儚げな君の写真を撮りたい

冰彗

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序章

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 同じ学部に少し有名な人物が居る。白色に近しい白銀色の長い髪を腰まで伸ばしていて、エメラルドのように深い緑色の瞳をしたその人物の名前は八月一日ほずみ立夏りっか。名前が女性っぽいことや髪が長いこと、そして低めの身長から女性なのではと入学時に騒がれていたが正真正銘男である。

 俺が抱いていた八月一日立夏の第一印象は『無口で誰とも絡まない奴』だった。

 大学二年になってもずっと一人。食堂でも、授業を受けている時も一人だ。サークルにも所属していないようで授業が終わるとすぐさま大学から居なくなってしまう。

 暇で長い授業を受けている時に八月一日を観察してみることにした。八月一日は授業用のノートとは別の青色の大学ノートを取り出し、そのノートに何かを書き始めた。残念なことに少し距離があったせいで何を書いているのかは分からない。

 何書いてんだ?

 そんなことを考えている間にいつの間にか授業が終わっており授業が終わるや否やそそくさと鞄にノートを入れると八月一日は教室を出て行ってしまった。

 慌てて追い掛けると俺はあることに気付く。八月一日は、思いの外歩くのが速かった。良く言えば儚げ、悪く言えばぼーっとしているように見える八月一日が歩くのが速いとは思わなかった。

 俺は小走りになりながら追い掛ける。漸く追いつき、八月一日の肩を強く握る。

「八月一日ッ、ちょっと、待てよ…!」

「……何?」

八月一日はそう言うと右耳からワイヤレスイヤホンを外すと虚無の色で染められた瞳で俺を見てきた。

「さっき、何か書いてただろ」

「授業用ノートのこと?」

「いや、それじゃなくてだな」

「じゃあ、何?」

「えっと…」

 何か書いていたのは分かっていたが何を書いていたかまでは知らない。というか見えなかった。

 言い淀んでいると八月一日は何も言わない俺を見て小さく溜息を吐いた。

「…もしかして、これ?」

 八月一日はそう言うと鞄の中から青色の大学ノートを取り出して俺の前に差し出してきた。

「嗚呼、うん。多分これ!」

 俺がそう言うと八月一日は少し悩んだような表情を浮かべたのち

「読む?」

「えっ、良いのか?」

「うん、良いよ」

 八月一日はそう言うと俺にノートを渡してきた。

「じゃあ、お言葉に甘えて」

 俺は一言そう言い、ノートをペラっと一ページめくった。

「ん? これ、設定ってやつか?」

 ノートに書かれていたのは人物設定と呼ばれる類のものだった。

 また一ページめくると書かれていたのは苗字や男女別の名前、海外の精霊や日本の妖怪、ドラゴンの種類の名前などなど。

 姉貴が小説を書くときの資料としてこんなものを書いていた記憶がある。

「八月一日って小説書いているのか?」

「それ見ただけで小説ってよく分かったね」

「あ、嗚呼。俺の姉貴が趣味で小説書く人だったからそれに似ててな」

「ふーん、そうなんだ」

 あ、少し照れた?

 伏し目がちにしながら顔を俯かせてそう言う八月一日を見て俺は少しドキッとした。

 姉貴が言っていた言葉を思い出す。『綺麗な人の伏し目って思わず激写したくなるくらい綺麗なんだよねぇ』と言っていた言葉を。

 激写とまではいかないが写真に収めたくなるのはすごくよく分かる。

「な、なあ! 八月一日、お前の写真を撮らせてくれ‼︎」

「…えっ」

 俺は思わずそう言ってしまった。対して八月一日はというと驚いたように目を見開いていた。

 これが俺、月島つきしま星那せなと八月一日立夏の出会いだ。
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