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第十章 未踏の地へ
第231話:【蒼海の小手】
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夕闇が入り江を包み込む頃、拠点のキャンプ地には力強い足音が重なった。
「健太郎さん! 戻ってきたね!」
結衣と桃子が駆け寄る。
健太郎は、その逞しい背にスカイ・ラプターの巨大な翼皮を幾重にも折り畳んで背負っていた。
48歳の職人の顔には、極上の素材を仕留めた充実感が滲んでいる。
「ああ、そうだな。結衣、桃子、手伝いをありがとうな」
そこへ、密林の奥からアイリスに伴われ、恵梨香が姿を現した。
金髪は乱れ、健太郎に贈られたばかりの革エプロンは泥と魔獣の返り血で汚れている。
だが、その手には銀色に輝く小瓶――『月光の滴』がしっかりと握られていた。
「健太郎さん……っ!」
「恵梨香!」
健太郎が歩み寄ると、恵梨香は堪えきれずにその厚い胸板へと飛び込んだ。
「……怖かった。けど、うち、ちゃんと守り抜いたで。健太郎さんの隣に立つための、最初の材料やもん……」
「よくやった、恵梨香。お前ならやれると信じていたよ」
健太郎は、ボロボロになりながらも目的を果たした少女を、汚れも気にせず力強く抱きしめた。
背中に回された健太郎の腕の逞しさに、恵梨香は安堵と、女としての至福に瞳を潤ませる。
【無人島の夜・共同製作】
焚き火を囲み、軽い夕食を済ませた後、健太郎と恵梨香の二人は「即席の作業場」に籠もった。
「よし、恵梨香。俺がこのスカイ・ラプターの皮で『蒼海(そうかい)の小手』のベースを作る。お前はそこに、蒼海石を組み込むための土台を彫り上げてくれ」
「了解や、健太郎さん。……うち、健太郎さんの針の動き、一瞬たりとも見逃さへんで」
夜通しの作業が始まった。
健太郎がスカイ・ラプターの皮を極限まで薄く、かつ強靭に鞣(なめ)していく隣で、恵梨香は月光の滴を触媒に使い、蒼海石に繊細な魔法回路を刻んでいく。
結衣が横で、二人の作業を魔法の灯りで照らし出す。
「すごい……。二人の呼吸が、どんどん合っていくのがわかるよ」
「うん……健太郎さんと恵梨香ちゃん、本当の師弟みたいだね。……ちょっとだけ、羨ましいかも」
桃子が少しだけ頬を膨らませながら、二人の真剣な横顔を見守る。
健太郎の剛直な指先が革を縫い、恵梨香のしなやかな指先が金属と石を繋ぎ合わせる。
それは、48歳のプロの技術と、17歳の溢れんばかりの感性が混ざり合う、神聖なまでの共同作業だった。
夜が明ける頃。
二人の手によって完成したのは、スカイ・ラプターの純白の革に、深海の色をした蒼海石が埋め込まれた、世界に一つだけの装備だった。
「……できたな、恵梨香」
「うん……。健太郎さん、ありがとう。うち、一生これ忘らへんわ」
二人は完成したばかりの装備を間に挟み、互いの手を取り合った。窓のないテントの外では、無人島の新しい太陽が昇り始めていた。
「そういえば……みんな、自分の装備を確認してみてくれ」
健太郎の言葉に、結衣、桃子、そしてようやく目を覚ました恵梨香が、自身のステータス画面を開いて顔をこわばらせた。
「……うわ、本当だ。耐久値が真っ赤。性能も3割も出てないよ……」
結衣が肩を落とし、ボロボロになった裁縫師の軽装を見つめる。
先日の世界浄化を巡る『アビス戦』。あの死闘は、健太郎たちの装備に修復不可能なほどのダメージを与えていた。
今まともに機能しているのは、健太郎が自らが離調整している各自のインナーと、昨夜恵梨香と二人で作り上げたばかりの『蒼海の小手』だけだ。
「これじゃ、まともに森の奥へは入れへんな……。おっさ……健太郎さん、どうする? 打ち直ししようにも、ここは無人島や。まともな金床もミシンもあらへんで」
恵梨香が、まだ余韻の残る火照った体で健太郎を見上げた。
「ああ、分かっている。職人にとって道具と工房がないのは、手足をもがれたも同然だ。……まずは、この島に俺たちの『家』と、本格的な『工房』を作るところから始めるぞ」
健太郎の宣言に、アイリスが満足げに頷いた。
「主、名案ですわ。間に合わせのテントではなく、この島の素材を解体し、組み上げ、あるじの色に染め上げた『城』を築くのです。妾が場所を選定しましょう」
健太郎は立ち上がり、ダイブギアを通じて伝わる大地の鼓動を感じ取った。
48歳の職人としての魂が燃える。
メニュー画面での「合成」ではない。
この島にある巨木を切り出し、岩を削り、革を鞣し、自分たちの手でゼロから生活の基盤を組み上げる……。
それこそが、健太郎がこのゲームに求めていた「スローライフ」の本質だった。
「結衣、桃子、手伝ってくれるか? 重労働になるが、俺たちの新しい拠点を作るんだ」
「もちろんだよ、健太郎さん! 私、この島の丈夫なツタを集めてくるね。結束用のロープが必要でしょ?」
