身代わりで呪いの公爵に嫁ぎましたが、聖女の力で浄化したら離縁どころか国一番の溺愛妻になりました〜実家が泣きついてももう遅い〜

しょくぱん

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第三章 王都での栄光と、実家の末路

第二十七話 隣国の王子は、掃除をバカにする

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謁見の間に漂うのは、刺すような緊張感だった。
カシアン王子は、アレクシスの剣が喉元に突きつけられているというのに、愉快そうに肩を揺らして笑った。

「おっと、怖い。さすがは『死神公爵』。だが、そんなに殺気を放っては、この可憐な聖女殿が怖がってしまうのではないかな?」

カシアンはレティシアの手を離すと、これ見よがしに自身の白い手袋を脱ぎ捨てた。その瞳は、レティシアを「人間」としてではなく、性能の良い「魔道具まどうぐ」を品定めするかのような、冷酷な光を帯びている。

「……用件を言え。さもなくば、その首をここで落とす」

アレクシスの声は、低く、重い。彼の背後から漏れ出す魔力が、謁見の間の大理石をミシリと軋ませた。

「そう急ぐな。我が国からの提案だ。……レティシア殿、君の『浄化』の力は素晴らしい。だが、この辺境の領地で『お掃除』などと称して無駄遣いするには惜しい才能だ。どうだろう、我が帝国の皇妃として来ないか? 君にはふさわしい、『戦場を洗浄する兵器』としての役目を与えてやろう」

「洗浄……兵器……?」

レティシアは、その言葉に耳を疑った。
彼女にとって、お掃除は誰かを笑顔にし、大切な場所を守るためのもの。それを「兵器」と呼ぶカシアンの感性が、ひどく不快で、そして何よりも「汚らわしく・・・・・」感じられた。

「我が国の軍が通った後に、君が光を放つ。死体も瘴気もすべて消え、我が軍は汚れなき大地を歩むことができる……。素晴らしいと思わないか? 泥臭い公爵家で一生箒を振るうより、ずっと価値があるだろう」

カシアンはそう言うと、わざとらしく鼻を鳴らした。

「……ふん。それにしても、この城は少々『綺麗すぎる』な。鼻につくほどだ。完璧に磨かれた床、澄み切った空気……。公爵、貴殿はよほど暇と見える。それとも、この掃除女の自己満足に付き合わされているのか?」

アレクシスの瞳が、黄金から紅蓮の怒りへと染まっていく。彼が剣を一閃させようとしたその時、レティシアが静かに一歩前に出た。

「……カシアン様。一つ、お伺いしてもよろしいでしょうか」

「おや、興味が湧いたかな?」

「いいえ。……あなた、最後に自分のお心を『お掃除・・・』されたのは、いつですか?」

レティシアの真っ直ぐな瞳に、カシアンは一瞬言葉を詰まらせた。

「……何だと?」

「あなたがこの部屋に入ってから、空気がとても淀んでいます。傲慢な言葉、他人を道具としか見ない冷たいお心……。それがお部屋の隅に、真っ黒な『心の埃こころのほこり』として溜まっているんです。……私、そういう汚れは放っておけません」

レティシアは、腰に下げていた小さな浄化の香炉じょうかのこうろを手に取った。
彼女がそっと息を吹きかけると、そこから眩いばかりの純白の煙が立ち上り、一気に謁見の間を埋め尽くした。

「な、……な、何だ、この煙は!? 目が、目が洗われるようだ……っ!」

カシアンが狼狽し、顔を覆う。
レティシアが放ったのは、単なる煙ではない。相手の「悪意あくい」に反応して浄化する、彼女特製の聖なる霧だった。

「ひっ、……あ、あああ! 身体が軽い……いや、心が……っ!」

カシアンの周囲にこびりついていた不気味な黒い霧が、レティシアの光によって無理やり引き剥がされていく。それは、彼が隣国から持ち込んだ「呪いの種のろいのたね」の欠片だった。

「……お掃除、完了です。カシアン様。少しは、清々しいお気持ちになられましたか?」

霧が晴れた後。そこには、完璧に整えられていた髪を振り乱し、膝をついて激しく咳き込むカシアンの無様な姿があった。

「……貴様、……私に、何を……」

「お掃除ですよ。……アレクシス様、この方、まだ少し『心の奥・・・』が汚れているみたいです。もっと徹底的に磨いた方がよろしいでしょうか?」

レティシアが愛用の箒を手に、にっこりと微笑む。
その天使のような笑顔の背後に、アレクシスが不敵な笑みを浮かべて並び立った。

「……ああ。俺も手伝おう、レティシア。……王子、我が公爵家の『清掃活動』は、まだ始まったばかりだぞ」

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