身代わりで呪いの公爵に嫁ぎましたが、聖女の力で浄化したら離縁どころか国一番の溺愛妻になりました〜実家が泣きついてももう遅い〜

しょくぱん

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第四章:没落家族の再来と、真の幸福編

第四十三話 レティシアの願い

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 ヴォルフェン公爵城の重厚な扉を叩き、無礼極まりなく踏み込んできた中央教会の調査団。そのリーダーであるバルガス司教は、金糸で刺繍された仰々しい法衣を揺らし、蔑むような視線をレティシアへと向けた。

「至聖女だと? 笑わせる。教会の洗礼も受けず、聖典の暗唱もできぬ小娘が、あろうことか地龍を操り、国の呪いを解いたなどと……。それは神の奇跡ではなく、人を惑わす『異端の魔術』ではないのか?」

 バルガス司教の声が、高く美しい天井に反響する。背後に控える十数人の修道騎士たちは、一様に無表情で、その手には異端者を拘束するための魔力封じの銀鎖が握られていた。

「異端……。私が、ですか?」

 レティシアは、アレクシスの逞しい背中の後ろから、そっとバルガスを見つめた。
 彼女の目に映ったのは、神への信仰心ではない。何百年もの間、教会の権威を守るために積み上げられ、カビが生えて硬くなった「思考の垢しこうのあか」だった。

「司教様。私は難しいことは分かりません。でも、汚れている場所を綺麗にしたいと思う気持ちに、教会の許可が必要なのですか?」

「黙れ! 神の秩序を乱すことが最大の汚れなのだ! さあ、ヴォルフェン公爵。その娘を引き渡せ。中央聖堂の地下にある『審判の間しんぱんのま』にて、七日七晩の儀式を行い、その魂が清浄か否かを確認させてもらう」

 「審判の間」――。そこへ連行された者で、まともに戻ってきた者はいないという噂をアレクシスが知らないはずがなかった。
 アレクシスの周囲の空気が、ピきりと凍りつく。彼の足元から影が伸び、まるで生き物のように司教たちの足元へ這い寄っていった。

「……バルガス。貴様、今自分が誰の城で、誰に口をきいているか理解しているか?」

 アレクシスの声は、もはや人間のそれではなく、地獄の底から響く死神の宣告だった。
 彼はゆっくりと腰の魔剣に手をかける。その瞬間、室内のシャンデリアが激しく揺れ、窓ガラスにヒビが入った。

「俺の妻を『地下』へ連れて行くだと? ……その前に、貴様ら全員を、二度と光の差さぬ場所へ送ってやろうか」

「くっ……な、なんだこの圧は……! 公爵、これこそが貴殿の家系が呪われている証拠だ! 異端の女を囲い、教会に牙を剥くとは!」

 一触即発の事態。アレクシスの殺気が爆発する直前、レティシアが彼のコートの裾をぐいっと引っ張った。

「待ってください、アレクシス様! ここで喧嘩をしたら、せっかくの衣装部屋が台無しになっちゃいます!」

「レティシア、しかし……!」

「大丈夫です。……司教様。私、そちらへ伺います。でも、その前に一つだけお願いを聞いていただけませんか?」

 レティシアの予想外の言葉に、バルガス司教は鼻を鳴らした。

「ふん、命乞いか? 潔く罪を認めるなら、少しは罰を軽くしてやらんこともないが」

「いいえ。……司教様たちが持っていらっしゃる、その教典。とっても『汚れて』います。それから、その法衣も。……まずは、それをピカピカにお掃除させてください。お話はそれからです」

「……は?」

 バルガスが呆気に取られている間に、レティシアは自分の愛用する「黄金の箒」をスッと構えた。
 彼女が精神を集中させると、箒の先から柔らかな、しかしどこまでも透明な光が溢れ出し、部屋全体を包み込んでいく。

「お掃除、開始です!」

 レティシアが空を仰ぐように箒を振るうと、光の粒子が雪のようにバルガス司教たちに降り注いだ。
 それは単に服の汚れを落とすだけのものではない。バルガスたちが長年の政治闘争や嫉妬で溜め込んできた「心の澱み」を、優しく、徹底的に分解していく光だった。

「な、なんだ……体が軽い? それに、この教典が……」

 バルガスが驚愕して手元の教典を見る。
 黄ばんでいた羊皮紙は新品のように白くなり、そこに記された「神の言葉」が、まるで今書かれたばかりのように鮮やかに輝き始めた。司教の心の中にあった「公爵家への嫉妬」や「権力への執着」が、シュワシュワと音を立てて消えていく。

「……あ、ああ……私は、一体何を……。神の教えは、民を救うためのものであって、人を裁くためのものではなかったはずだ……」

 バルガスの目から、ポロリと一筋の涙が溢れた。
 レティシアの浄化は、強硬な調査団の心を、わずか数秒で「お掃除」してしまったのだ。

「司教様、スッキリしましたか?」

 レティシアがニコリと微笑むと、バルガスは力なくその場に膝をついた。

「……参った。……これほどの清らかな力。これを異端と呼ぶ者は、それこそが真の異端であろう。ヴォルフェン公爵、失礼を詫びる。……彼女は、本物の聖女だ」

 調査団が、もはや戦意を喪失して平伏する。
 アレクシスは毒気を抜かれたように剣から手を離し、呆れたように溜息をついた。

「レティシア……君は、本当に底が知れないな。教会を掃除して黙らせるとは」

「えへへ、だって司教様たち、とっても肩が凝っているような顔をしていたんですもの」

 嵐が去った後、レティシアは改めてアレクシスの目を見つめた。

「アレクシス様。結婚式の準備のことですけど……私、やっぱり思いました。豪華な宝石や、高価なドレスも素敵です。でも、私が一番やりたいのは、この光を、世界中の人たちに届けることです」

「……レティシア?」

「世界中から集まってくれる人たちが、ここに来て、みんな心も体もピカピカになって帰っていく。そんな、世界一『清々しい』式にしたいんです。宝石の数よりも、みんなの笑顔の数でいっぱいにしたい……。それが私の、本当の願いです」

 アレクシスは、その眩しすぎるほどの利他的な願いに、一瞬だけ言葉を失った。
 彼はレティシアをそっと抱きしめ、その柔らかな髪に頬を寄せた。

「……君らしいな。分かった。俺の財力と権力は、君が願う『笑顔』を作るために全て注ぎ込もう。……ただし、これだけは譲らん」

 アレクシスは、レティシアの耳元で熱く囁いた。

「式の後の『夜』だけは、世界のためではなく、俺一人のためにその光を使ってくれ。……いいな?」

「あ……っ、ア、アレクシス様! 職人さんたちがまだ見てますからっ!」

 レティシアが真っ赤になってジタバタするのを、アレクシスは満足げに、そして独占欲に満ちた瞳で眺めていた。

 こうして、ヴォルフェン領での「世紀の結婚式」の準備は、単なる貴族の儀式を超え、世界を救うための「大浄化祭だいじょうかさい」へと、その形を変えていくこととなったのである。

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あともう少しで完結してしまいます。。今まで読んでいただきありがとうございました。こ残りわずかとなりましたので、最後に予告を載せさせていただくことにします。

【第四十四話の予告】

結婚式を目前に控え、最後の難関。 アレクシスの体にわずかに残る「死神の残り香(呪いの最後の破片)」を完全に消し去るため、レティシアはある特別な浄化方法を試みることに。 それは、一晩中アレクシスと手を取り合い、心を重ね続けるというもので……!? ついに、呪いの消えた本当の夜がやってきます。
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