんと見てくれてるやんな? ウチも、健太郎さんのためなら何だってする覚悟、もうできてるで」
恵梨香の瞳は、冬の海よりも深く、そして激しい情熱を宿していた。
健太郎は、二人の少女の肩を抱き寄せ、静かに頷いた。
「わかっている。お前たちの想いは、昨夜、この身体にしっかり刻み込まれた。……俺は、お前たちを裏切るようなことはしない」
結衣が、三人の輪を囲むように腕を回した。
「……幸せね、健太郎さん。これだけの愛を、現実(ここ)で一身に受けるなんて。……でも、忘れないで? 私が一番、あなたのことを深く知っているんだから」
結衣の挑戦的な、それでいて慈愛に満ちた言葉が、冷たい風の中で熱く響いた。
四人はしばらくの間、寄せては返す波を見つめていた。
そこにあるのは、社会的な倫理や常識を超えた、剥き出しの「絆」だった。
一人の男を共有し、支え、愛し抜くことを誓った三人の女。
そして、その愛をすべて受け止め、彼女たちを導く覚悟を決めた一人の男。
「……そろそろ、戻るか。身体が冷え切ってしまう」
健太郎が促すと、三人は名残惜しそうに砂浜を後にした。
車内に戻ると、再び温風が四人を包み込む。
結衣がシートを少し倒し、リラックスした様子で口を開いた。
「さて、健太郎さん。ドライブは満喫したし、次はどうしましょうか? 夜にはみんなでダイブギアに潜る約束だけど……それまでの間」
結衣の視線が、後部座席の二人へと向けられる。
「二人とも。……ダイブギアを取りに帰る前に、最後にもう一度、健太郎さんの『現実の愛』、確かめておきたいんじゃない?」
桃子と恵梨香が、弾かれたように顔を上げた。その瞳には、隠しようのない期待と、羞恥が入り混じっている。
「……いい、んですか?」
「結衣さん……そんなん言われたら、帰りたくなくなるやん……」
健太郎は、ハンドルを握る手に力を込めた。
「……お前たち、あまり俺を困らせるな。ドライブに来たんだぞ」
「あら、健太郎さん。外はあんなに広いのに、この車の中はこんなに狭いのよ? ……誰もいないこの場所で、少しだけ、『お別れの挨拶』をしても、誰も怒らないわ」
結衣の手が、健太郎の膝の上へと伸びる。
その指先が、ジーンズ越しに彼の中心を、確かな熱量でなぞり始めた。
「……っ、結衣……」
「桃子ちゃん、恵梨香ちゃん。……健太郎さんに、お礼を言いなさい」
結衣の扇動に、桃子と恵梨香が、堪えきれないといった様子で健太郎の背もたれに身を乗り出した。
冬の海辺、静まり返った駐車場に停められた一台の車。
その中で、現実の絆をより強固にするための、最後で最高に濃密な「儀式」が始まろうとしていた。
外の気温は氷点下に近づいていたが、車内の窓ガラスは、四人の激しい吐息ですぐに真っ白に曇っていった。
銀色の海を背景に、彼らの物語は、仮想世界を凌駕する熱狂を伴って、さらに深い場所へと堕ちていく。
健太郎は玄関先でキーを指に引っ掛け、少しだけ困ったように眉根を寄せた。
革職人としての生活が中心になって以来、休日はもっぱら自宅の作業場か、あるいはダイブギアを通じた仮想世界での活動ばかりだった。現実の「お出かけ」など、一体いつ以来だろうか。
「そもそも、俺は出掛けること自体が久しぶりなんだ。洒落た場所なんて知らんぞ?」
健太郎が自嘲気味に笑うと、後部座席に陣取ろうとしていた恵梨香が、すかさず身を乗り出した。
「おっちゃん、何言うてんねん! 健太郎さんが運転して、ウチらが一緒に乗ってるだけで、そこはもう最高のデートスポットやんか!」
「そうだよ、おじさん。冬の海とか、空気が澄んでて綺麗かも。……静かなところなら、ゆっくりお話しもできるし」
桃子の控えめな提案に、結衣が助手席のドアを開けながら頷く。
「冬の海、いいわね。潮風に当たれば、昨夜の熱も少しは落ち着くんじゃない? ……あ、でも、風邪引かせちゃうかしら」
「ふふ、大丈夫やで結衣さん。ウチらが健太郎さんを温めてあげるし!」
