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第1章:即時徴収と絶望の始まり
第3話:黄金の輝き
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「ひっ、……あ、あああ……っ!」
カシアンの喉から、英雄とは程遠い、潰れた蛙のような悲鳴が漏れた。
広間の床に膝をつく彼の姿に、先ほどまでの賞賛は微塵もない。軍服の肩パッドは中身を失って虚しく浮き、逞しかった胸板は薄く削げ、まるで病に侵された老人のように背が丸まっている。
何より凄惨だったのは、その顔だ。
彫刻のように整っていた輪郭は弛み、瑞々しかった肌は瞬く間に水分を失って乾燥した陶器のようにひび割れている。濁った灰色に変じた髪が、バサバサと床に落ちた。
「嘘だ……こんなこと、あってたまるか! 俺は魔王を倒した英雄なんだぞ!」
カシアンは現実を拒絶するように叫び、腰に差した『聖剣グラム』の柄を掴んだ。王家に伝わる、選ばれし勇者のみが抜ける伝説の武具。彼はその重厚な柄を握り、エレナに向けて引き抜こうとした。
「お前さえ、お前さえ殺せば、この呪いは解けるはずだ!」
だが、剣が鞘から抜けることはなかった。
それどころか、聖剣の鞘からバチバチと青白い火花が散り、カシアンの手を激しく焼いた。
「ぎゃあああああああッ!?」
カシアンは悲鳴を上げて聖剣を放り出した。床に転がった聖剣は、まるで「汚らわしいもの」に触れられたと言わんばかりに、冷たい輝きを放ちながら沈黙している。
「無駄ですよ、カシアン殿」
エレナが、一歩、彼に歩み寄る。その足音は静かだが、絶望を運ぶ死神の鎌のように重い。
「その聖剣が貴方に従っていたのは、貴方の資質ではありません。私の『贈与魔力』が貴方を勇者だと誤認させていただけ。資格(魔力)を失った今の貴方にとって、それはただの重い鉄塊に過ぎません」
「ふざけるな……! 返せ、俺の力を返せッ!」
カシアンが這いつくばったままエレナの靴を掴もうと手を伸ばすが、その指先に力は入らない。
「いいえ、返していただくのは私の方です。……次いで、第四条。貴方が民を欺くために利用した『英雄の眼光(カリスマ)』を徴収します」
エレナが指を鳴らす。
カシアンの瞳から、最後の一滴まで光が吸い出された。かつて人々を熱狂させた意志の強い碧眼は、瞬く間に濁り、卑屈さと恐怖だけを湛えた凡夫の目へと成り下がった。
「そこまでだ」
冷徹な声が響き、近衛兵たちが立ち塞がろうとした人だかりを割った。
現れたのは、漆黒の外套を纏った青年だった。銀縁の眼鏡の奥で、鋭い知性を感じさせる瞳が、この惨状を冷ややかに観察している。
「な、なんだお前は……! 不敬だぞ!」
震える声で叫ぶレティシアを無視し、青年はエレナの前で深々と頭を下げた。
「王立税務局、感情徴収官のリュカ・サリバンと申します。エレナ・フォン・ラングリス閣下。申告書の正当な発動を確認いたしました。これより、本件の公的執行を私が監督いたします」
リュカは懐から銀色の手錠ではなく、魔法の封印が施された『差押(さしおさえ)』の札を取り出し、力なく地面に伏せるカシアンの背中に、容赦なくそれを突き立てた。
「債務者カシアン。貴殿の社会的地位、および財産は、現時刻をもって『感情の贈与税』の担保として凍結された。異議は認められない」
広間を支配していた熱狂は、いまや凍てつくような静寂と、カシアンへの冷淡な軽蔑へと完全に塗り替えられていた。
カシアンの喉から、英雄とは程遠い、潰れた蛙のような悲鳴が漏れた。
広間の床に膝をつく彼の姿に、先ほどまでの賞賛は微塵もない。軍服の肩パッドは中身を失って虚しく浮き、逞しかった胸板は薄く削げ、まるで病に侵された老人のように背が丸まっている。
何より凄惨だったのは、その顔だ。
彫刻のように整っていた輪郭は弛み、瑞々しかった肌は瞬く間に水分を失って乾燥した陶器のようにひび割れている。濁った灰色に変じた髪が、バサバサと床に落ちた。
「嘘だ……こんなこと、あってたまるか! 俺は魔王を倒した英雄なんだぞ!」
カシアンは現実を拒絶するように叫び、腰に差した『聖剣グラム』の柄を掴んだ。王家に伝わる、選ばれし勇者のみが抜ける伝説の武具。彼はその重厚な柄を握り、エレナに向けて引き抜こうとした。
「お前さえ、お前さえ殺せば、この呪いは解けるはずだ!」
だが、剣が鞘から抜けることはなかった。
それどころか、聖剣の鞘からバチバチと青白い火花が散り、カシアンの手を激しく焼いた。
「ぎゃあああああああッ!?」
カシアンは悲鳴を上げて聖剣を放り出した。床に転がった聖剣は、まるで「汚らわしいもの」に触れられたと言わんばかりに、冷たい輝きを放ちながら沈黙している。
「無駄ですよ、カシアン殿」
エレナが、一歩、彼に歩み寄る。その足音は静かだが、絶望を運ぶ死神の鎌のように重い。
「その聖剣が貴方に従っていたのは、貴方の資質ではありません。私の『贈与魔力』が貴方を勇者だと誤認させていただけ。資格(魔力)を失った今の貴方にとって、それはただの重い鉄塊に過ぎません」
「ふざけるな……! 返せ、俺の力を返せッ!」
カシアンが這いつくばったままエレナの靴を掴もうと手を伸ばすが、その指先に力は入らない。
「いいえ、返していただくのは私の方です。……次いで、第四条。貴方が民を欺くために利用した『英雄の眼光(カリスマ)』を徴収します」
エレナが指を鳴らす。
カシアンの瞳から、最後の一滴まで光が吸い出された。かつて人々を熱狂させた意志の強い碧眼は、瞬く間に濁り、卑屈さと恐怖だけを湛えた凡夫の目へと成り下がった。
「そこまでだ」
冷徹な声が響き、近衛兵たちが立ち塞がろうとした人だかりを割った。
現れたのは、漆黒の外套を纏った青年だった。銀縁の眼鏡の奥で、鋭い知性を感じさせる瞳が、この惨状を冷ややかに観察している。
「な、なんだお前は……! 不敬だぞ!」
震える声で叫ぶレティシアを無視し、青年はエレナの前で深々と頭を下げた。
「王立税務局、感情徴収官のリュカ・サリバンと申します。エレナ・フォン・ラングリス閣下。申告書の正当な発動を確認いたしました。これより、本件の公的執行を私が監督いたします」
リュカは懐から銀色の手錠ではなく、魔法の封印が施された『差押(さしおさえ)』の札を取り出し、力なく地面に伏せるカシアンの背中に、容赦なくそれを突き立てた。
「債務者カシアン。貴殿の社会的地位、および財産は、現時刻をもって『感情の贈与税』の担保として凍結された。異議は認められない」
広間を支配していた熱狂は、いまや凍てつくような静寂と、カシアンへの冷淡な軽蔑へと完全に塗り替えられていた。
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