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第九章 ライバル達
第220話:【赤の扉】
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神殿の重厚な石門を潜り、一行が足を踏み入れた広間。そこでまず目に飛び込んできたのは、異様な威圧感を放つ『真紅の歯車の扉』だった。
壁一面を覆うほど巨大な歯車が、錆びついた悲鳴を上げながらゆっくりと逆回転している。その中心にある扉の前に、神殿の守護者――いや、深淵の代弁者と化したアビス・ゴーレムが鎮座していた。
「……っ、大きい……!」
恵梨香が息を呑む。
ゴーレムの全身は、ただの石や金属ではない。
エレーヌが語った「光を拒む不純物」と、クロノスが忌み嫌う「停滞の時間」が凝縮された、漆黒の超硬質素材で構成されていた。
「はぁっ!」
結衣が先陣を切り、鋭い一突きを放つ。だが、本来なら岩をも砕く彼女の槍先は、ゴーレムの表面に触れた瞬間、パキンと虚しい音を立てて弾かれた。
「嘘……、手応えが全くないわ!」
続けて桃子が放つ高火力の打撃も、恵梨香の碧雷の一撃も、その漆黒の体躯を前にしては、まるで霧に触れたかのように霧散してしまう。
表面に展開されたアビスの膜が、あらゆる物理・魔法攻撃を「無効化」し、因果そのものを弾き返していた。
健太郎は、静かに一歩前へ出た。
一行がどれほど強力なスキルを叩き込もうと、その「硬さ」は次元が違う。
それは単なる防御力ではなく、世界との繋がりを絶たれた、孤独な物質の塊。
「物理が効かない。魔法も弾く。……なら、直接『対話』するしかないな」
健太郎は武器を収め、素手のままゴーレムの巨大な拳へと歩み寄る。
48年間、頑固な革や扱いにくい素材と向き合ってきた男にとって、この「拒絶」はむしろ、職人魂に火をつける合図だった。
「アイリス、みんな、援護はいい。……こいつの『声』を聴く間、少しだけ時間をくれ」
健太郎の指先が、冷たく、絶望に満ちたゴーレムの表面に、そっと、そして慈しむように触れた。
その時、神殿の最深部を揺るがすような重低音が響き渡った。
北の火山帯で村正と桜花が『古の鍛冶場』を浄化し、その熱源を再起動させた影響が、地脈を通じてこの神殿へと到達したのだ。
「……村正の爺さんか……、いい仕事をしてくれる」
健太郎が呟くと同時に、扉に備え付けられた巨大な赤い歯車が、数百年ぶりの眠りから覚めたように「ギギギ……」と火花を散らして回り始めた。
鍛冶場の熱気が神殿の回路を満たし、それまで絶対的な硬度を誇っていたアビス・ゴーレムの全身が、赤熱した鉄のように赤く染まっていく。
「見ぃ、ゴーレムの表面が……融け始めちょる!」
恵梨香の叫ぶ通り、アビスの膜が熱に焼かれ、超硬質だった外装が急激に柔らかく、脆い質感へと変貌していく。
それはさながら、職人が炉で熱し、叩きやすくした「ナマシ」の状態。
「健太郎さん、ここは私に任せて!」
桃子が前に躍り出た。その手には、自身の最高傑作である巨大な武器【真・王鱗の極光大槌】が握られている。
「今ならっ! 『断層破壊(フォールト・ブレイク)』!!」
桃子が全力で大槌を振り下ろすと、極光の衝撃波がゴーレムの赤熱した胴体を捉えた。ナマされた外装は、衝撃を逃がすことができず、内部の結晶構造から一気に崩壊していく。
轟音と共に、かつての無敵の守護者は、ただの「動かない素材の塊」へと成り果てた。
「お見事、桃子。……よし、仕上げだ」
健太郎は、素材の山となったゴーレムの残骸の前に膝をついた。
赤熱した破片の隙間、最も激しく拍動するアビスの汚染源――その『核』へと指を差し込む。
「(熱いな……だが、この芯さえ抜けば、お前はただの良質な石に戻れる)」
健太郎の『慈愛の加工』が施された指先が、高熱の素材を分け入り、ドロリとしたアビスの核を優しく、だが確実に引き抜いた。