恵梨香の奔放な発言に、健太郎は「……ほどほどにしろよ」と苦笑しながら運転席に腰を下ろした。
愛車のエンジンが、重厚な低音を響かせて目覚める。
久しぶりに握るハンドルの感触。車内に広がる、三人の少女たちの華やかな香水の匂いと、微かに残る朝の残り香。
「よし、それじゃあ海の方へ向かってみるか。……途中で美味い店でもあったら寄ることにしよう」
車はゆっくりと、健太郎の自宅ガレージを滑り出した。
冬の低い日差しがフロントガラス越しに差し込み、四人の横顔を明るく照らす。
現実(リアル)の世界で、一つの車という密室に閉じ込められた一人の男と三人の女。
窓の外を流れる冬の景色は寒々としているが、車内の温度は彼女たちの期待と健太郎への情愛によって、春のように暖かかった。
「おじさん、音楽かけてもいい……? ダイブギアの中じゃない、現実の音楽が聴きたいな」
桃子のリクエストに、健太郎はオーディオのスイッチを入れた。
流れてきたのは、古いジャズか、それとも彼女たちの好む最新の曲か――。
現実の絆を確かめ合うための、贅沢な冬の逃避行が今、始まった。
【海岸線の情景、交錯する視線】
健太郎の愛車は、都心の喧騒を抜け、潮の香りが混じり始めた海岸沿いの国道へと差し掛かっていた。
冬の澄んだ青空の下、陽光に照らされた相模湾がキラキラと銀色に輝いている。
「わあ……! 綺麗……。本当におじさんと海に来ちゃった」
後部座席で窓に張り付くように外を眺める桃子が、感嘆の声を漏らす。
その隣では、恵梨香がスマホを取り出し、運転する健太郎の横顔をこっそりフレームに収めていた。
「おっちゃん、運転してる姿もサマになっとるねぇ。職人の手って感じがして、なんか……エロいわ」
「こら、恵梨香。運転中に変なこと言うな。集中力が削がれるだろ」
健太郎は苦笑しながら、太い指先でハンドルを捌く。
助手席に座る結衣は、そんな彼らのやり取りを眩しそうに見つめていた。
「いいじゃない、健太郎さん。今日はもう、みんなあなたの虜なんだから。……でも、本当に久しぶりね、こうして遠出するの」
「ああ。仕事に打ち込みすぎたか、あるいはダイブギアの世界にどっぷり浸かりすぎていたか……。現実の景色が、こんなに鮮やかだったとはな」
車は海岸線の駐車場へと滑り込んだ。冬の海は人気(ひとけ)が少なく、寄せては返す波の音だけが静かに響いている。
車を降りると、凛とした冬の冷気が四人を包み込んだ。
桃子は少し身震いしながらも、自分より背の高い健太郎の陰に隠れるように寄り添う。
「おじさん……、やっぱり少し寒いね」
「だから言ったろ。ほら、これでも着ておけ」
健太郎は自分の厚手のコートを脱ぎ、桃子の小さな肩に掛けてやった。職人の体温が残る大きなコートに包まれ、桃子は頬を赤らめて嬉しそうに俯く。
「ずるーい! 桃子ばっかり! ウチも寒いねんけど、健太郎さん?」
恵梨香がわざとらしく腕を擦りながら健太郎の右腕に抱きつき、結衣もまた当然のように左腕を確保した。
「じゃあ、私は健太郎さんに直接温めてもらおうかしら」
冬の誰もいない砂浜で、一人の男が三人の美女に文字通り「団子状態」で絡みつかれる。
現実の世界ではあまりにも浮いた光景だが、今の彼らにとってそれは、ダイブギアの中で育んできた絆の延長線上にある、必然の形だった。
「お前ら……。周りに人がいたらどうするんだ」
「ええやんか。今はウチらだけの世界やもん」
恵梨香の言葉通り、冬の海風は冷たかったが、触れ合う肌の温度は驚くほど熱い。
健太郎は、自分に向けられる三者三様の深い愛を、冬の陽だまりの中で静かに噛み締めていた。
【冬の銀盤、揺れる車内と絆の深淵】
冬の低い太陽が、鈍色の海面に銀の鱗を撒き散らしている。
海岸沿いの国道を、健太郎の愛車が一定のエンジン音を響かせながら滑るように進んでいた。車内は外の寒風を遮断し、エアコンの微かな温風と、三人の女性たちが放つ混ざり合った体温で、春先のような柔らかい空気に包まれている。
