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第1章:即時徴収と絶望の始まり
第7話:税務局の影
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かつて栄華の象徴だったグランバリュ公爵邸は、いまや墓所のような静寂に包まれていた。
豪奢な大広間に置かれた名画、金細工の燭台、果ては毛足の長い絨毯にまで、無慈悲な赤い紙――『差押』の官印が押された封紙が貼られている。
「そんな……。嘘だと言ってくれ、リュカ殿」
カシアンの父、グランバリュ公爵が掠れた声で懇願した。彼の目の前には、銀縁眼鏡を冷たく光らせたリュカ・サリバンが、山のような書類を手に立っている。その背後には、感情税務局の徴収官たちが、事務的な手つきで邸内の備品をリスト化していた。
「嘘ではありません、公爵閣下。いえ、すでに爵位は剥奪されましたから、『カシアン氏の父君』とお呼びすべきでしょうか」
リュカは表情ひとつ変えず、一枚の書面を突き出した。
「エレナ・フォン・ラングリス様が十年間で肩代わりした貴家の債務、およびカシアン氏が魔力を担保に得ていた軍事予算の不正流用。これらにかかる『延滞利息』の計算が完了しました。……総額で、公爵領三つ分の年収に相当します」
「なっ……!?」
部屋の隅で、毛布にくるまって震えていたカシアンが顔を上げた。魔力を失い、急激な老化に晒された彼の肌は土気色で、かつての英雄の面影は微塵もない。
「ぼ、僕が魔王を倒した報奨金があるはずだ! あれで払えるだろう!」
「おめでたい方だ」
リュカが鼻で笑う。
「その報奨金は『英雄カシアン』に支払われたもの。しかし、先日の鑑定で貴殿の武勲はエレナ様の魔力贈与による『偽造』であると断定されました。王宮はすでに報奨金の全額返還を求めています。……貴殿に残されたのは、負債だけですよ」
カシアンは絶望に呻き、そのまま床に倒れ込んだ。もはや怒鳴る気力さえ、今の彼には残されていない。
---
一方、ラングリス伯爵家。
エレナが帰宅すると、玄関先には父である伯爵と、その妻、そして異母妹が並んで待ち構えていた。
「おお、エレナ! よくぞ戻った、我が家の自慢の娘よ!」
十年間、エレナを「カシアンに寄生する出来損ない」と呼び、質素な離れに押し込めていた父が、揉み手で近づいてくる。その目は、本来の美しさを取り戻したエレナの容姿と、彼女が手にしている「聖剣グラム」に釘付けだった。
「お姉様、そのお肌、どうされたの? 羨ましいわ! あんな老け込んだ男、捨てて正解よ。次はもっと条件の良い公爵家を紹介してあげるから、その聖剣を売ったお金で私に新しいドレスを……」
異母妹の軽薄な言葉を、エレナは冷徹な一瞥で遮った。
彼女がただ一歩踏み出すだけで、床から微かな魔力の波動が広がり、家族たちは気圧されて後退る。
「……勘違いしないでください、お父様」
エレナの声には、もはや家族への情など一片も含まれていなかった。
「私がこの家に戻ったのは、貴方たちと食事をするためではありません。私の母の形見――『女神の涙』のブローチを回収するためです。……カシアンへの借金の担保として、貴方が勝手に差し出したアレを」
伯爵の顔が、みるみるうちに青ざめていく。
「あ、あれは……その、公爵家との繋がりを維持するために必要な投資で……」
「左様ですか。投資、ですね」
エレナは懐から、カシアンに見せたものとは別の、青い縁取りの羊皮紙を取り出した。
「では、この家に対しても『精算』を行いましょう。私が十年間、この家の家計を維持するために提供した魔力結晶の市場価格……。今からその『徴収』を開始します」
伯爵家の屋敷に、新たな徴収の光が灯る。
エレナの戦いは、まだ始まったばかりだった。
豪奢な大広間に置かれた名画、金細工の燭台、果ては毛足の長い絨毯にまで、無慈悲な赤い紙――『差押』の官印が押された封紙が貼られている。
「そんな……。嘘だと言ってくれ、リュカ殿」
カシアンの父、グランバリュ公爵が掠れた声で懇願した。彼の目の前には、銀縁眼鏡を冷たく光らせたリュカ・サリバンが、山のような書類を手に立っている。その背後には、感情税務局の徴収官たちが、事務的な手つきで邸内の備品をリスト化していた。
「嘘ではありません、公爵閣下。いえ、すでに爵位は剥奪されましたから、『カシアン氏の父君』とお呼びすべきでしょうか」
リュカは表情ひとつ変えず、一枚の書面を突き出した。
「エレナ・フォン・ラングリス様が十年間で肩代わりした貴家の債務、およびカシアン氏が魔力を担保に得ていた軍事予算の不正流用。これらにかかる『延滞利息』の計算が完了しました。……総額で、公爵領三つ分の年収に相当します」
「なっ……!?」
部屋の隅で、毛布にくるまって震えていたカシアンが顔を上げた。魔力を失い、急激な老化に晒された彼の肌は土気色で、かつての英雄の面影は微塵もない。
「ぼ、僕が魔王を倒した報奨金があるはずだ! あれで払えるだろう!」
「おめでたい方だ」
リュカが鼻で笑う。
「その報奨金は『英雄カシアン』に支払われたもの。しかし、先日の鑑定で貴殿の武勲はエレナ様の魔力贈与による『偽造』であると断定されました。王宮はすでに報奨金の全額返還を求めています。……貴殿に残されたのは、負債だけですよ」
カシアンは絶望に呻き、そのまま床に倒れ込んだ。もはや怒鳴る気力さえ、今の彼には残されていない。
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一方、ラングリス伯爵家。
エレナが帰宅すると、玄関先には父である伯爵と、その妻、そして異母妹が並んで待ち構えていた。
「おお、エレナ! よくぞ戻った、我が家の自慢の娘よ!」
十年間、エレナを「カシアンに寄生する出来損ない」と呼び、質素な離れに押し込めていた父が、揉み手で近づいてくる。その目は、本来の美しさを取り戻したエレナの容姿と、彼女が手にしている「聖剣グラム」に釘付けだった。
「お姉様、そのお肌、どうされたの? 羨ましいわ! あんな老け込んだ男、捨てて正解よ。次はもっと条件の良い公爵家を紹介してあげるから、その聖剣を売ったお金で私に新しいドレスを……」
異母妹の軽薄な言葉を、エレナは冷徹な一瞥で遮った。
彼女がただ一歩踏み出すだけで、床から微かな魔力の波動が広がり、家族たちは気圧されて後退る。
「……勘違いしないでください、お父様」
エレナの声には、もはや家族への情など一片も含まれていなかった。
「私がこの家に戻ったのは、貴方たちと食事をするためではありません。私の母の形見――『女神の涙』のブローチを回収するためです。……カシアンへの借金の担保として、貴方が勝手に差し出したアレを」
伯爵の顔が、みるみるうちに青ざめていく。
「あ、あれは……その、公爵家との繋がりを維持するために必要な投資で……」
「左様ですか。投資、ですね」
エレナは懐から、カシアンに見せたものとは別の、青い縁取りの羊皮紙を取り出した。
「では、この家に対しても『精算』を行いましょう。私が十年間、この家の家計を維持するために提供した魔力結晶の市場価格……。今からその『徴収』を開始します」
伯爵家の屋敷に、新たな徴収の光が灯る。
エレナの戦いは、まだ始まったばかりだった。
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