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第1章:即時徴収と絶望の始まり
第5話:騎士の誇り
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「嘘だ……嘘だ! 俺の剣技だけは、この腕の力だけは、俺自身が鍛え上げたものだッ!」
カシアンは血の混じった唾を吐き捨て、震える手で床に落ちた聖剣を掴もうとした。だが、指先が柄に触れた瞬間、青白い火花がバチリと爆ぜ、彼の指の皮を焼き焦がす。もはや聖剣にとって、彼は英雄どころか、触れることさえ許されぬ不浄な債務者に過ぎなかった。
広間の隅で、カシアンと共に戦地を駆けた騎士たちが愕然と立ち尽くしていた。
「カシアン、お前のその惨めな姿はなんだ……」
騎士団長ガイルが、絞り出すような声で呟く。
エレナは冷徹な眼差しをカシアンへ向け、感情を排した声で宣告を続けた。
「第五条:戦地における致命傷の『肩代わり贈与(ダメージ・バイパス)』の清算を開始します」
その言葉が発せられた瞬間、カシアンの体に異変が起きた。
「ぐあ、あああああああッ!?」
カシアンが絶叫し、その場でのたうち回る。
軍服が内側から弾け飛ぶ。かつて魔王の側近に斬られたはずの左肩、毒矢を受けたはずの脇腹、そして魔王の呪いを受けたはずの心臓付近。――エレナが遠隔でその苦痛と損傷をすべて肩代わりし、魔力で封じ込めていた「過去の負債」が、本来の持ち主へと一気に回帰したのだ。
塞がっていたはずの傷口が次々と開き、どす黒い血が噴き出す。それは単なる負傷ではない。十年間、エレナの慈愛によって「なかったこと」にされていた因果の逆流だった。
「カシアン殿。貴方が戦場で見せた神速の剣筋は、私が貴方の脳に直接魔力を送り、神経伝達を加速させていた成果です。貴方の剛腕は、私が重力負荷を肩代わりして維持していた虚像。……貴方自身の筋肉は、とうの昔にその負荷に耐えきれず、腐り落ちていたのですよ」
エレナが静かに歩を進め、床に転がる聖剣の前に立った。
彼女がそっと手を伸ばすと、カシアンをあんなに激しく拒絶した聖剣が、まるで主の帰還を喜ぶ小鳥のように、甘やかなハミングを上げて彼女の手の平に収まった。
「な……っ!?」
カシアンが絶望に目を見開く。
エレナが聖剣を軽く一閃させる。ただそれだけで、広間の空気が真空になったかのような鋭い風が吹き抜け、背後の石柱を音もなく両断した。
「そんな……馬鹿な……。俺を支えていたのは、お前の魔力だったというのか? 俺の栄光は、すべてお前が作った書き割りに過ぎなかったというのかッ!」
「その通りです。貴方は私の愛という名のゆりかごの中で、英雄の夢を見ていただけ。……ですが、もう朝です。カシアン殿」
エレナの言葉と共に、カシアンの腕から最後の筋力が失われ、枯れ木のような細い腕が床に力なく落ちた。
「執行完了」
リュカが手帳を閉じ、冷ややかに告げた。
「これにより、債務者カシアン・ド・グランバリュの『英雄』としての戦功、および騎士資格をすべて無効化する。……団長、あとは軍規に従い、この『詐欺師』の処遇をお願いします」
ガイル団長は、軽蔑の眼差しでカシアンを一瞥すると、吐き捨てるように命じた。
「……この男から勲章を剥ぎ取れ。英雄の皮を被った寄生虫に、我が団の誇りは汚させん」
近衛兵たちに両脇を抱えられ、引きずられていくカシアン。
その背中には、かつての輝きは微塵も残っていなかった。
カシアンは血の混じった唾を吐き捨て、震える手で床に落ちた聖剣を掴もうとした。だが、指先が柄に触れた瞬間、青白い火花がバチリと爆ぜ、彼の指の皮を焼き焦がす。もはや聖剣にとって、彼は英雄どころか、触れることさえ許されぬ不浄な債務者に過ぎなかった。
広間の隅で、カシアンと共に戦地を駆けた騎士たちが愕然と立ち尽くしていた。
「カシアン、お前のその惨めな姿はなんだ……」
騎士団長ガイルが、絞り出すような声で呟く。
エレナは冷徹な眼差しをカシアンへ向け、感情を排した声で宣告を続けた。
「第五条:戦地における致命傷の『肩代わり贈与(ダメージ・バイパス)』の清算を開始します」
その言葉が発せられた瞬間、カシアンの体に異変が起きた。
「ぐあ、あああああああッ!?」
カシアンが絶叫し、その場でのたうち回る。
軍服が内側から弾け飛ぶ。かつて魔王の側近に斬られたはずの左肩、毒矢を受けたはずの脇腹、そして魔王の呪いを受けたはずの心臓付近。――エレナが遠隔でその苦痛と損傷をすべて肩代わりし、魔力で封じ込めていた「過去の負債」が、本来の持ち主へと一気に回帰したのだ。
塞がっていたはずの傷口が次々と開き、どす黒い血が噴き出す。それは単なる負傷ではない。十年間、エレナの慈愛によって「なかったこと」にされていた因果の逆流だった。
「カシアン殿。貴方が戦場で見せた神速の剣筋は、私が貴方の脳に直接魔力を送り、神経伝達を加速させていた成果です。貴方の剛腕は、私が重力負荷を肩代わりして維持していた虚像。……貴方自身の筋肉は、とうの昔にその負荷に耐えきれず、腐り落ちていたのですよ」
エレナが静かに歩を進め、床に転がる聖剣の前に立った。
彼女がそっと手を伸ばすと、カシアンをあんなに激しく拒絶した聖剣が、まるで主の帰還を喜ぶ小鳥のように、甘やかなハミングを上げて彼女の手の平に収まった。
「な……っ!?」
カシアンが絶望に目を見開く。
エレナが聖剣を軽く一閃させる。ただそれだけで、広間の空気が真空になったかのような鋭い風が吹き抜け、背後の石柱を音もなく両断した。
「そんな……馬鹿な……。俺を支えていたのは、お前の魔力だったというのか? 俺の栄光は、すべてお前が作った書き割りに過ぎなかったというのかッ!」
「その通りです。貴方は私の愛という名のゆりかごの中で、英雄の夢を見ていただけ。……ですが、もう朝です。カシアン殿」
エレナの言葉と共に、カシアンの腕から最後の筋力が失われ、枯れ木のような細い腕が床に力なく落ちた。
「執行完了」
リュカが手帳を閉じ、冷ややかに告げた。
「これにより、債務者カシアン・ド・グランバリュの『英雄』としての戦功、および騎士資格をすべて無効化する。……団長、あとは軍規に従い、この『詐欺師』の処遇をお願いします」
ガイル団長は、軽蔑の眼差しでカシアンを一瞥すると、吐き捨てるように命じた。
「……この男から勲章を剥ぎ取れ。英雄の皮を被った寄生虫に、我が団の誇りは汚させん」
近衛兵たちに両脇を抱えられ、引きずられていくカシアン。
その背中には、かつての輝きは微塵も残っていなかった。
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