身代わりで呪いの公爵に嫁ぎましたが、聖女の力で浄化したら離縁どころか国一番の溺愛妻になりました〜実家が泣きついてももう遅い〜

しょくぱん

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第三章 王都での栄光と、実家の末路

第三十五話 心の汚れも浄化します

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 天龍から吐き出された『呪いの核のろいのかく』が砕け散ると同時に、極北を覆っていた黒い霧は嘘のように晴れ渡った。
 しかし、地上では未だに、往時を忘れられぬ亡霊たちが悪あがきを続けていた。

「ありえない……。我が一族が、千年の時をかけて育てた呪いが、あんな小娘の光一つで……!」

 極北の氷壁に築かれた即席の陣営で、カシアン王子は狂ったように叫んでいた。
 彼の周囲には、帝国の残党魔術師たちが、最後の魔力を振り絞って形成した「瘴気の防壁しょうきのぼうへき」が揺らめいている。それは他人の命を吸い取り、悪意を煮詰めて作った、文字通りの『心の汚れこころのよごれ』そのものだった。

「カシアン王子。……往生際が悪いですよ」

 上空から、銀色の光を纏ったアレクシスに抱かれ、レティシアが降り立つ。
 二人の足元に広がる雪原は、レティシアが歩くそばから浄化され、真っ白な輝きを取り戻していく。

「来るな! 呪われろ! 貴様らさえいなければ、私は世界の王になれたのだ!」

 カシアンが震える手で魔導具を起動し、どす黒い雷を放とうとした。
 だが、アレクシスが剣を抜くよりも早く、レティシアが静かに箒を横に振った。

「……あなたのその怒りも、悲しみも。全部、誰かの幸せを奪ってまで手に入れたいものですか?」

 レティシアの瞳から溢れ出たのは、憐憫ではなく、徹底的な「清掃への意志せいそうへのいし」だった。
 彼女の背後に、地龍と天龍が幻影のように重なり、強大な浄化の風を巻き起こす。

「嫌な思い出も、どろどろした野望も……全部、私が洗い流してあげます。……お掃除、完了です!」

 ――キィィィィィィィィン!!

 耳を打つ澄んだ音と共に、カシアンを包んでいた瘴気が粉々に砕け散った。
 それだけではない。彼の中にあった「魔力」そのものが、レティシアの究極の浄化によって、一切の悪意を奪われて無力化されたのだ。

「あ……が、……ああ……」

 カシアンの瞳から色が消える。
 かつて彼を突き動かしていたどす黒い熱は消え、そこには空っぽになった男だけが残された。魔力を失い、野望を洗われたカシアンは、もはや立ち上がることすらできない。

「……殺せ。魔力のない皇族など、帝国ではゴミ同然だ……。いっそ、ここで……」

「殺しはしません。……あなたはこれから、自分の汚した世界を、自分の手で綺麗にしていかなくてはならないんですから」

 レティシアは冷たく突き放すのではなく、淡々と、そして厳しく言い放った。
 傍らでアレクシスが、彼女の肩を抱き寄せ、カシアンを見下ろす。

「安心しろ。貴様の身柄は我が国で引き取る。……二度と日の当たる場所で悪だくみができぬよう、一生を費やして償ってもらうぞ」

 カシアンは無様に地面に這いつくばり、涙と鼻水にまみれて敗走するように連行されていった。

 隣国の脅威は去った。
 しかし、レティシアとアレクシスはまだ知らなかった。
 王都から逃亡し、ゴミ山で怨念を募らせていたミランダたちが、この「浄化の光」の影で、自分たちの領地へと這い寄っていることを――。

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