身代わりで呪いの公爵に嫁ぎましたが、聖女の力で浄化したら離縁どころか国一番の溺愛妻になりました〜実家が泣きついてももう遅い〜

しょくぱん

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第一章 絶望と運命の出会い

第三話 死神公爵の、不器用なおもてなし

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「……君は、あんな不潔な実家で何をされていたんだ?」

 部屋の空気が一変した後、アレクシス様は絞り出すような声で言った。先ほどまでの冷徹な威圧感はどこへやら、彼は自分の手のひらを見つめ、信じられないという顔をしている。

「……何、と言われましても。ただ、毎日掃除をしていただけです」 「掃除だけで瘴気が消えるはずがない。それは――聖女・・の浄化だ」

 聖女せいじょ。それは国に一人現れるかどうかの、伝説の存在。魔力なしの無能むのうと呼ばれた私がそんなはずないけれど、アレクシス様はそれ以上追及せず、一つ溜息をついた。

「……腹は減っているか」 「えっ?」

 予想外の言葉に、私は呆然とする。実家では、家族が食べ残したカピカピのパンか、腐りかけのスープを台所の隅で食べるのが日常だった。

「ついてこい。……いや、まずはそのボロボロの格好をどうにかしろ」

 彼は呼び鈴を鳴らした。現れたのは、これまた死神の城にふさわしく、顔色の悪い老執事だった。……が、部屋に足を踏み入れた瞬間、老執事は腰を抜かさんばかりに驚いた。

「こ、これは……!? 長年、私共を苦しめていた瘴気が、跡形もなく消えている……!」 「セバス、騒ぐな。……彼女に、着替えと食事を。一番良いものを用意しろ」

 ***

 一時間後。私は、生まれて初めて「新品のドレス」に袖を通していた。姉のお古ではない、柔らかなシルクのドレス。さらに、目の前の長いテーブルには、湯気を立てる豪華な料理が並んでいる。

「……食べないのか」

 向かい側に座るアレクシス様が、仮面の下からこちらを窺っている。彼は毒見でもするかのように、まず自分で一口食べ、それから顎で私に促した。

「……いただきます」

 震える手で、スプーンを口に運ぶ。口の中に広がったのは、とろけるようなクリームシチューの温かさと、野菜の甘みだった。

「…………っ、う、ぅ……」 「……おい。毒でも入っていたか?」

 慌てたようなアレクシス様の声。私は、止まらなくなった涙をボロボロと溢しながら、首を振った。

「あ、温かいです……。お料理が、こんなに温かくて、美味しいなんて……」 「…………」 「私、いつも……家族の残したものしか食べられなくて。冷たくて、泥みたいな味しか知らなくて……。こんなに、人間らしく扱っていただけるなんて……」

 アレクシス様が、絶句して固まるのが分かった。彼はスプーンを置くと、ガタリと椅子を引いて立ち上がり、私の隣まで歩いてきた。

 大きな手が、恐る恐る私の頭に触れる。死神・・と恐れられる男の手は、驚くほど優しく、そして震えていた。

「……レティシア。君を無能と呼んだ奴らは、どいつもこいつも節穴ふしあなだ」

 低い、地響きのような声。けれど、そこには明確な「怒り」が宿っていた。私ではなく、私を捨てた実家への怒りが。

「ここには君を虐げる者はいない。……明日からは、好きなだけ掃除をしろ。好きなだけ飯を食え。誰にも、君を邪魔させはしない」

 その言葉を聞いた瞬間、私の心の中にあった最後の氷が、溶けたような気がした。

「……はい、アレクシス様!」

 私が満面の笑みで答えると、アレクシス様はなぜか真っ赤になって顔を逸らした。その首元にまで赤みが広がっているのを見て、私は「この人は、本当はとても優しい人なんだ」と確信した。

 その夜、私は何年も悩まされていた不眠が嘘のように、深い眠りについた。……けれど、私はまだ知らない。私の『お掃除』が、単に城を綺麗にするだけでなく、この国の運命すら変えようとしていることを。


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