身代わりで呪いの公爵に嫁ぎましたが、聖女の力で浄化したら離縁どころか国一番の溺愛妻になりました〜実家が泣きついてももう遅い〜

しょくぱん

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第三章 王都での栄光と、実家の末路

第二十八話 奪われる聖女

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レティシアに「心の掃除」を施され、無様に膝をついたカシアン王子。彼は震える手で乱れた髪を掻き上げると、獲物を呪い殺さんばかりの冷酷な眼差しをレティシアに向けた。

「……面白い。これほどまで私を拒絶し、さらに『洗浄』しようとする女は初めてだ。ますます気に入ったぞ。貴様は我が帝国へ連れ帰り、徹底的に作り替えてやる」

カシアンは這いつくばったまま、懐から一通の親書を取り出し、床に叩きつけた。

「ヴォルフェン公爵、これは我が帝国の皇帝――私の父からの『勅令』だ。我が国で発生している原因不明の流行病りゅうこうびょうを鎮めるため、聖女レティシアを貸し出すよう、貴国の国王陛下とも合意がなされている」

「……何だと?」

アレクシスの黄金の瞳が、怒りと驚愕で細められる。
カシアンが突き出した書面には、確かに王国の国印こくいんが押されていた。隣国との外交上の摩擦を恐れた王国上層部が、公爵家に無断でレティシアの「派遣」を内諾してしまったのだ。

「これは『親善』という名の命令だ。拒めば、ヴォルフェン領は二国間の平和を乱した反逆の地として、我が国の軍勢に踏みにじられることになるぞ」

「貴様……っ!!」

アレクシスの指先が、怒りで白く震える。
愛する妻を、呪いの元凶であるはずの隣国へ差し出せという理不尽。だが、ここで剣を抜けば、罪のない領民たちが戦争の渦に巻き込まれてしまう。

「アレクシス様、落ち着いてください……」

レティシアが、アレクシスの震える手にそっと自分の手を重ねた。
彼女の心の中には、カシアンへの恐怖よりも、その「言葉」に潜む汚泥のような澱みが気になって仕方がなかった。

(この方の言葉は、全部真っ黒……。流行病なんて嘘だわ。この方は、私を使って何か『恐ろしい汚れ』を作ろうとしている……)

「猶予は一晩だ。明日の朝、君を迎えに来る。……せいぜい、今夜のうちに夫との別れを惜しんでおくことだな」

カシアンは勝ち誇った笑いを残し、悠然と謁見の間を去っていった。

その夜。ヴォルフェン公爵城の私室で、アレクシスはレティシアを壊れ物を扱うように抱きしめていた。その腕の力は、これまでのどんな時よりも強く、必死だった。

「……行かせない。たとえ国を敵に回そうと、俺が君を連れて北の果てまで逃げる。あんな男に、君を指一本触れさせはしない」

「アレクシス様……。ありがとうございます。でも、私が逃げたら、領民の皆様や、この綺麗な街が壊されてしまいます」

レティシアは、アレクシスの胸に顔を埋めながら、静かに決意を固めていた。
奪われるのを待つだけでは、汚れは落ちない。ならば、自分からその中心に飛び込み、すべてをピカピカに磨き上げるしかないのだと。

「……アレクシス様。私を信じてください。私は、あの方の言いなりにはなりません。……あの方の国にある『汚れの根源』を、私がお掃除してきます」

「ダメだ! 危険すぎる……!」

「いいえ。……私には、アレクシス様からいただいた、この『守護聖女』の称号と、地龍様がついています」

レティシアの言葉に呼応するように、夜空から小さな地鳴りのような響きが聞こえた。

翌朝。
城門の前に現れたカシアンの馬車。それを取り囲むのは、帝国の精鋭からなる黒鉄騎士団くろがねきしだんだった。
レティシアがゆっくりと歩み寄り、馬車に乗り込もうとしたその時――。

「……あはは! さようなら、レティシア! 二度と戻ってこなくていいわよ!」

街の影から、ぼろ布を纏ったミランダが狂気じみた叫び声を上げた。彼女の手には、王都のゴミ山で拾った不気味な魔導書の断片が握られている。

「王子様! その女を連れて行って! その代わり、私を元の場所に……ひっ!?」

カシアンは、ミランダをゴミを見るような目で見下ろすと、無情に言い放った。

「目障りだ。……殺せ」

騎士の剣が振り下ろされる寸前、レティシアの放った光がそれを弾き飛ばした。

「お姉様……汚れていますね。……王子様、行きましょう。ただし、私の『お掃除』を覚悟しておいてくださいね」

レティシアを乗せた馬車が、アレクシスの咆哮のような呼び声を引き裂いて、隣国へと走り出した。

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