「桃子も、力仕事頑張るよ! 健太郎さんがかっこいい工房作れるように、石運びだってお手伝いするもん!」
職人・三神健太郎による、「無人島・工房建築プロジェクト」がここに幕を開けた。
「健太郎さん! 戻ってきたね!」
結衣と桃子が駆け寄る。
健太郎は、その逞しい背にスカイ・ラプターの巨大な翼皮を幾重にも折り畳んで背負っていた。
48歳の職人の顔には、極上の素材を仕留めた充実感が滲んでいる。
「ああ、そうだな。結衣、桃子、手伝いをありがとうな」
そこへ、密林の奥からアイリスに伴われ、恵梨香が姿を現した。
金髪は乱れ、健太郎に贈られたばかりの革エプロンは泥と魔獣の返り血で汚れている。
だが、その手には銀色に輝く小瓶――『月光の滴』がしっかりと握られていた。
「健太郎さん……っ!」
「恵梨香!」
健太郎が歩み寄ると、恵梨香は堪えきれずにその厚い胸板へと飛び込んだ。
「……怖かった。けど、うち、ちゃんと守り抜いたで。健太郎さんの隣に立つための、最初の材料やもん……」
「よくやった、恵梨香。お前ならやれると信じていたよ」
健太郎は、ボロボロになりながらも目的を果たした少女を、汚れも気にせず力強く抱きしめた。
背中に回された健太郎の腕の逞しさに、恵梨香は安堵と、女としての至福に瞳を潤ませる。
【無人島の夜・共同製作】
焚き火を囲み、軽い夕食を済ませた後、健太郎と恵梨香の二人は「即席の作業場」に籠もった。
「よし、恵梨香。俺がこのスカイ・ラプターの皮で『蒼海(そうかい)の小手』のベースを作る。お前はそこに、蒼海石を組み込むための土台を彫り上げてくれ」
「了解や、健太郎さん。……うち、健太郎さんの針の動き、一瞬たりとも見逃さへんで」
夜通しの作業が始まった。
健太郎がスカイ・ラプターの皮を極限まで薄く、かつ強靭に鞣(なめ)していく隣で、恵梨香は月光の滴を触媒に使い、蒼海石に繊細な魔法回路を刻んでいく。
結衣が横で、二人の作業を魔法の灯りで照らし出す。
「すごい……。二人の呼吸が、どんどん合っていくのがわかるよ」
「うん……健太郎さんと恵梨香ちゃん、本当の師弟みたいだね。……ちょっとだけ、羨ましいかも」
桃子が少しだけ頬を膨らませながら、二人の真剣な横顔を見守る。
健太郎の剛直な指先が革を縫い、恵梨香のしなやかな指先が金属と石を繋ぎ合わせる。
それは、48歳のプロの技術と、17歳の溢れんばかりの感性が混ざり合う、神聖なまでの共同作業だった。
夜が明ける頃。
二人の手によって完成したのは、スカイ・ラプターの純白の革に、深海の色をした蒼海石が埋め込まれた、世界に一つだけの装備だった。
「……できたな、恵梨香」
「うん……。健太郎さん、ありがとう。うち、一生これ忘らへんわ」
二人は完成したばかりの装備を間に挟み、互いの手を取り合った。窓のないテントの外では、無人島の新しい太陽が昇り始めていた。
「そういえば……みんな、自分の装備を確認してみてくれ」
健太郎の言葉に、結衣、桃子、そしてようやく目を覚ました恵梨香が、自身のステータス画面を開いて顔をこわばらせた。
「……うわ、本当だ。耐久値が真っ赤。性能も3割も出てないよ……」
結衣が肩を落とし、ボロボロになった裁縫師の軽装を見つめる。
先日の世界浄化を巡る『アビス戦』。あの死闘は、健太郎たちの装備に修復不可能なほどのダメージを与えていた。
今まともに機能しているのは、健太郎が自らが離調整している各自のインナーと、昨夜恵梨香と二人で作り上げたばかりの『蒼海の小手』だけだ。
「これじゃ、まともに森の奥へは入れへんな……。おっさ……健太郎さん、どうする? 打ち直ししようにも、ここは無人島や。まともな金床もミシンもあらへんで」
恵梨香が、まだ余韻の残る火照った体で健太郎を見上げた。
「ああ、分かっている。職人にとって道具と工房がないのは、手足をもがれたも同然だ。……まずは、この島に俺たちの『家』と、本格的な『工房』を作るところから始めるぞ」
健太郎の宣言に、アイリスが満足げに頷いた。
「主、名案ですわ。間に合わせのテントではなく、この島の素材を解体し、組み上げ、あるじの色に染め上げた『城』を築くのです。妾が場所を選定しましょう」
健太郎は立ち上がり、ダイブギアを通じて伝わる大地の鼓動を感じ取った。
48歳の職人としての魂が燃える。
メニュー画面での「合成」ではない。
この島にある巨木を切り出し、岩を削り、革を鞣し、自分たちの手でゼロから生活の基盤を組み上げる……。
それこそが、健太郎がこのゲームに求めていた「スローライフ」の本質だった。
「結衣、桃子、手伝ってくれるか? 重労働になるが、俺たちの新しい拠点を作るんだ」
「もちろんだよ、健太郎さん! 私、この島の丈夫なツタを集めてくるね。結束用のロープが必要でしょ?」
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