健太郎は太く節くれだった指でハンドルを握り、ゆっくりと車を走らせていた。隣の助手席では結衣が、ゆったりとした仕草でシートに背を預けている。
その後ろ、後部座席では、健太郎の分厚いコートを二人で分かち合うように羽織った桃子と恵梨香が、窓の外に流れる冬の情景に瞳を輝かせていた。
「ねぇ、おじさん……見て。海が、ダイブギアの中で見るよりもずっと、キラキラしてる」
桃子が窓ガラスに小さな白い息を吹きかけながら呟く。
その横で、恵梨香がスマホのレンズを海へと向け、シャッターを切った。
「ほんまやなぁ。でも、これって太陽の光が目に直接刺さるからやんな? ゲームの中やと調整されてるけど、現実は眩しさが痛いわ。……でも、その痛さが、なんか『生きてる』って感じする」
恵梨香の言葉に、健太郎は小さく頷いた。
「そうだな。仮想世界は完璧すぎて、逆に見落とすものもある。光の眩しさも、風の冷たさも、こうして肌に刺さるからこそ、今ここにいる実感が持てるのかもしれないな」
「健太郎さん、意外とロマンチストなのね」
結衣がクスリと笑い、健太郎の横顔を愛おしそうに見つめる。
「仕事ばかりで、外の世界のことなんて忘れてたと思ってたわ」
「……馬鹿にするな。俺だって、たまにはこういう景色を見て、感傷に浸ることくらいあるさ」
健太郎は少し照れくさそうに視線を正面へ戻した。革職人として、あるいは一人の男として、彼はこれまで多くの時間を静寂と孤独の中で過ごしてきた。しかし、今この車内に満ちているのは、孤独とは対極にある「喧騒」と「温もり」だ。
「おじさーん! あの辺に車停められない? 砂浜に降りたい!」
恵梨香が健太郎の肩を後ろから揺らす。
「わかった、わかった。揺らすな、危ないだろ」
健太郎は慣れた手つきでウインカーを出し、人気のない海辺のパーキングへと車を滑り込ませた。
エンジンを切ると、車内に静寂が訪れる。ドアを開けた瞬間に流れ込んできたのは、凛とした、そして塩辛い冬の冷気だった。
「……っ、さむ……っ!」
桃子が身をすくめる。健太郎は自らのコートを彼女の肩にしっかりと掛け直し、ボタンを留めてやった。
「だから言ったろう。海沿いの風は、街中とは比にならないほど冷たいんだ」
「でも、おじさんが一緒にいてくれるから、平気だよ」
桃子はコートの襟を握りしめ、健太郎の腕をぎゅっと抱きしめた。その感触は、分厚い冬服越しでも、彼女が持つ少女特有の柔らかさと熱を伝えてくる。
「ウチも! ウチも健太郎さんに温めてほしい!」
恵梨香が反対側の腕に飛びつき、結衣はそんな二人を見守りながら、健太郎の背中にそっと手を添えた。
四人は、誰もいない灰色の砂浜へと降りていった。足元で砂がザクザクと音を立てる。波は寄せては返し、泡が弾ける音が冬の静寂の中に吸い込まれていく。
「健太郎さん」
結衣が、風に乱れる髪を耳にかけながら、健太郎の顔を覗き込んだ。
「現実で、こうして四人で歩くなんて、数日前には想像もできなかったわね」
「……ああ。ダイブギアの中で始まった縁が、まさかここまで現実を侵食してくるとはな」
「侵食、なんて人聞きが悪いわ。これは『融合』よ」
結衣の言葉に、健太郎はふと足を止めた。
融合……。
仮想世界での出来事、そこで得たスキル、育んだ感情。
それらが今、現実の肉体を通じて、目の前の少女たちの熱量として還元されている。桃子の処女を散らした昨夜の記憶、結衣の熟練した奉仕。
それらすべてが、ただの「体験」ではなく、彼らの人生を決定的に変える楔となっているのだ。
「おじさん、見て。貝殻……。これ、持って帰ってもいいかな?」
桃子が小さな、欠けた貝殻を拾い上げ、宝物のように掌に載せている。
「いいんじゃないか。現実の思い出として、部屋にでも飾っておけ」
「うん。……ねぇ、おじさん。私、昨日の夜……怖かったけど、今はすごく幸せなの。おじさんが、私を本当の『女』にしてくれたから」
潮騒の音にかき消されそうなほど小さな、しかし芯の通った桃子の告白。
健太郎は、彼女のまだ幼い頬をそっと撫でた。