核を失った瞬間、ゴーレムの残骸から禍々しい気配が消え、そこにはただ、神殿を再建するための極上の『神代の魔鉱石』が静かに横たわっていた。
壁一面を覆うほど巨大な歯車が、錆びついた悲鳴を上げながらゆっくりと逆回転している。その中心にある扉の前に、神殿の守護者――いや、深淵の代弁者と化したアビス・ゴーレムが鎮座していた。
「……っ、大きい……!」
恵梨香が息を呑む。
ゴーレムの全身は、ただの石や金属ではない。
エレーヌが語った「光を拒む不純物」と、クロノスが忌み嫌う「停滞の時間」が凝縮された、漆黒の超硬質素材で構成されていた。
「はぁっ!」
結衣が先陣を切り、鋭い一突きを放つ。だが、本来なら岩をも砕く彼女の槍先は、ゴーレムの表面に触れた瞬間、パキンと虚しい音を立てて弾かれた。
「嘘……、手応えが全くないわ!」
続けて桃子が放つ高火力の打撃も、恵梨香の碧雷の一撃も、その漆黒の体躯を前にしては、まるで霧に触れたかのように霧散してしまう。
表面に展開されたアビスの膜が、あらゆる物理・魔法攻撃を「無効化」し、因果そのものを弾き返していた。
健太郎は、静かに一歩前へ出た。
一行がどれほど強力なスキルを叩き込もうと、その「硬さ」は次元が違う。
それは単なる防御力ではなく、世界との繋がりを絶たれた、孤独な物質の塊。
「物理が効かない。魔法も弾く。……なら、直接『対話』するしかないな」
健太郎は武器を収め、素手のままゴーレムの巨大な拳へと歩み寄る。
48年間、頑固な革や扱いにくい素材と向き合ってきた男にとって、この「拒絶」はむしろ、職人魂に火をつける合図だった。
「アイリス、みんな、援護はいい。……こいつの『声』を聴く間、少しだけ時間をくれ」
健太郎の指先が、冷たく、絶望に満ちたゴーレムの表面に、そっと、そして慈しむように触れた。
その時、神殿の最深部を揺るがすような重低音が響き渡った。
北の火山帯で村正と桜花が『古の鍛冶場』を浄化し、その熱源を再起動させた影響が、地脈を通じてこの神殿へと到達したのだ。
「……村正の爺さんか……、いい仕事をしてくれる」
健太郎が呟くと同時に、扉に備え付けられた巨大な赤い歯車が、数百年ぶりの眠りから覚めたように「ギギギ……」と火花を散らして回り始めた。
鍛冶場の熱気が神殿の回路を満たし、それまで絶対的な硬度を誇っていたアビス・ゴーレムの全身が、赤熱した鉄のように赤く染まっていく。
「見ぃ、ゴーレムの表面が……融け始めちょる!」
恵梨香の叫ぶ通り、アビスの膜が熱に焼かれ、超硬質だった外装が急激に柔らかく、脆い質感へと変貌していく。
それはさながら、職人が炉で熱し、叩きやすくした「ナマシ」の状態。
「健太郎さん、ここは私に任せて!」
桃子が前に躍り出た。その手には、自身の最高傑作である巨大な武器【真・王鱗の極光大槌】が握られている。
「今ならっ! 『断層破壊(フォールト・ブレイク)』!!」
桃子が全力で大槌を振り下ろすと、極光の衝撃波がゴーレムの赤熱した胴体を捉えた。ナマされた外装は、衝撃を逃がすことができず、内部の結晶構造から一気に崩壊していく。
轟音と共に、かつての無敵の守護者は、ただの「動かない素材の塊」へと成り果てた。
「お見事、桃子。……よし、仕上げだ」
健太郎は、素材の山となったゴーレムの残骸の前に膝をついた。
赤熱した破片の隙間、最も激しく拍動するアビスの汚染源――その『核』へと指を差し込む。
「(熱いな……だが、この芯さえ抜けば、お前はただの良質な石に戻れる)」
健太郎の『慈愛の加工』が施された指先が、高熱の素材を分け入り、ドロリとしたアビスの核を優しく、だが確実に引き抜いた。
核を失った瞬間、ゴーレムの残骸から禍々しい気配が消え、そこにはただ、神殿を再建するための極上の『神代の魔鉱石』が静かに横たわっていた。
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