感情の贈与税 〜光の加護より、確かな契約。没落令嬢による国家再生録〜

しょくぱん

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第1章:即時徴収と絶望の始まり

第6話:徴収完了、そして決別

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 嵐が去った後のような静寂が、大広間に満ちていた。
 カシアンから引き抜かれた膨大な魔力の奔流は、すべて本来の持ち主であるエレナへと還流した。

 その光景を、誰一人として見過ごすことはできなかった。
 くすんでいた枯草色の髪は、内側から発光するかのような透明感を持った銀髪へと変貌し、背中まで美しく流れている。青白く痩せこけていた頬は、極上の白磁のような滑らかさを取り戻し、その瞳は夜空に輝く星よりも深く、鮮やかな紫電を宿していた。

「……あれが、本当にラングリス家の『地味令嬢』か?」
「なんて美しい……。まるで女神の化身ではないか」

 貴族たちの囁き声は、今や純粋な感嘆へと変わっていた。十年間、カシアンという偽りの太陽を輝かせるために自らを削り、影に徹してきた月が、ついにその真の光を取り戻したのだ。

「待ってくれ……待ってくれ、エレナ!」

 近衛兵に引きずられ、出口へ運ばれようとしていたカシアンが、必死に声を張り上げた。
 その顔はもはや、若き公爵令息の面影など微塵もない。深いシワが刻まれ、歯はガタつき、見る影もなく老け込んだ男。彼は震える手でエレナを指差した。

「分かった、僕が悪かった! 婚約破棄は撤回する! 君の魔力があれば、僕はまた英雄に戻れるんだ! 公爵家には君が必要だ……君がいなければ、我が家は立ち行かなくなるんだぞ!」

 醜悪な縋り付き。その言葉に、エレナはゆっくりとカシアンへ歩み寄り、その足元で立ち止まった。彼女の影が、地に這う彼を冷たく覆う。

「カシアン氏。貴方はまだ、自分が何をしたのか理解していないのですね」

 エレナの声は、氷の楔のようにカシアンの心臓に突き刺さった。

「私が貴方に与えていたのは、魔力だけではありません。貴方の父上が浪費で作った公爵家の負債、それらをすべて私の実家からの援助と、私の魔導研究の特許料で補填していました。……今日、この瞬間をもって、そのすべての支援も『徴収』の対象として停止いたします」

「な……っ!?」

「リュカ様。公爵家の資産調査の結果は?」

 リュカが手帳を叩き、冷ややかに告げる。
「すでに差し押さえの手続きに入っています。公爵家は明日には破産、爵位は王室へ返上されることになるでしょう。……カシアン氏、貴方に残されたのは、支払いきれないほどの『利息』という名の絶望だけです」

「ああ、あああああああッ!」
 カシアンの絶叫が広間に響くが、それを憐れむ者はもう誰もいない。彼はレティシアと共に、ゴミのように広間から引きずり出されていった。

 エレナは一度だけ深く息を吐き、重い過去をすべて振り払うように背筋を伸ばした。
 その時、広間の巨大な窓から、夜明けの光が差し込んだ。
 朝日を浴びて輝く彼女の姿は、あまりにも神々しく、誰もがその場に跪きたい衝動に駆られた。

「エレナ様」
 リュカが歩み寄り、恭しく一通の書面を差し出した。
「これは、王立魔導院からの復帰要請、および――貴女個人に対する、新たな契約書です」

 エレナはその書面に指を触れ、薄く微笑んだ。
「……贈与ではない、対等な関係の契約なら。喜んで、検討させていただきますわ」

 十年の停滞が終わり、エレナの真の人生が、いま始まった。
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