身代わりで呪いの公爵に嫁ぎましたが、聖女の力で浄化したら離縁どころか国一番の溺愛妻になりました〜実家が泣きついてももう遅い〜

しょくぱん

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第四章:没落家族の再来と、真の幸福編

第三十六話 泥だらけの再会

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 隣国ガザリア帝国の呪いを晴らし、地龍・天龍と共に空を舞ったレティシア。その伝説的な活躍は瞬く間に大陸中を駆け巡り、ヴォルフェン領は今や「聖なる地」として、かつてない活気に包まれていた。

 しかし、眩い光が強まれば強まるほど、その影に潜む「汚れ」もまた、色濃く淀んでいく。

「ふふ……ふふふ……。見つけたわ、レティシア。私の『すべて』を奪った、忌々しい泥棒猫……」

 ヴォルフェン城下町の外れ、人気のない路地裏。
 そこにいたのは、かつての華やかな面影など微塵もない、薄汚れた女だった。泥と埃にまみれたドレス、ボサボサの髪。そして何より、その瞳にはどす黒い憎悪が宿っている。

 ミランダ・エルフォート。
 王都で汚物処理の刑に処されていたはずの彼女は、混乱に乗じて隣国の残党と接触し、禁忌の魔導具を手に、この地へと這い戻ってきたのだ。

「お嬢様、準備は整いました。……公爵を殺し、聖女を拉致すれば、我らには再び再興のチャンスが……」

 背後に控えるのは、カシアン王子の敗走で居場所を失った、ならず者の魔術師たちだ。

「ええ、分かっているわ。……レティシア、あんな女にあの綺麗な城は似合わない。泥とゴミの中で泣き叫ぶのが、あの『掃き溜め女』にお似合いの姿なのよ!」

 ***

 そんな不穏な動きなど露知らず、城の中ではアレクシスがレティシアを離そうとせずにいた。

「レティシア、もうどこへも行かせない。……隣国の件で、俺の寿命が十年は縮まった気分だ」

「ふふ、アレクシス様、大袈裟ですよ。……でも、私も寂しかったです。こうしてお城の廊下を歩いていると、やっぱりここが一番落ち着きますね」

 レティシアはアレクシスの腕に寄り添いながら、窓から見える美しい街並みを眺めた。
 しかし、彼女の鋭い「お掃除感覚」が、微かな違和感を捉える。

「……? アレクシス様、なんだか変な臭いがしませんか?」

「臭い? いや、何も感じないが……」

「いえ、絶対におかしいです。……これは、ただのゴミの臭いじゃない。誰かの『悪意あくい』が煮詰まったような、ひどく不快な臭いです……」

 レティシアが眉をひそめたその瞬間、街の北側から黒い煙が上がった。
 それは火事の煙ではない。魔力によって増幅された、人為的な「汚染の霧おせんのきり」だった。

「――来たか」

 アレクシスが瞬時に「死神」の表情に戻り、レティシアを自身の背後へ隠す。

「レティシア、城から出るな。俺がすぐに片付けてくる」

「いいえ、アレクシス様。……この汚れ、お姉様の臭いがします。……私が、決着をつけなきゃいけないんです」

 レティシアは、これまでで一番硬い表情で愛用の箒を握りしめた。
 泥だらけの過去が、今、幸せの絶頂にある二人を汚さんと、牙を剥いて迫っていた。

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