「桃子……。俺はお前の未来を奪ってしまったのかもしれない。そう思うと、胸が痛む時もある」
「そんなことない! 私が望んだことだよ。おじさんのそばにいられるなら、私、他には何もいらないもん」
桃子が健太郎の胸に顔を埋める。その純粋すぎる想いに、健太郎は言葉を失う。
そこに、恵梨香が少し寂しげな、けれど強気な笑顔で割って入った。
「桃子だけずるいわ。健太郎さん、ウチのことだって、ちゃんと見てくれてるやんな? ウチも、健太郎さんのためなら何だってする覚悟、もうできてるで」
恵梨香の瞳は、冬の海よりも深く、そして激しい情熱を宿していた。
健太郎は、二人の少女の肩を抱き寄せ、静かに頷いた。
「わかっている。お前たちの想いは、昨夜、この身体にしっかり刻み込まれた。……俺は、お前たちを裏切るようなことはしない」
結衣が、三人の輪を囲むように腕を回した。
「……幸せね、健太郎さん。これだけの愛を、現実(ここ)で一身に受けるなんて。……でも、忘れないで? 私が一番、あなたのことを深く知っているんだから」
結衣の挑戦的な、それでいて慈愛に満ちた言葉が、冷たい風の中で熱く響いた。
四人はしばらくの間、寄せては返す波を見つめていた。
そこにあるのは、社会的な倫理や常識を超えた、剥き出しの「絆」だった。
一人の男を共有し、支え、愛し抜くことを誓った三人の女。
そして、その愛をすべて受け止め、彼女たちを導く覚悟を決めた一人の男。
「……そろそろ、戻るか。身体が冷え切ってしまう」
健太郎が促すと、三人は名残惜しそうに砂浜を後にした。
車内に戻ると、再び温風が四人を包み込む。
結衣がシートを少し倒し、リラックスした様子で口を開いた。
「さて、健太郎さん。ドライブは満喫したし、次はどうしましょうか? 夜にはみんなでダイブギアに潜る約束だけど……それまでの間」
結衣の視線が、後部座席の二人へと向けられる。
「二人とも。……ダイブギアを取りに帰る前に、最後にもう一度、健太郎さんの『現実の愛』、確かめておきたいんじゃない?」
桃子と恵梨香が、弾かれたように顔を上げた。その瞳には、隠しようのない期待と、羞恥が入り混じっている。
「……いい、んですか?」
「結衣さん……そんなん言われたら、帰りたくなくなるやん……」
健太郎は、ハンドルを握る手に力を込めた。
「……お前たち、あまり俺を困らせるな。ドライブに来たんだぞ」
「あら、健太郎さん。外はあんなに広いのに、この車の中はこんなに狭いのよ? ……誰もいないこの場所で、少しだけ、『お別れの挨拶』をしても、誰も怒らないわ」
結衣の手が、健太郎の膝の上へと伸びる。
その指先が、ジーンズ越しに彼の中心を、確かな熱量でなぞり始めた。
「……っ、結衣……」
「桃子ちゃん、恵梨香ちゃん。……健太郎さんに、お礼を言いなさい」
結衣の扇動に、桃子と恵梨香が、堪えきれないといった様子で健太郎の背もたれに身を乗り出した。
冬の海辺、静まり返った駐車場に停められた一台の車。
その中で、現実の絆をより強固にするための、最後で最高に濃密な「儀式」が始まろうとしていた。
外の気温は氷点下に近づいていたが、車内の窓ガラスは、四人の激しい吐息ですぐに真っ白に曇っていった。
銀色の海を背景に、彼らの物語は、仮想世界を凌駕する熱狂を伴って、さらに深い場所へと堕ちていく。
0
あなたにおすすめの小説
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ドマゾネスの掟 ~ドMな褐色少女は僕に責められたがっている~
桂
ファンタジー
探検家の主人公は伝説の部族ドマゾネスを探すために密林の奥へ進むが道に迷ってしまう。
そんな彼をドマゾネスの少女カリナが発見してドマゾネスの村に連れていく。
そして、目覚めた彼はドマゾネスたちから歓迎され、子種を求められるのだった。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる