身代わりで呪いの公爵に嫁ぎましたが、聖女の力で浄化したら離縁どころか国一番の溺愛妻になりました〜実家が泣きついてももう遅い〜

しょくぱん

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第四章:没落家族の再来と、真の幸福編

第四十四話 呪いの消えた夜に

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 世紀の結婚式を翌日に控えた、静かな夜のことだった。
 ヴォルフェン城の最上階にあるバルコニーで、アレクシスは独り、冷たい夜風に吹かれていた。かつて彼を包んでいたどす黒い瘴気はほとんど消え失せていたが、心臓の奥底にだけは、いまだに針の先ほどの小さな「黒い染み」がしつこくこびりついている。

「……死神の、最後の一片か」

 彼が指先を凝視すると、そこから僅かに冷たい黒霧が立ち上る。それは歴代のヴォルフェン公爵が背負ってきた、孤独と絶望の記憶そのものだ。これが残っている限り、アレクシスは真の意味でレティシアと同じ世界を歩める自信が持てなかった。

「まだ、起きていらしたんですね」

 背後から、温かな光を纏ったレティシアが歩み寄ってくる。彼女の手には、いつもの箒ではなく、一杯の温かなハーブティーが握られていた。

「レティシア。……明日は早い。先に休んでいろと言っただろう」

「アレクシス様が、また一人で寂しい顔をしていらっしゃる気がしたんです。……それ、まだ残っているのですね?」

 レティシアの澄んだ瞳が、アレクシスの指先にある黒い霧を捉えた。
 アレクシスは自嘲気味に指を隠そうとしたが、レティシアはその大きな手を優しく両手で包み込んだ。

「大丈夫です。……お掃除聖女の名にかけて、今夜中にその『最後の汚れ』もピカピカにして差し上げます」

「しかし、これはただの汚れではない。数百年かけて蓄積された、我が一族の呪いだ。君の浄化魔法でも、完全には……」

「魔法だけじゃありません。……アレクシス様、今夜は、一晩中私の手を離さないでください」

 レティシアはアレクシスの瞳を真っ直ぐに見つめ、顔を赤らめながらも言葉を続けた。

「この呪いは、孤独を餌にして生きているんです。だから、私がずっとそばにいて、『あなたはもう一人じゃない』と伝え続ければ、消えてしまうはず。……手を取り合って、心を重ねることが、一番のお掃除なんです」

 アレクシスの胸に、熱い衝撃が走った。
 彼は吸い寄せられるようにレティシアを抱き寄せ、寝室へと運んだ。
 
 部屋には、レティシアが事前に用意した特製の浄化香が焚かれ、月光が銀色のカーテン越しに二人を優しく照らしている。
 アレクシスはベッドの上でレティシアと向き合い、その柔らかな指を絡めた。

「……本当に、いいのか。一晩中、俺の情欲に近い独占欲に付き合わせることになるぞ」

「望むところです、アレクシス様。……さあ、お掃除の時間です」

 レティシアが微笑み、アレクシスの額に自分の額をコツンと当てる。
 彼女の全身から、これまでにないほど温かく、深い愛の魔力が溢れ出した。それはアレクシスの血管を通り、心臓の奥深くに隠れていた「黒い染み」を優しく包み込んでいく。

 アレクシスの脳裏に、かつての暗い記憶が走馬灯のように流れた。
 冷たい視線、忌み嫌われた幼少期、一人で戦い抜いた戦場。
 だが、そのすべての景色を、レティシアの箒が掃き清め、彼女の笑顔が塗り替えていく。

「アレクシス様……大好きです。愛しています。……もう、怖くないですよ」

 レティシアの囁きが、呪いの最後の抵抗を溶かしていった。
 アレクシスの体から、シュウ……と音を立てて最後の黒い霧が霧散する。それと同時に、彼の金色の瞳からは冷たさが完全に消え、愛する女だけを見つめる、熱く純粋な光だけが残った。

「……消えた。……本当に、消えたんだな」

「はい。……お掃除、完了です」

 レティシアが満足げに微笑んだ瞬間、アレクシスは耐えきれず彼女を押し倒し、その唇を深く奪った。
 呪いの消えた体は、驚くほど軽く、そして彼女の熱を敏感に感じ取っている。

「レティシア……。今度は俺の番だ。君を、一生かけて、世界で一番幸せな『汚れのない場所』へ連れて行こう」

 二人は、夜が明けるまで何度も愛を誓い合った。
 窓の外では、明日への祝福を予感させるように、一番星がかつてないほど高く、美しく輝いていた。

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 【第四十五話の予告】

アレクシスから完全に呪いが消えた翌朝。
ヴォルフェン領には、ミランダたちの末路を伝える風の噂が届きます。
彼女たちが送られた「死の荒野」で、彼女たちは今、どのような「掃除」を強いられているのか。
一方で、レティシアは花嫁衣裳を身に纏い、ついに結婚式の朝を迎えます――。
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